ダーク・ファンタジー小説

Re: ゴーストトレイス ( No.11 )
日時: 2019/11/06 18:56
名前: 春先雪華。 (ID: xs5T8t9X)

火柱が上がっていたであろう場所に足を置くと軋み片脚が下へ沈む。その穴はエトの
体重で大きくなり彼女を呑み込んだ。声も上げずに落ちていった彼女に気付いたのは
数分後、夜叉丸が声を掛けた時だった。返事が無かった。

「あらら…落ちちゃったみたいだね。その下はコンクリートのはずだ、無事じゃすまないだろうね」
「テメェ…俺らの上司だったからって調子に乗るなよ?それにアンタ、無線機も持ってねえらしいな」

興信が不敵な笑みを浮かべた。

「聞こえねえのかババア。応援隊の声がよぉ!」

背中を下に向けて落ちていくエトの耳に誰かの声が聞こえた。エトの体は誰かに支えられ
ゆっくりと地面に足を付けた。

「グッドタイミングだったみたいねエトちゃん。ラッキーよ」

八咫野が小さく微笑み頷いた。エトも胸を撫でおろし彼らに礼を述べた。周りに目を向けると
そこには粗末な墓があった。線香も無ければ花も無い。墓石には国木田律子と名前が
彫られている。

「律子さんの旧名ね。結構古い墓だと思うわ」

麗は肩に掛けていたバッグから線香を取り出し火をつける。辺りに線香の独特な匂いが
漂っている。

「花は持ってこれなかったけど線香だけでもあげましょう。あの人を倒すのは正直難しいわ。
なら弔って成仏させるしかない。そうすれば多少は弱まるはずよ」

麗、八咫野、エトはそれぞれ線香をあげた。そして手を合わせる。そしてエトに向き変る。

「で、上から落ちて来たけど…もしかしてあの人は上にいるの?」
「今は夜叉丸君と興信君が相手しているはずです。急ぎましょう!」
「そうね…最後ぐらいしっかり目に焼き付けておきましょう」

上の階へ急ぐ。階段を駆け上がると悲鳴が聞こえた。二人がいる部屋に来ると原型の無い
炎がいた。

「最後…」

八咫野が小さく呟いた。炎は段々と弱まりやがて何もなかったかのように消えていった。

「成仏したみたいね。さてと報告書を書かないと…」

国枝律子、霊障化。成仏完了。