ダーク・ファンタジー小説
- Re: White/Fang(過激グロ注意) ( No.29 )
- 日時: 2020/04/01 15:37
- 名前: 祝福の仮面屋 (ID: siKnm0iV)
代伍節
【喰う者と喰われる者】
「死ぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇッ!」
レイヴンの親玉にして宿敵・カンヘルが両腕を広げた刹那、静流はムラクモを抜き放ちカンヘルに肉薄、首を切り落とさんと一閃を放つ。
「チッ!」
カンヘルは咄嗟に刀を構えて防御の姿勢を取るが、踏ん張りが不十分だったのか大きく後方に吹き飛ばされる。大きく地面を引きずりながら、数メートル後退したカンヘルは刀を地面に突き刺して停止し、思いっ切り口角を上げて静流を挑発する。
「狼の小娘ェ…腕を上げたんじゃないか?そりゃそうか…あの時は只々泣き喚く事しか出来なかったもんなァ!」
「黙れ!お前は私が倒す…それだけだ!」
静流が右腕を掲げた刹那、右腕に装備されたガントレットから小さなキューブ状の物体が放たれ、それは両の腕に双刃を携えた無機質ながらも生物的な人型を形成して行く。
「ほぉ、そいつがレギオン……いいぞ小娘!もっとお前の力を見せろォ!」
カンヘルの放った一言を機に、静流は召喚したレギオンと共に猛攻を仕掛ける。
「殺す!」
「そうだそれで良い!俺を殺す気で来い!その手で俺を殺して見せろ!」
静流の猛攻に追いつけていないのか、カンヘルの反応が鈍くなったのを見切る。手応えを感じた静流は攻撃の手を更に強めるが、同時に一つの違和感を感じていた。
「(おかしい…何故、倒れない!?)」
そう、いつまで経っても倒れないのだ。
そして、遂に集中力が切れたのか、静流はカンヘルの足を払い地面に押し倒す。苦悶の声を上げるカンヘルに馬乗りし、彼の喉元にムラクモを突き付ける。
「………殺さないのか?」
「投降して」
「ク、フフフ…クハハハハ…」
カンヘルのに静流は降伏を促す。
するとカンヘルは唐突に笑い始め、不気味に感じた静流は声の圧を上げる。
「何が可笑しい……!?」
「可笑しいとも!……そうだなぁ、少し世間話をしてやろう。世の中の人間は加害者を悪とするが…本当にそうか?悪人には悪人なりの事情があるからそうするんだよ。なら、もしお前の爺さんが、お前を使って人体実験地味た真似をしてても…お前はその男を愛せるか?」
「………!」
刹那、静流の瞳が揺れる。
その隙を見逃さなかったカンヘルは、口角を上げて畳み掛ける。
「お前は優しいだろう?だから俺のような極悪犯ですら投降勧告から始め、俺が少し手を抜いただけで勝てると慢心する。お前らは正義の味方を気取ってるが…実際はどうだ?年端もいかない子供にこんな危険な仕事をさせて、剰え人体実験の被害者にする」
「………黙れ」
「いいや黙らないね。正義の裏では必ず犠牲者が出る訳だが…クズは必ずこう言うんだ、『尊い犠牲』ってな。凄いと思わないか?大して尊いと思ってないクセに上っ面だけ取り繕い、それに愚民はついて行く!」
「………」
「俺を黙らせるには殺すしかないぞ?どうする?殺すか?顔も知らない男を!もしかしたら人違いかも知れない俺を怨敵と見做して殺すか!?葛城静流ゥ!」
静流は何も言い返さない。
しかし、カンヘルの被る仮面の上に水滴が滴り落ちる。カンヘルが静流の顔を見ると、彼女は両手で眼を覆いながら泣いていた。驚愕するカンヘルを他所に、静流は嗚咽を漏らしながら泣き続ける。
