ダーク・ファンタジー小説

Re: アール・ブレイド ( No.10 )
日時: 2012/08/05 15:37
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)

 刹那の静寂の後に、全く同時に2機が加速した。
「ほう、まだ動けるか。そうでなくてはな!!」
「まだやる気ですか」
 二つの武器が激しくぶつかり合う。
 一方は大剣、一方はプラズマ放電が加わった巨大クロー。それが真っ正面から両機の速度と重量を加えて激突し、爆発のように火花を散らした。
 真空の宇宙に音こそ響かないものの、吸収しきれなかった衝撃と振動が、二人のコクピットを突き抜けていく。
 そんな状況で、眼帯男はなおも余裕の笑みを浮かべていた。
「ふん、『シルバー』で『ゴールド』のパワーに耐えられるものかよ!」
 そのまま目一杯まで、操縦桿のパワーゲージを押し上げる。
 その操縦に答えるかのように、クローが大剣を押し始めた。
 まるでプレス機でプレスするかのように、ゆっくりと、確実に。
「このまま死にやがれ、『アール』っ!!」
 そう告げた眼帯男の視線の先、プラズマに彩られたクローの向こうにあるアールの『ルヴィ』に、ふと変化が現れた。
 肩に、足に、兜に、青白い光が灯り、それが次々と増えていく。
 そして、青白い光が増えていくほど、クローが大剣を押す速度が弱まっていく。
「……なに!?」
 眼帯男が驚きに目を見張る時には、アールの機体の全体が、光へと包まれていた。その兜が上げられ、センサーの配置された両眼が、より強く青く輝く。
「これでラストです」
 アールの言葉に反応して、大剣全体が光輝いた。と同時に、力で押されていたはずのクローを一気に弾き返す。
「ぬおっ!!」
 たまらずに体勢を崩した眼帯男の機体に、大剣が叩き込まれる。
「『ソード、ブレイカーっ!!!』」
 とっさにクローでガードしたあたり、眼帯男の技量も目を見張るものがあるが、アールからすれば、そのクローこそが目的だった。残光を引いた大剣が、まるでバターのようにクローを全て切り裂く。
「足は貰っていきます」
 返す刀が煌めいて、次の瞬間には眼帯男のギアは、足と胴体が切り離されていた。
「お、おのれ……この次は殺す、絶対にだ! 俺の機体が本来の機体ならば、お前なんざ……」
 その悪態は、アールの耳には届かずに。

 アールは動けなくなったギア達を一瞥すると、すぐさま、後方で待機している自分のスペースシップへと戻っていったのであった。


「あのギア達のことですが……」
「知らん」
 アールの言葉に、リンレイは即答していた。
 ここはスペースシップの食堂スペース。
 先ほどの追っ手を退け、2度目のワープで移動している。今回もまた、プラネットゲートを使わずに、ブルーポイントで移動中だ。
 そこでアール達は、食堂でお茶を飲みながら、リンレイに先ほどのギア達のことを尋ねていたのだが。
「こっちだって、初めて見たんだ。仕方なかろう」
 そう言い放ちリンレイは、ずずずと紅茶を飲み干す。
 どうやら、リンレイも敵のことは知らない様子。
「まあ、そんなことだと思っていましたが」
「何!?」
 いきり立つリンレイの前にカリスは、そっと美味しそうな苺のムースを差し出した。
「よければ、こちらもどうぞ」
「あ、ああ。すまないな」
 カリスのナイスタイミングに、アールはほっと胸を撫で下ろす。
「仕方ありませんね。ちょっと寄り道しましょうか」
「寄り道?」
 リンレイの言葉にアールは神妙な顔で頷いた。
「ええ、ついでにコレも見ちゃいましょう」
 取り出したのは、老騎士から受け取ったデータチップであった。