ダーク・ファンタジー小説

Re: 自由を求めて ( No.4 )
日時: 2019/09/21 19:19
名前: サクマ (ID: mG18gZ2U)


目が覚めると、叔母さんの家の屋根裏部屋で寝ていたようだ。
あれからどうやって帰ったのか思い出せず、夢なのかと思ったが握った拳の中に折り畳まれた紙が二枚クシャとなって入っていたのを見て、夢じゃなかったんだと思う。

急な寒気にぶるっと体が震えた。はあっと吐いた息は白くて辺りの音が聞こえないほど静かだった。
さっきまで真夏のように暑くてギラギラ光る太陽が肌を焼いていたのに、半袖短パンにサンダルを履いていた俺は、さっきお爺さんと会ったばかりの服装をしていて、隙間風の入る屋根裏部屋の寒さに凍りそうで、慌てて下の階へ降りる。

両腕を擦りながら、脱いだサンダルを片手に階段を降りると叔母さん達も急いで服を着替えていた。

「全くこんなの、有り得ないわ!」
「真夏に雪が降るなんてな」
「寒いよ、ママ!」
「……。」
「あら、あんたも起きたのね。さっさとこれに着替えたら?」

皆が棚の奥から出された分厚くて暖かそうな服を着るのに対して、叔母さんから渡された服は長袖ではあるが秋用の薄手のワイシャツタイプで少し汚れていて鼠に齧られたのか穴も空いていた。
ペラペラとしたソレをお礼を言って受け取り、上から重ね着る。

外へ出ると、既に10センチほど雪が積もっていて、曇り空からはとめどなく白い結晶が振り続けている。他の家の人もザワザワとして夏服で家に入り厚着で出てくるところを見ると、本当に急に気候が変わったと実感する。

寒さに震える手でポケットにしまっていた紙を取り出す。
手始めに向かうように言われた場所は案外近くて、大まかな地図しか書いていないのになんだか「ココだよ」と呼ばれるように俺は勘頼りに歩き始めていた。

Re: 自由を求めて ( No.5 )
日時: 2019/09/21 19:34
名前: サクマ (ID: mG18gZ2U)


「…寒い…」

導かれるように雪山へ入って行くと、降っていた雪は吹雪に変わり、目の前は真っ白で歩くことも辛くなってくる。

無意識に寒いと呟いて、太股の高さまである雪に「冷たい」と言うのが正しいか、なんて思う。
太い木に隠れるように凭れ風を凌いで「俺、このまま死ぬのかな?」なんて思う。

真っ白な世界、動かない体、心まで凍らそうと冷たさが迫ってくる感覚。

(…あれ、なんだか…眠たくなってきたな…)

自分で思ってることなのか口に出してる言葉なのかも分からなくなってくる。鼻呼吸なんて忘れて口で呼吸するたびに喉が痛む。

瞼を閉じると視界が暗くなるから、出来るだけ開けていたい。

(真っ白な世界、綺麗だな…父さん母さんと見たかった…)

もう耳には吹雪の風が鳴らす音も聞こえない。

(こんな白い世界に囲まれて…幸せなまま、死んじゃっていいのかな…?)

なんだか可笑しくて笑ったら心臓がズキッと痛んだ。まだ自分が生きてるのか分からなくて瞼を開けようと少し力を入れる。
僅かに開いた視界から見れたのは黒く滲んだ影のようなものだった。

Re: 自由を求めて ( No.6 )
日時: 2019/09/21 20:09
名前: サクマ (ID: mG18gZ2U)


目を覚ますと木で丈夫そうに造られた天井が見えた。横を見ると火が見えた。
天井から吊るされた鉄の棒に鍋の取っ手を引っ掛けて、鍋を包むように火が燃えている。

村が燃えていた時と同じ色、全焼した家を思い出す。火から目が離せない。

「あ、起きたの?」

俺と火の間に入ってきた顔に視線を合わせる。鎖骨まである深い青い髪、黒のフードを被っていて可愛らしい顔の少女。俺の顔を覗き込んで暫し見つめあったあと、スッと離れていった。

