ダーク・ファンタジー小説

Re: Helios trope ( No.2 )
日時: 2019/12/15 17:34
名前: 凍鶴 (ID: LTX6Bi5r)

[Episode 1 _Helio trope_]


今日の始まりを、早朝からの豪勢なパレードが王都で告げるのがこれ程までに不穏に感じられた事など彼にはなかった。
後ろに日傘持ちを添わせたクラリネットの大列の後に煌びやかな金属の楽器群が並び、その最後には国王陛下が前に国旗を上げた黒車に乗っている。そして道の脇には国民達が国旗を手にして腕を振るなり大声で喜びの意を表すなどしてこのパレードを見送っているところなのである。
その中で、彼はその国王陛下が乗る黒車の前__護衛車、或いは暗殺の目眩ましとして同じ車種の物に乗っていた。午前四時に置き、準備してきた為か異様に目蓋が重いのがよく分かる。
「ヴェルリカ様、宮廷まで後5レトー程です。」
後頭部座席に座る彼のそんな様子を見るなり、助手席の女性は凛とした声で言った。
「ああ、解っている。」
そう答える他に、己の気を引き締める術は無かったのだろう。いつこの車に銃弾が撃ち込まれようとも可笑しくない中で無責任な発言は出来なかった。今の国内は国民の不安に溢れており、情勢も宜しいとは言えない。その中での主権交替だ、現在新しく国王が変わった以上、更なる逆境が待ち受けているだろう。……せめて、有能な御方であれば良いのだが……。……そんな感情を胸に渦巻かせながら、一人窓へと目を遣った。刹那__目の動きさえ遅れる程速く__それが前方からこの車の横を通り過ぎるのにも、気付かずに。

キギギギィィィィィ と音を発て、後方の車が半回転するのが辛うじて判った位だった。何が起きたのか、その状況処理が追い付かず彼__ヴェルリカは車が未だ走っているにも拘らず扉を蹴って飛び出し、腰の拳銃を手に国王の乗る車へと走った。
「ヴェルリカ様ッッ!!!!陛下に何が__」
先程の助手席の女性__ルアが後を追ってくる。しかしその足は、直ぐに止まった。
「近寄るなっ!!あんたらはリューグナーさ、コイツも含めて全員ッ……。姐さんを帰せ、今すぐに!!!!」
銃を構えていた。金髪の髪をばっさりと肩で切った、外見のみずぼらしい少女がそれを二丁。一方は車内の国王を差したままにし、もう一方は此方へと向けている。……姐?何の事なのか、ヴェルリカには全く見当もつかなかったが__後ろでルアが前へ来るのを躊躇しているのか、姿を現そうとしない。撃たれやしないかと怖いのだろうか。
「なぁ、帰せってばッ!!!!」
その間も涙目になって訴えかける少女はその華奢な脚でその黒車を一足に上がると、右手で上に銃弾を放った。このままでは、此方が撃たずとも誰かが彼女を射殺するだろう。そうなれば殺されるタイミングなど、最早彼女の運次第で決まると言っても過言ではないのだ。
「民衆よ聞け!!!こいつらはリューグナーだ、私の姐はヘリオトロープに捕虜に捕られたまんま帰ってこないんだよ!!!税金をたんと盗るやつらだぜ!?怪しいと思わないか!!?」
片言のソル語を叫び、所々で文法間違いをしながらに言い切ると、彼女は突然うめき声を発て__前に倒れ込んだ。人々のざわめきは今も続く。
「…………やめて、お願いします……ヴェルリカ様。その子は私の__妹なのです。」
直ぐ後ろで少女を拘束した彼は、ルアのその懇願を確かに聞き入れた。