ダーク・ファンタジー小説

Re: White/Fang(過激グロ注意) ( No.4 )
日時: 2019/11/13 06:21
名前: 祝福の仮面屋 (ID: kNmNzfjC)

White/Fang 代弐節(玖を失い壱を得る)




「行って来ま〜す!」
愛しき孫の声を聞き儂はそっと踵を返す、あの子は少々喧嘩っ早いが友達を危険に晒すほどの馬鹿ではないだろう、それにあの子は理解しとるじゃろう、自身の力…葛城流がどれ程危険な技なのか位…。儂は一つ息をついて仏壇の前へ歩いた、今は亡き静流の母…志乃はもう、儂や静流、真一に笑いかけてくれる事はもう二度とあり得んじゃろうな。
「志乃や…、お主が愛した娘は順調に育っとるぞ…元々お主は体が弱く、だから儂も忍の道を歩ませとう無かったと言うのに…」
すでに届かぬ思いにふけっていると不意に扉をコンコンと叩かれる、儂は一瞬体が強張ったが我ながら流石葛城の家の者と言うべきか咄嗟に対応できた。敵襲と思ったが敵意は感じない…恐らく交渉の類だろう、とりあえず儂は表に出る事にした。
「何奴じゃ」
「おっと失礼、私こう言う者でございます」
そう言って狐顔の男が差し出した名刺には、「対特殊災害隠密局『White/Fang 』」と書かれていた。
「狼が何の用じゃ、今更になって儂のような老いぼれの手を借りたくなったか?」
「いえいえ、とはいえ確かに猫の手も借りたい状況ではありますね、貴方様を今すぐにうちの戦闘技術顧問として雇いたい位だ」
「ふん、冷やかしなら他所でやらんか。儂は政府の狗に成り下がる気は無い、何より葛城流は門外不出の流派、お主らは其れ位知ってるじゃろうが。」
「確かに葛城流は門外不出…、ですが、私めが今回来た理由は貴方様のお孫さんに用があるからなんです。」
「孫はやらんぞ」
「いえ、もう推薦状は届いておりますのでほぼ強制的にうちへ来て頂きます。」
「式神の実験台にでもするつもりか?」
「いいえ?寧ろその逆です、彼女には…式神のパートナーになって貰う予定ですから。」
「成る程…、じゃが答えは否じゃ、出直して来るがよい、うつけ」
「貴様…!」
黒スーツの男が怒りを露わにする、この様子を見るにこの狐顔の男は相当な上役らしい、そして狐顔の男は前に出た黒スーツを手で制した。
「やはりそうですか、ですがまぁ…精々『鴉』には気を付けて下さいね?さぁさぁ、お前達行きますよ。」
男はそう言って踵を返すと黒スーツを引き連れて去っていった、台風一過…とまでは行かないじゃろうが、孫を渡す訳にはいかん。そう思い戸を開け土間へ足を踏み入れた瞬間、爆熱と熱風と衝撃波が儂の体と家を包み込んだ。













