ダーク・ファンタジー小説
- Re: White/Fang(過激グロ注意) ( No.5 )
- 日時: 2020/02/11 16:24
- 名前: 祝福の仮面屋 (ID: HWQyDP4e)
代参節
「弐つの選択」
去年のクリスマス、私は玖を喪い壱を得た
「お前は一人でも生きて行ける力がある…!早く行かんか!」
「う、うぅ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
今でも脳裏に鮮烈かつ鮮明に焼き付いている、あの日の記憶。まるで私を繋げて離さない鎖の様に巻きついて、私を拘束する首輪の様に私を締め付ける。
「あの日から2ヶ月…か」
今は2121年2月1日、私は今天津巫國の首都、東楼を囲む外壁の外の警備に回っている。私の家を襲った化け物…妖はいつ現れるか分からないからだ、かつて糸魚川静岡構造線…まぁ糸静線があった場所には地盤沈下によって生じた大穴から化け物で生まれてくる、なんて噂を聞いた事がある。だが所詮は噂、信じるに値はしない。
「ブル"ル"ォォ"ォ"ォォ"ッ"ッ"!」
「クソッ、取りこぼした!」
「そっちに行ったぞ!」
怒尾尾尾音!と轟音を立てて巨大な全長5mはあろう巨大な化け物が現れる、恐らくC-5クラス、異形型か。
「な!雨宮!何をしてる退避しろ!」
「………」
「聞こえてないのか…!?おい!大丈夫か!?」
先輩が駆け寄ってくる、正直面倒くさいから本音をぶちまけてやる。
「…るさい」
「何!?」
「うるさい…」
「なっ…、この状況が分からないのか!?さっさと退避を…」
「だから、私は鴉の駆逐が出来れば良いんだ…、だったらこんな化け物程度…仕留められなくてどうすんだよ!」
そう叫び私は先輩の命令を無視して忍者刀を手に駆け抜ける、異形型の妖はその巨腕を叩き付けようとしてくるが、当たらない。
葛城流忍術・海の型弐式『空蝉』
ようするに変わり身の術だ、私の心得ている葛城流は武器を主体とした天の型、武術主体の地の型、回避術主体の海の型がある。空蝉はかなり古い技だが信頼性は高い。
「遅い…!」
私は駆ける、デルタスーツと呼ばれる特殊繊維を用いた戦闘服は、まるで自分の体とは思えない位の速さを実現していた。
「見つけた…、とどめ刺します。」
妖の弱点に狙いを定め剣戟を放つ、だが相手の装甲が硬かったのか斬撃は相手の外殻を削り取るだけだった。
「ダメか…!?」
「何言ってるんですか?先輩の目は節穴ですか?」
「何を言って…!?」
驚くべき事になんと相手の装甲が弾け飛んだのだ、放った斬撃は一撃だけのはず…だがその斬撃にカラクリはあった。
葛城流忍術・地の型拾伍式『葬撃』
一撃の衝撃が逃げる刹那の瞬間に、もう一度攻撃を加える事で衝撃を逃す事なく相手に与える技だ、殺傷力が高く妖戦では使い勝手がいい。原理こそ違うが武器版二重の極みだと思えば簡単だ。
「ブルル"ァァ"ァ"ァ"ァ…ッ"!」
「討滅、完了…」
「あのバカ…!また命令違反を…!」
妖の討伐に成功した私は先輩方の元へ歩く、褒められる…と思ったが命令違反は命令違反、帰って来たのは手厳しい言葉だった。
「先輩、私やりましたよ?」
「馬鹿野郎!上官命令を聞かずに行くバカがあるか!」
「何でですか?倒せる者が標的を仕留めないのは合理性に欠きます。」
