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ダーク・ファンタジー小説
- Re: 月星の影、浜辺の真砂に ( No.4 )
- 日時: 2020/01/02 16:25
- 名前: 凍鶴 (ID: 7t.dwaO6)
[2-人々-]
「……飯塚さん、駄目ですか。」
三日目の朝、ベッドの横の飯塚に外出許可が下りるか訊ねた。看護師には話し辛かったのでこの相手にしたのだが、うーんと悩んだまま数分静止している。腕を組んで浜辺を見つめながらに、ずっと。夜凪から朝凪に移り変わった波を目にしながら、やがて口を開いた。
「伊葉院長は許可してくれないと思うよ。一応、敷地内は関係者以外立ち入り禁止の所以外何処へでも行けるんだけどね。……少し考えても良いかな。」
その言葉に、霞深は安堵の息を吐いた。相手が全否定するような人間でなくて良かった、と思ったのだろう。両親は忙しいせいかあまり来る気もないらしく、昨日一切連絡も無いのだ。そんな中、看護師とも世間話が出来ない霞深にとって飯塚は唯一の話し相手である存在だった。
「佐倉さんはあの浜辺へ行くつもりなんだよね。」
「はい。」
強い返答を口にする。飯塚は頷いて窓の方へ行くと、背を向けたままに再び口を開けた。
「この一週間で、何日間通うんだい。」
「今日、明日、明後日の三日間です。」
またしても強い返答を口にした。流石に多すぎただろうか、と彼女は考える。しかし、一日二日では事を理解できない気がしたのだ。だからせめて三日間だけでも時間が欲しい、と。
「……わかった。その代わり、三時間になるだろう。午後二時から午後五時まで。それでも良いかな?」
霞深は頷いた。三時間。これが三日で九時間。その間に思い出す事が出来れば、と彼女は微かに希望を目に宿して笑顔を見せた。窓からゆっくりと振り返ってそれを見た彼もまた、微笑んでいた。
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