〜天津巫國 首都・東楼 第伍区〜
「いやぁ〜ごめん!待った?」
「静流ちゃんお手伝いしてたみたいでね、時間過ぎちゃったけど大丈夫?」
「あぁ、別に問題ねぇし女の遅刻をウダウダ言う程器の小せぇ男じゃねーよ」
私とヒナはもう一度「ごめん」と目の前の男子に謝る、背が高く筋骨隆々とした体は側から見ればアスリートがボディビルダーと間違われても可笑しく無いくらいに鍛え上げられていた。大板 一樹、私達のクラスメイトで私達は勝手に『カズ』とあだ名で呼ばせて貰っているが、嫌な顔一つしない良い奴で一緒にいてもストレスの感じない良い男である。
「お昼どうする?ヒナの観たい映画って午後にもやるんでしょ?」
「うん…、でも近くで食べられる所がいいよね、そうだ!奏楽苑とかどう?」
「ラーメンか…そうだな、なら俺んちで食わないか?ここから近ぇしよ、それにもう2時だしマジで腹減っちまった。」
「うん!よし決定!早く行こ!」
ヒナは自分がやろうと思った事には積極的なタイプだ、こうやって文化祭の時とかも率先してやってたっけな…カズの家は歩いて数分だし、運動にもなるから一石二鳥かも。
「よ〜し、じゃあ競争しよう!一番遅かった人の奢りね〜!」
「あ、ちょっと待ってよ…もう!脚だけは早いんだから!」
「いや、親父に頼んで半額にして貰うから割り勘で良いだろうが…」
「さっすがカズ!いい事言うねぇ!」
「俺んちだしな、だけど金は払えよ!?」
「はいはい、早く行くよ!」
私達は歩く、でも愚かな私はまだ知らない、私の身内に悲劇が降りかかっている事を…
〜柳奏庵〜
「親父ー!いつもの!」
「お邪魔しま〜す」
「こんちわー」
「おう一樹!来たか…てオメェ、遂に女を…しかもこんな別嬪さんを…!?」
「いや女じゃねぇし…俺も手伝うから早くやろうぜ、疲れてんだろ?」
「いいやお前も座れ、折角友達連れてきたってんだからゆっくりしてけよ?それに今日はクリスマスだ!おじさん奮発しちゃうぜぇ〜!?」
そう言いながらカズの父はラーメンを作る、私はここのラーメンが大好きだ、何が好きって?無論、豚骨醤油である。ここの豚骨醤油は豚骨の味が主張し過ぎず、それでもって醤油も主張し過ぎずな絶妙なバランスを保っている。でも私は思う、豚骨ラーメンって豚の骨と書いておきながら豚要素チャーシューだけじゃないか?
それに今日はカズの父も言った様にクリスマスだ、ケーキとかチキンライス食べたいな。
「よぅし、豚骨醤油、野菜たっぷり味噌、海鮮塩お待ち!」
と思ってるうちにラーメンが出来上がり、私達は各々の好きな味を手に取り啜る、うん、豚骨の薄過ぎず濃過ぎずのまろやかな旨味がちょい辛口醤油のピリッとした辛さにベストマッチしている…、まさに至福
「お昼のニュースを始めます、現在、東楼郊外の山奥で山火事が発生しました、原因は不明とされています。」
と…思っていたのだが、『山奥で山火事』その言葉を聞いた瞬間に私の背は凍りついた。
「今は消防隊が決死の消火活動を行なっていますが、消火完了の目処は立っていません。」
「物騒なもんだな…、そういや嬢ちゃんの家も山奥だったろ…って嬢ちゃん!?」
私は気が付けば走っていた、前傾姿勢で一定のリズムで呼吸、言葉通りの全力疾走だ。
「(うちの近くには神城橋がある…!そこを通れば…!)」
なんて甘い考えだろう、神城橋は家のある山の麓、結構距離はあった為今はもう夜中だが神城橋は野次馬と報道で埋め尽くされていた。私はとりあえず現状を知りたいがため人垣を掻き分け、消火活動をしていた一人の消防隊員に声をかけた。
「すいません、今の状況ってどんな感じですか?」
「ん?あぁ、炎の勢いが凄いのか未だに消火どころか鎮火すら出来てない状況だ、お嬢ちゃんは危ないから下がっていなさい。」
「行かなきゃ…」
「行かなきゃって…、聞いてなかったのかい?危ないから下がってって…オイ!?どこへ行くんだ!待ちなさい!」
私は走る、消防隊のおじさんごめんなさい、私は行かなきゃいけないんです。私の家が、お爺ちゃんが、焼けてしまうから…
「お爺ちゃん!大丈夫!?」
「静流…?静流なのか…!?」
家は凄惨な有様だった、家は全壊し轟々と燃えている、私は大昔の戦争の跡地もかんな感じなんだろうなと思ながら瓦礫の下敷きとなった祖父の元へ駆け付け瓦礫を手に掴んだ。
「お爺ちゃん、今、この瓦礫どかすから…!一緒に…逃げよう!」
「儂は…もうだめだ、瓦礫に脚を潰されとる。もう出れたとしても歩けんじゃろう…!」
「私が担いで逃げるから!お願い…!一緒に行こうよ…!」
「グル"ル"ァァ"ァァ"ッ"ッ"!!」
突如奇声とも鳴き声とも取れる謎の音が響き渡った、それと同時に数匹の小型の恐竜に鬼の面を被せたような化け物が周りを取り囲んでいた事に気付いた。
「やはり、鴉に目を付けられたか…!」
「鴉!?鴉が何なの!?何で鴉が…」
「お主はもう逃げろ…、ただし葛城の名はもう出すな…名を変えて生きろ…!お前は一人でも生きて行ける力がある…!早く行かんか!」
「う、うぅ…うわぁぁぁぁぁぁ!」
私は走り出した、無我夢中に、全力で、見えない物から逃げる様に泣叫びながら逃げ出した。
「志乃…、お前との約束は果たした…!どうかあの子を守ってやってくれ…!」



「あぁあぁあああぁ…!ゲホッ…、あぁあああぁ"ぁ"ぁ"!」
私は走る、己の無力さを呪い、憎み、そして恨みながら走る、走っている内に麓の町へ出た、出たと同時にドンッと人とぶつかる、男の人で若い女の人を二人連れている、従者だろうか。『殺される』そういったありとあらゆる恐怖と絶望が渦巻く中で、男の人は私に手を差し伸べた。
「こんばんはお嬢さん、今夜は冷えるね、寒いだろうからこれを着なさい。」
男の人はコートを羽織らせてくれた、暖かい…さっき身内を失ったのに情けなくそう感じてしまう。
「貴方は…?」
「これは失礼、自己紹介がまだだったね。私の名は一ノ瀬 燈矢、対特殊災害隠密局『White/Fang 』の者だ。名前を聞いていいかな?お嬢さん、そして復讐の為の力が欲しくないかい?」
「(お爺ちゃん…名前を変えろって言ってたっけ…)赤城…雨宮、赤城…。復讐の為の力…私に下さい…!」
「赤城か…いい名前だね、それに良い目をしている。私達White/Fang は君を歓迎しよう。」
私は伸ばされた男の人…燈矢さんの手を握る。そして私は誓う、「鴉を駆逐する」と…

これは、クリスマスに玖を喪い壱を得た私の、素敵な残酷すてき

復讐譚ものがたり
















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