「俺はお前の事を心配してるんだ!何かあったら本隊に任せればいいだろう!?何をそんな死に急ぐ必要がある!…もういい、お前はしばらく謹慎だ、しっかり反省しろよ。」
は?謹慎?んなアホな、いくら命令違反でも謹慎は聞いた事がない、私を貶める為の御託か…
「おい、雨宮!聞いてるのか!?」
マジだった
「雨宮…、お前マジでボーッとしてたが大丈夫か?」
目の前で叫んだり質問したり忙しいのは私の担任の国語教諭だ、一々感情を変化させるのは本当に合理性に欠けると思う。
「…」
私はそっぽを向く、なんせ暑苦しい男に構ってやるのは好きじゃないからだ、何より合理性に欠ける。私はあの一件以来合理性に欠ける事が嫌いになったらしい。
「な…!お前なぁ!転校して来たばっかだから緊張してんのかなーって思ってたがあんまり態度悪いと謹慎か停学だぞ!?」
おいおいこっちでも謹慎かよ、心底うざったいし何より合理的じゃない、なら停学の方が幾分かマシだ。まぁ言葉が違うだけで意味合いは同じだろうが
「あ、なら停学でお願いしまーす。謹慎はもう飽きたんで」
「ふざけんなぁぁぁ!お前明らかに教師バカにしてんだろ!?」
どっちだよ、謹慎にするって言ったりしないって言ったり
「どっちだよ…、ったく…」
と思いながら座るとトントン、とシャーペンで背中を軽く叩かれる、誰だと思って後ろを見ると見知った顔がいた。
「や、入隊式以来だね」
「貴方は…」
「不破 大志郎、久し振りかな?雨宮 赤城…いや、葛城 静流さん」
「………」
「おっと、ここでは暴れない方がいい、何せ君が暴れたら局に報告して謹慎延長だからさ」
「ハァ!?そんなの聞いてな…!」
「うるさいぞ雨宮!」
「………クソが」
「クソがァ!?」
私は今、本当に思う、この謹慎も監視の目も何より私が専用装備を貰えない時点で…、かなり合理性に欠ける…いや欠け過ぎてる。
「やっと授業終わった〜」
「部活ダリ〜」
「ねぇねぇ、帰りスタバ寄ってかない?」
「いいね〜」
「新作出たんだっけ?」
放課後、様々な生徒の声が聞こえる、私も前はああやってたっけ…そう思っていると
「ちょっと待ってよぉ〜、私もスタバ行きた〜い♪なんて言ってみたら?」
「………」
「あ、ちょ!無視しないで!?」
「…ていうかまだいたんだ、いい加減失せれば?」
「そうしたいのは山々だけどさ、こちとら君の監視を…」
と不和が言おうとした途中でガシャアンッ!と窓が割られる、どうやら不良女子達による気弱な女子を虐める自己満タイムらしい。
「ちょっとぉ、ジュース零れたんだけどぉ」
「どうしてくれんのかなー!」
「その、ごめん…なさい…」
「ごめんで済むと思ってんの?顔で舐めろよ顔で!」
どうやらジュースを床に零してしまったらしい、アホくさい、本当にそう思う。そう思っているとリーダー格の女子が取り巻きの男女にアンケート名義の一方的な強行を行なった。
「はいアンケートぉ、床にこぼしたジュースは舐めて拭いた方が良いと思う人は挙手ー」
「いーや顔で舐めるもんでしょ」
一人が挙げる
「オラ、さっさと舐めろよ」
もう一人も挙げる
「たしかに」
「それな」
一人が挙げる事にドミノのように一人ずつ増えていく、タチが悪い、アンケートもクソも無いだろうと思う。
「いや〜、酷いね」
不破は私をちら見してくる、まさか私に助けに行けってか?
