ダーク・ファンタジー小説
- Re: 黎明のソナタ ( No.4 )
- 日時: 2020/01/31 22:21
- 名前: 祝福の仮面屋 (ID: T8uIPv/C)
「……九姉妹?」
「あぁ、そんなものは空想だと思っていたが…まさか実在するとはな」
「あ、厨二病タイムはいいからね?」
入学式からはや三日後。
無事入学する事が出来た啄木鳥栄次郎は、眼帯君こと小埜寺夢翔から奇妙なワードが呟かれ、彼がいつも通りの厨二病タイムに入ろうとするが、栄次郎はそれを直ぐに止める。
しかし、『九姉妹』というワードが妙に引っかかるのか、通学路を歩く途中で栄次郎は夢翔に話しかける。
「あのさ」
「何だ?」
「さっきの《九姉妹》についてなんだけど…」
「9人の戦乙女が現れし時、戦女神との聖戦は始まる…」
止まらない夢翔の暴走に栄次郎は「駄目だこりゃ」と呟き、スマートフォンを片手に電話番号を入力する。数コールほど鳴った後、電話に対応したスマートフォンの持ち主は、彼の唯一信頼出来る同期だった。
どうやら事情は理解しているらしく、栄次郎が口を開く前に少年が本題に切り込んで来た。
「よう啄木鳥!話は聞いてるぜ?例の《九姉妹》についてだろ?」
「あ、知ってたんですか?」
「当然、取り敢えず学校に来い。話はそれからだ」
「会わせてやるよ、九姉妹にな」と、同級生こと栗松翔悟は電話を切り、栄次郎は未だにぶつぶつ訳わかめな事を呟いている夢翔を連れながら、私立中二高校へと向かった。
〜私立中二高校・一年教室〜
「よっ、待ちわびたぜ」
「では早速会わせてもらおうか、麗しき9人の戦乙女に…」
「うーん、戦乙女じゃねぇけど…この子が例の《九姉妹》だ」
厨二病タイムに入っている夢翔の一言を軽くあしらいながら、翔悟は教室の隅っこに向かって「来いよ」と、一言だけ告げる。こちらにやって来た人物に、栄次郎は質問を投げかける。
「えっと…君が例の?」
こちらへやって来た少女は、栄次郎の問いに首を縦に振る。
彼女の名は宮原 香澄(みやはら かすみ)。両親の都合により引っ越して来たらしく、近場の高校を選んだ結果がここらしい。まぁ、正直に言って彼女の選択には同情の余地しか無いが、彼女はとある悩みを抱えているそうな。
「その悩みって?僕で良ければ聞くよ?」
栄次郎の気遣いに対し、「そ、それは…」と口ごもる香澄。
人間関係の事なのだろうか、少し彼女は考えるような仕草を見せたが…数秒後に決心がついたのか、彼女は口を開く。
その悩みが、予想以上のもので。
「実は私…あと8人いるんです」
「……ゑ?」
予想外の答えに、栄次郎は首を傾げると同時にある事を思い出す。
ここは私立中二高校。誰もが常人ではあり得ない特殊な能力を宿している学校であり、悩み事が能力が関係していると察する事など、少し頭をひねれば誰でもわかるのだ。
申し訳なさ故か、香澄は少し顔を赤らめる。
「その…私の能力って、その、分身系の能力なんです。それで、あと8人の私は性格も違うから…」
「成る程…何かしらのアクシデントが原因で、君とその分身が逸れてしまったと言う事か」
翔悟の推理が当たったのか、香澄は首を縦に振る。
栄次郎は何をどうすべきか迷っていた次の瞬間、意外な事に夢翔が珍しく口を開いた。
「つまり、俺達は己が意思で動く傀儡達を元に戻せば良いのだろう?」
「は、はい!出来ればで良いんですけど…お願い、出来ますか?」
「いや、大丈夫。翔悟も大丈夫だよね?」
「まぁな、こんな可愛い子が困ってんのに放っておくのもアレだからな」
香澄の表情が明るくなる。
本日を以って、九姉妹捜索前線が敷かれた。
第2話
【前編】