「何で……そんな事言うの……?私は何も知らないのに…!大人の事情ばっかり押し付けないでよ!分からないものは分かんないよ!どうしてみんな揃って…私を虐めるの……?」
泣きじゃくる静流を退けながら、カンヘルはゆっくりと体を起こす。そして彼女の髪に触れた次の瞬間、カンヘルの右腕が宙を舞った。
「!?!?!?」
「………え?」
カンヘルは斬撃の方向へ振り向く。
そこには、レギオンがいた。レギオンは最高速度でカンヘルにショルダーチャージを叩き込み、カンヘルを静流から引き剥がす。カンヘルの腕から溢れ出た血液を頭から被りながら、静流はレギオンの単独行動に戦慄する。
「何で……?レギオンはパートナーから一定の距離以上は離れないはず……待って…殺しちゃダメ…お願い、戻って来て…」
静流は弱々しく鎖を引く動作を行いレギオンに戻って来るように命令するが、レギオンはその命令を無視し、カンヘルを斬り続ける。
そして、静流は違和感の正体に気づく。
今思えば、レギオンは召喚した瞬間から単独行動に移行していたのだ。召喚した瞬間、レギオンは真っ先に下っ端達を片っ端から葬り去っていった。そこから静流とカンヘルの攻防に加わったのだ。静流は脚を引きずりながら、レギオンとカンヘルの元へ歩いて行く。
***
「くっ……」
一方、カンヘルは苦戦を強いられていた。
背負った刀で応戦こそしているがあまりの速さに追いつけず、一太刀受ける毎に体が膾切りにされて行く。
「(こりゃマズいな……)」
血液が足りないのか、視界が霞んで行くのが分かる。レギオンの怒涛の猛攻を紙一重で受け流しながら、カンヘルはこちらへ歩み寄って来る静流を発見する。
「来るな!」
刹那、カンヘルの頭が撃ち抜かれる。
カンヘルは地面に崩れ落ち、目標の死亡を確認したのか、レギオンは静流の元へ戻って行く。銃弾が放たれた方向を睨み付けると、そこにはかつて殺した筈の男が立っていた。
「ジジイ……!」
「バカ息子が……手こずらせおって」
殺した筈の男…葛城玄馬は、立て続けに3発発砲し、カンヘルの手足と心臓に穴を穿つ。カンヘルの元に辿り着いた静流は、かつて死んだ筈の玄馬の姿を見て驚愕する。
「お祖父ちゃん……?」
「静流よ、久し振りの再会じゃが……もう行くとしよう」
「ッ!待って!」
静流は呼び止めようとしたが、玄馬は霞のように消えてしまう。血塗れのカンヘルを見つけた静流は彼の元へ駆け寄り、声を荒げながら彼に問いかける。
「ねぇ!何があったの!?何で死んだお祖父ちゃんが生きてるの!?」
「分からん……ただ、奴は俺達レイヴンとグルだったんだ…!」
静流の頭はこんがらがっていた。
何故祖父が鴉と手を組んでいたのか、ならば何故手を組んでいた筈の祖父を殺す必要があったのか、答えはカンヘルの口から出た。
「奴は……狼とも結託し、お前を使って諸外国に対抗するべく兵器を作っていたんだ…!止められるのは、お前だけだ…別に今すぐにとは言わない…全ての保有者から、レギオンを奪い取れ……」
カンヘルはそう告げ、静流の右手を固く握り締める。静流は右手に掴まされたペンダントの中身を確認し、決意を決める。
「分かったよ……お父さん」
これは、玖を失い壱を得た少女の新たな叛逆の物語。
次回
最終節
【一つの善と何百もの罪】
第2部、完!
久し振りに投稿出来た……!
第2部最終話如何でしたでしょうか!コメントや指摘お願いしまーす!
遂に世界どころかWhite/Fangをも敵に回してしまった葛城静流、彼女の動向はどうなって行くのやら……