「…平和だね」
だが私は助けない、私は正義の味方じゃない、何より接点がない以上変に関わりたくない。
「見てこの人間雑巾!顔ぐっちゃぐちゃなんだけど!?」
「キャハハハハ!ウケる〜!」
「おいおいマジかよ!きったねぇな!」
「ちょっといい加減にしなよ」
「「「あ?」」」
「…何だ、結構良い奴じゃん」
何で動いたんだろう、私は思う。だが私には弐つの選択肢が課せられた訳だ、まずは一つ、『私が雑巾で拭く』一番単純だが後ろ指をさされかねない。そして二つめは『彼女を助け取り巻きを潰す』実に非合理的だが一緒にやらされるのは私のプライドが許さない。弐にしよう。
「んだテメェ、まさかアレか正義の味方か?味方しちゃうか?」
「うるさいなぁ…とっととかかって来いよ、腰巾着」
相手の男子からビキッと音がなる、不良やチンピラは扱いが楽で良い、ちょっと煽れば劫ッと燃え上がる。まるでニトログリセリンだ。
「民間人に手を出したら謹慎延長だよ?」
「抑えるだけならいいでしょ?」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!」
拳を振るってくる、無論遅過ぎる拳を合気道の要領で相手を投げ飛ばす。不良やチンピラは一々モーションが単発かつ大振りだ、力で殴れば良いとか思っているんだろうがその際の引き戻しなども考えてやらないとマジで損する。
「うおっ!?」
弾ッ!と組み伏せる、相手の方からミシミシと嫌な音が聞こえるからすんでの所で放した、いや〜危ない危ない、折っちゃう所だった。
「次はあんたら?」
「な…、あのさぁ、何調子乗った事してんだよ!」
「うるせぇな、顔で拭くくらい自分でやれや阿婆擦れ女。」
「う、うるせぇんだよ!ブス!…行くぞ」
「え、おい!」
「ちょっと待ってよぉ!」
私が一言行ってやると、リーダー格の女は負け惜しみを吐いて去って行くと取り巻き達が付いて行く、これにて一件落着…だと良いな、報復とかマジ非合理的。
「あの…私は高崎 美沙…助けてくれてありがとう、ございます」
「いやお礼とか要らないから、ムカついただけだし」
「でも…」
「彼女には人を助ける理由がないからね、強いて言うなら…気まぐれ?」
不破がフォローを入れてくれる、気まぐれではないけどね
「とりあえず、貴方は教師に虐められてるって言えば?そうすれば…」
と言いかけた瞬間に爆音と警報が鳴り響く、妖とは考えられにくいな…鴉か…?
「どうしよう…、早く逃げなきゃ…」
「貴方はここで待ってて、すぐに終わらせてくるから。」
「うん、彼女の言った通り君はここを動かない方がいい、僕と一緒にいよう。」
私は走る恐らく数mもの距離を一息で、走ってる途中で担任とすれ違う。
「あの、なにか出たんですか?」
「化け物だ!行くな雨宮、俺の教室だ!」
「…分かりました、警察に伝えておいてくださいね」
「おい!雨宮!」
ロッカールームに着いた私は右から2番目のロッカーを開ける、すると中には忍者刀と顔の上半分を覆う黒い狼の面が置かれていた、私は狼の面を着け、忍刀を手に取る。
いつでも殺れる
教室に着いた私は戸を開ける、すると中には人と鬼が入り混じったような化け物が一匹いた。
「貴方が不審者?」
「ニ"ン…ゲン"…ハ"…ミ、ミ"ナ"…ゴロシ…」
「あっそう、でも丁度良かった、憂さ晴らしの相手が見つかったし…八つ当たりに付き合ってよ、バケモノ」
「グ…グオ"ォ"アア"アァ"ァ"ァ"ァァッ"!」
化け物が一足飛びで私との距離を詰めてくる、いや〜さすが化け物!身体能力は全然上だね!いや冗談かましてる場合じゃないや、そう判断した私は忍刀を鞘から抜く、黒い刃は私の狼の面と同等、それ以上に黒く輝いていた。
武器版二重の極みである葬撃を放つが、弾かれて逆に壁に吹き飛ばされる。
「ガハッ…!」
