ダーク・ファンタジー小説

Re: ゴーストトレイス ( No.8 )
日時: 2019/10/16 20:58
名前: 春先雪華。 (ID: xs5T8t9X)

大きな鬼神はエトを見下ろす。エトは呆然と鬼神を見つめていた。最早夜叉丸の
面影は残っていない。これが槐。

「じゃあ危なくなったら助けるんで」

そう言って離れた興信。もう一度、エトは槐に乗っ取られた夜叉丸を見つめる。
そして手を伸ばす。

「早く、来て。戻ってきて」

微かに聞こえる、唸り声と共に小さな声「逃げてください」という声。その言葉をエトは
拒絶する。下手すれば本当に取り返しがつかないことになる。殺さなければならなくなる。
それだけは避けるために来た。

「それは…出来ないよ。逃げるなんて…それは先輩として許さない。私を逃がして
どうするの?その先は…一生ここで隠れてるつもり?ここで自害するつもり?折角
一回、呪いから救ってもらったのに…その命、捨てるつもり?」

険しいエトの表情は優しい顔に変わった。

「私は霊能力を持たないから凄いことは出来ない。それこそ助けるなんて出来ないかも
しれないから…私は信じるだけだよ」
『人間の、娘よ…非力なお前が何故そこまでする』

低い声、槐本人の声だ。

「私、霊能力が無いから戦闘があるだろうって予想される霊障に向かう時はいつも
誰かが付き添う…夜叉丸君もいつも私についてきてくれて慕ってくれたから…
答えなきゃね」
『心の強い女だ…それならば、返してやろう』
「うわっ!?」

強い熱風に煽られ、腰が抜ける。興信に支えられどうにか立っていた。消えた槐は恐らく
夜叉丸の体の中に戻ったのだろう。ここからはエトの仕事だ。彼を寺まで連れて行った。

「…先輩」