ダーク・ファンタジー小説

Re: 自由を求めて ( No.8 )
日時: 2019/09/22 00:51
名前: サクマ (ID: mG18gZ2U)


「ふぅん。それで?見つかったの?」
「…え?」
「その人」
「…いや…」

先程までの幼い少女とは雰囲気が一変して少し離れた所にある椅子に座った彼女は脚を組んで俺を見下ろす威圧的な態度をとる。
彼女の質問に目当ての人は見つかっていないとだけ伝えようと首を横に振る。すると少女は質問を変えた。

「…見つけたらどうするの?」
「えっ?みつけたら?」
「そう。捜してたその人が見つかったら、キミはどうしたいのかな?って」

俺はその質問に困った。
どうするもなにも、お爺さんから言われたことは「彼らを自由にすること」だった。確かにどうすればいいのだろう。
そこで妙案が浮かぶ。

「あ!俺は、その人を見つけたら聞くよ!」
「なにを?」
「いま、その人は自由なのか」
「…自由?」
「そう!何にも縛られずに生きてるかとか今の生活で満足してるか、聞こうと思ってる」

自信満々にそう言うと、少女は椅子から立って俺に近づいてきた。
俺を見る目は、もう殺気だってなんかいなくて、柔らかく微笑んだ少女の笑顔は心から出ているものだと初めて思った。

「自己紹介がまだだったね、ボクはミカエルって呼ばれてるよ?よろしくね」

Re: 自由を求めて ( No.9 )
日時: 2019/09/22 07:27
名前: サクマ (ID: mG18gZ2U)


「あ、俺はサクマ。よろしく!…ところで、呼ばれてるっていうのは?」
「うーん、ボクちょっと記憶が一部無くなってるんだよねー」
「記憶が無くなってる…?」
「うん、そう。思い出せないの」

それは単に忘れているだけではないかと思うがあえて突っ込まないことにした。

「ボクはキミを信じてみようと思う」
「…はい」
「だから、キミもボクのことを裏切らないでほしいんだ!」
「…うん、なるほど…」
「ボクの秘密も守ってくれる?」

後ろ手に腕を組んで体を揺らす少女は甘える仕草で言う。秘密ごとなんて言ってもたかが知れてるだろうと思って聞き流すふりを貫くつもりで頷いた。

「うん、いいよ」

基本的には無表情な彼女が頬を緩ませはにかんで笑う姿に愛しく思う。心を開いてもらえたようで嬉しい。

「ボクはね……」
「はい」
「普通の人間じゃないの」
「はい…え?」

なんの冗談かと思って、受け取るのに少し時間がかかる。だって、どこからどうみても少女で人間の風貌なのだ。

Re: 自由を求めて ( No.10 )
日時: 2019/09/23 15:08
名前: サクマ (ID: mG18gZ2U)


「すぐに信じてとは言わないよ、後々嫌でも分かるだろうし」
「…うーん、そっかぁー…」
「ただ、認めた時にはキミも共犯だよ?」
「共犯って…なにか悪いことしたんですか?」

急に犯罪に加わる展開になって、それは嫌だと感じて詳しく聞く。

「うーん、あんまり覚えてないけど…キミ達からするとボクらは敵で…ボクらは始末しなきゃいけない相手なんでしょ?」
「いやいや、悪い罪を犯してない限り、そんな始末だなんて…」
「ボクらはキミらにとって生きてる事が罪になるんだよ」
「え?だってキミは普通の」
「普通の人間…?」

俺の言おうとした言葉を遮って少女は嘲笑う。
そこでさっきの彼女の言葉を思い出す。

「キミがそう言い続けてくれるとボクも嬉しいけど…」
「…え?」

少女がボソッと言ったのはよく聞こえなかった。

「さあ!キミは何故ボクのことを知ると共犯になるのか、詳しく話してなかったよね!」
「あ、ああ、うん。そうだね」
「さっきも話した通り、ボクらが生きてる事がキミらにとっては罪!ってことは、知ってて黙るキミは黙秘してたってことで罪になるのさ!どう?これで分かった?」
「そんな!」

俺は彼女の言う世界線についていこうと思った。
小学生か中学生か分からない曖昧な少女は、所謂小さい時に流行るアクション俳優になりきることで実際に魔法とか使えるとか思い込んでる年頃なのだろう。

Re: 自由を求めて ( No.11 )
日時: 2019/09/23 15:34
名前: サクマ (ID: mG18gZ2U)


彼女のノリに合わせるためにオーバーにその場で立ち上がって反応してみると「いい反応だね」と誉められる。

「…キミも自分の命が惜しければ大人しくお家に帰りな」
「は?なんで?なんでそうなんの?」

立ち上がった俺の背中を押して小屋から追い出そうとする少女に玄関先で立ち止まって思わず疑問を口にする。

「罪を被って殺されたくないだろう?」
「いやいや、小さい子供をこんな所に一人残して帰る方が罪になりそうだよ」
「小さい…?」

小さいと言うと押すのをやめて止まるミカエルに禁句だったかな?と思ったので別の提案をしてみる。

「ミカエルも山を降りるなら帰るけど?」
「…キミってばやっぱり誰かの手先なの?」

下からフード越しにギラりと睨みつけれる。さっきまでの雰囲気と同じなはずなのに今は恐怖を感じなかった。
それよりもお爺さんのことについて聞かれたくなくて、そっちの焦りの方が大きい。

「いや、そういうんじゃないけど。とにかく!俺はここから出ない!ミカエルを一人にはしないから!」

玄関のドアの縁を押さえて出ていかないし帰らない意思を伝えると、諦めてくれたのかミカエルは種を返した。

「はあ…もういいよ。危機感がないんだから…自分の身は自分で守りなよ?」
「大丈夫だって!なんとかなるよ!街の人に話が通じなかったら俺が間に入るし!」
「だから、間に入ったらキミも殺されるだけだって言ってるのに!」
「大丈夫、大丈夫!大袈裟だな、ミカエルは!」

俺が一緒に居てやると言うと照れてるのか俺を突き放す口実をつけてくるが、そんなのお構い無しだ!なにを不安がっているのか分からないが安心してもらうために肩を軽く叩いてやる。
自分に親身になってくれる生意気な妹が出来たみたいで浮かれていた。

「逃げるなら今のうちだよ?誰かに見つからないうちに家に帰った方がいい。道案内ならボクがするし、今は雪だって降ってな」
「まだ言うか!」

ぽそぽそと俺に帰るように促すミカエルの言葉を遮るように頭をくしゃくしゃする代わりにフード越しに頭を揺らしてやった。
そうすると鬱陶しくなったか俺の腕を払って「あーもう!ホントに知らないからね!」と頬を真っ赤にして言った。
俺には小さい友達ができた。