弾ッ!と壁に当たった体から…主に受け身の為に後ろに向けていた右手から嫌な音が聞こえた。多分折れたな、そう思いながら目を巡らせると意外な人物が目に移った。
「あ、貴方達は…!」
「ヒッ!?」
「くそっ!」
彼女達は、かつての高崎 美沙を虐めていた女子生徒達だ。私は手を伸ばす、だが時すでに遅くビュンッ!と振るわれた触手によって体を真っ二つに両断される、恐らく逃げ遅れた生徒は全員死んでるだろう。
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!」
「あ、あぁ…!」
「痛え!痛えよぉぉぉぉぉ!」
当たりどころが悪かったのか脇腹を抉られ内臓を零しながら痛みに泣き叫び悶絶する少女、壁の破片が喉や目などを突き破り声を出そうにも出せない男子など、かなり地獄絵図だ。
「とんでもないな…!」
正直多分勝てない、この人数を守りながら戦うなんて神業、スタンドプレイヤーのお手本とも言える私に出来るわけがない。
「(どうする、私が囮になって軽傷者を逃すか…?いや、恐らく奴は見逃さない。…どうしよう、八方塞がりだ…!)」
その時化け物に体当たりをする少女がいた、高崎 美沙、なんと彼女は来るなと言われたのに来たのだ。
「バッ…!来るなって言ったじゃん!何で来た!?」
「だって…、私達…友達じゃない!友達くらい守らせてよ!」
「コ"…、ゴザガ…、ゴザガシィィィ"ィ"ィ"ィィ"ィ"!」
化け物の長腕が私の首を撥ねようと振るわれる。だが振るわれない、何故か、私は信じていたのだ。私の友達は、雨宮 赤城が化け物の腕を切ってくれると…!
「雨宮さん!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
私を頼ってくれた彼女の期待に応えるべく、私は化け物の胸に忍刀を突き立て駆け抜け窓から飛び降りる、その時に飛散した破片で頬を切るが知った事か、だが途中で化け物に身を翻され私が逆にクッションとなる形で木に突っ込んでいった。
「まだ…死なないか…!」
私は立ち上がるが右半身に力が入らない、神経でもやられたか…
「グ…ギギ…ゴ、ゴロズ…」
化け物はまだ生きてる、だが私ではもうどうにも出来ない、『死』その一文字が脳を過ぎった瞬間…
ヒュンッ
謎のキューブが目の前に現れ、キューブから出現した人型の生物と機械の中間くらいの物体が現れ化け物の首を掴み、ゴキャッと言う音と共にへし折った。私は…コイツを見た事がある
「やぁ、随分と苦戦したみたいだね」
「うるさい、あと少しで殺せた」
「まぁそんな強がらなくてもいいよ、やっぱり暴走レギオンはまだ難しいかな」
どうやら最新鋭の生体兵器が暴走したらしい、どんだけガバガバセキュリティなんだよ…
「一ノ瀬、御託は後にしてコアの回収を急ぐぞ、多分だがかなり汚染されてる」
「三島隊長、不破、ただ今帰りました。」
「ご苦労、不破 大志郎」
どうやら不破と話している女性は不破の所属する隊の隊長らしい、参番隊だろうか
「壱番隊隊長殿にも報告です、彼女は一般市民並びに軽傷者数名の救助を行いました、そろそろいいんじゃないですか?」
「そうだね…、赤城、君に話がある。」
「?」
何やらまた話があるらしい、もう謹慎はいやだからな。
「私は、君がやっと一般市民を気に掛けてくれる様になったのが嬉しいよ、そして改めて聞こうか、君を妖退治に利用させてもらう。良いかな?」
私は再び聞かれた、『この惨状を見てもなお、復讐する覚悟はあるか』と、だが私の腹はとうに決まっている、答えは…
「当たり前じゃん」
「よし、では本日を持って、君を正式に対特殊災害隠密局『White/Fang』への入隊を許可しよう。」
始まる、戦いが、戦争が、聖戦が、そして復讐が、盛大なる鴉狩りの始まりだ
次回White/Fang代肆節
「所詮この世は修羅か羅刹か」
佐之助登場、次回から陸節までの参節は佐之メインで進行します、
本格的な妖退治は漆節から