ダーク・ファンタジー小説
- Re: 黎明のソナタ ( No.3 )
- 日時: 2020/01/31 22:22
- 名前: 祝福の仮面屋 (ID: T8uIPv/C)
第1話(後編)
「お前…中々やるじゃないか、さては《使う》な?」
「さぁ?何の事だ?」
中折れハットを被った男は、再びトランプを一枚取り出す。
描かれていたのはQ《クイーン》、男はトランプを眼帯の少年の方へ向けると、何やらぶつぶつと詠唱を始める。
《森羅万象に渦巻く戦禍》
《全てを焼き焦がすは女王の涙》
《焼野原に何を願う》
「焼き払え【煉獄の手引き《インフェルノ》】!」
刹那、トランプから真っ赤な炎が放たれる。俺は情け無く身を屈めてしまうが、眼帯の少年は、炎に向けて手を翳した。
「な、焼けちゃうよ!?」
「何、案ずるな」
『俺には効かない』と、眼帯の少年は意味深な言葉を放ち、迫り来る炎を振り払うように翳した右手を軽く払う。次の瞬間、ハットを被った男は驚愕と戦慄に目を見開く。
「まさか、これ程とは…!」
「い、一体何が…!?」
「だから言っただろう、『俺には効かない』と」
俺には、確かに眼帯君が右手で炎を振り払おうとしたのが見えた。だが、そこから先の出来事の全てが、摩訶不思議としか言いようがないのだ。
何故なら
【彼が炎に触れた瞬間、赫赫と燃え盛る炎が一瞬にして消えた】
のだから。
俺に見えているのだから、あの男も見えていただろう。
「まさか、こんな所で出会うとはな…」
ハットの男は少しノイローゼ気味にぶつぶつと何かを呟き、眼帯君を見据えて口を開く。
「成る程、これが君の異常力《アブノーマル》か!」
「………」
「あ、あぶ?」
ハットの男がいきなり意味不明な事を叫び出した為、話の内容に付いて行けず、困惑した俺は首を傾げる。が、眼帯君は口を閉ざしたままであり、ハット男は三度トランプを取り出して投げようとするがーーー
「やめたまえ」
ガシッと、何者かに腕を掴まれる。
ハットの男は勿論自身の腕を掴んだもう一つの腕を振り払い身構えるが、即座に構えを解き、その場に跪いた。
状況を理解出来ない俺と眼帯君は、ハットの男の腕を掴んだ眼鏡をかけた男の方へと視線を向ける。こちらの視線に気付いたのか、眼鏡の人はこちらを見据えて口を開く。
「うちの者が失礼したね、君達は新入生かな?僕は《私立・中二高校》の生徒会長を務めている、緑川 烏堂という者だ。僕は君達を歓迎するよ、ようこそ、中二高校へ」
そう言って、男…緑川 烏堂はハットの男を引き連れて立ち去り、数メートル先でパッと消えた。烏堂達の行方も気になったが、今は怪我をしたかも知れない眼帯君の安否を確認しようと、彼に話しかける。
「えっと、大丈夫?怪我とかしてない?」
「エデンの果実は熟した。またどこかで会おう」
「………………ん?」
眼帯君から奇想天外な答えを返され、少し考えたが理解しきれず、俺は再び首を傾げる。そしてなんやかんやありながらも、最終目的地である私立中二高校には無事到着した。
「よう、啄木鳥。まさかお前も中高選ぶとはな(笑)」
「おう、翔悟。まさかお前も?」
「あぁ、そうだな」と、中学校の同期…栗松 翔悟は軽く頷く。そして、俺は先輩に今朝あった事の全てを話した。翔悟は何か思い当たる節があるらしく、暫く考え込んだ後、俺の顔を見て口を開いた。
「なぁ、中折れハットを被った男…だよな?」
「え?あぁ、はい」
「その人はうちの生徒会の幹部だぞ?名前は蛸山葵 平次、《万海のネプチューン》と呼ばれている実力者で、海の声が聞けるらしい」
なんかいきなりぶっ飛んだ話が始まったんだが!?
しかし、翔悟は困惑する俺を他所に、若干チュートリアル感のある説明口調で語り出した。
「そして、その上に君臨するのが生徒会長の緑川 烏堂先輩だ。深淵のエンペラーと呼ばれていて、体の中に魔物を飼っている生まれながらの厨二病にして、うちの学校の頂点を務める男だ。」
「あ、もう良いんで…」
「お前と今朝一緒にいた奴は、漆黒の堕天使と呼ばれている巷で話題になってる新入生だな。約4000年前から存在する悪魔の末裔らしく、女神族の復活に備えているらしい」
俺の言葉を無視し、翔悟はめちゃくちゃ説明くさい口調で一から全てをものの数分で語り終える。
翔悟先輩の話を全て聴き終えた俺は、ある一つの結論に至る。
「……翔悟、結論に至ったよ」
「ん?」
「来るとこ間違えたわ」
次回 Session2
【九姉妹捜索前線】