「死んだのかと思ったよ」

少し離れた所でガサゴソ音がする。落ち着いた声は鼻声のようで妙に安心感を与える。
ぼうっとする頭のまま上体を起こしてまた鍋の方を見ると戻ってきた少女が少し歪な形の茶碗と汚れたスプーンを手渡してきた。

「はい、これで食べて。ちょっと汚れてるけど使えるでしょ?」

無表情の少女は命令口調なのに行動は優しくて、もう一度彼女を見ると、その服装に驚いた。
黒いフード付きのマントを被っただけで、中は白い袖無しのワンピース姿で裸足だった。

確かに季節が一変して服がなかったというのも有り得なくない訳では無いが、これでは火がないと生活ができないだろう。外は吹雪の降る真冬なんだから。

あんぐりと開いた口が塞がらない俺の手から待ちきれなかったのか器を奪い取って、火にかけたままの鍋の中からオタマで掬って入れると俺に器を差し出す。
渡されるままに受け取り「早く食べて」という視線に促されるように、汚れを自分の服で拭ったスプーンで掬って口に含む。

「ッあっつ!」
「あ、ごめん、熱かった?」

下についた米が熱すぎて思わず上を向く。ハフハフと息をしながら冷やして飲み込む。でも熱さのおかげで冷えた体がより温まった気がした。

米を水に付けて沸かしただけで出来る粥を作ってくれたみたいだ。おかしいなとレシピにしているのかボロボロのノートを開いて唸る少女に少し和む。

暫くすると、轟々と燃え盛る炎に汗が出てくるほど暑くなってくる。平気そうにしている彼女に小さく声をかけてみる。

「ね、ねえ」
「ん?」
「暑くない?」
「え?…あぁ、暑かった?ごめん」
「いや、全然平気なんだけど!」
(え?…なんでだ?)

ごめんと何故か謝る彼女に両手を前に出して大丈夫だと告げる。燃え盛っていた炎が小さくなったのに不思議に思った。

Re: 自由を求めて ( No.7 )
日時: 2019/09/21 20:32
名前: サクマ (ID: mG18gZ2U)


黙っている少女に俺は沈黙の空気を切る。

「あのさ、きみが俺を助けてくれたの?」
「うん、そうだよ」
「…寒くなかった?その服装で」
「……うん、ボクが外に出た時は雪も止んでたし」

少女なのに一人称は僕だと知る。それでも何か隠すように背中を向けた少女は部屋の奥に向かう。
俺は少女の発言に疑問を抱く。
(いくら雪が止んでいたとしても、積もる雪の中、ワンピースに裸足で出て寒くないわけがない。これ以上聞かれたくないのかも)

「ここには、一人で住んでるの?」
「…うん、一人でも居心地いいよ?」
「いつから?」
「…それって、言わなきゃダメかな?」
「ううん、言わなくてもいいんだけd」
「じゃあ言わない!」

俺の質問に柔らかい口調で返すけど背中を向けたまま動かない少女に少し違和感を感じる。俺の質問に彼女が答えたくなさそうだったので答えたくないならいいよと返せば、食い気味で言わない選択をして、振り返った彼女は口に孤を描いて俺の近くに正座する。

「次はボクが質問する番ね?」

そういう遊びをしていたわけじゃないけど、可愛くて首を傾げて遊ぼうという瞳をされると断れなかったし、実際自分から聞いたのだから断る権利もないだろうと頷いた。

「いいよ。何が聞きたい?」
「うーん、そうだなあー。キミはなんであんな所に居たの?」
「…それは…」
「言えない?誰かに頼まれたとか?」

少女は優しげな口調とは裏腹に目が殺気立っていて、誰にも言えない頼まれ事を話してもいいか分からず押し黙ってしまう。聞かれたくない質問をピンポイントで聞かれることに不安と恐怖を感じて冷や汗が出てくる。

「誰かを、捜してる…とか?」

ピクッと肩が反応してしまった。