ダーク・ファンタジー小説
- Re: ゴーストトレイス ( No.7 )
- 日時: 2019/10/16 19:35
- 名前: 春先雪華。 (ID: xs5T8t9X)
車を止めて窓を開ける。そよ風が吹く清閑の地。車を降りて少し坂道を上る。
辿り着いた寺、仏像の前に座っている僧にエトは「すみません」と声を掛けた。
「霊障対策課の神導エトです。あの貴方が藤堂さんですか?」
「いらっしゃい…そっちの子は君の仕事仲間か。さぁ入って入って。君には話すべきことが
ある。今だからこそちゃんと知っておかなくちゃならん」
靴を脱いで寺の中に入る。藤堂倉之助という僧は二人分の座布団を用意し二人の前に
座り直す。
「昔…強い鬼神がいた。鬼神の名は槐、槐はある人間に恋をした。名を小夜という、
とても美しい女性だ。鬼はその女に告白をした…彼女もまた槐に思いを寄せていたため
二人は仲良く暮らした」
「…?なんだ?そんな話なのか?」
口を挟む興信をエトが無言で睨み黙らせる。それを見た住職は微笑み「重要なのは
ここからだ」そう言ってから再び口を開く。
「小夜には婚約者がいた。地主の鬼道院だ、その男は金持ちでな。小夜を有無も聞かずに
自身の婚約者にしてしまった。だが小夜は槐の方を選んだ。鬼道院は勿論、自身の許嫁を
鬼神に横取りされたのだから怒った。槐がいない間に鬼道院は槐の家から小夜を拉致し
すぐに子どもが出来た。それからだ…槐が怒り狂った」
住職が険しい顔をする。
「見境なく鬼道院を殺すために多くの人間を殺しまわった。ついに鬼道院を殺した時、
彼の腕の中には腹を裂かれ死んでいる小夜がいた…そして腹には小夜の子がいた。
自我を取り戻した槐は小夜の子を抱いた。そしてその子に呪いをかけた。内容は知らないがな…」
「その小夜さんの子が…夜叉丸君の子孫ってことですね」
「そうだ。そしてお前さんの父親イザナが封印術を施した。彼と同じ霊力を持つ君でなければ
描いても意味はない。槐に憑かれている子は恐らくこの辺りに隠れている。君の後輩は
鬼に負けてしまう弱い子はいないだろう。さぁ、これを持って、急いで行きなさい。君も
いざとなったら彼女を守ってあげるんだぞ」
手渡された包みを抱えたまま森林の中を歩く。段々暑くなってきた。