ダーク・ファンタジー小説
- Re: アール・ブレイド ( No.12 )
- 日時: 2012/08/05 15:40
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
第8話 ◆失われた過去と真実
「終わったぞ」
ウィザードの声にリンレイはびくりと体を震わせた。
「もう、終わったのか? 早すぎるんじゃないのか?」
開いたロケットを閉じて、リンレイは彼を見た。彼は大切そうにチップと解析したデータの入ったディスクを添えて、リンレイに手渡した。
「これくらいすぐ解ける。簡単じゃよ。もっともあの坊やなら力技で行くから、数日使いもんにならんがの」
「坊やってアールのことか?」
「そうじゃ。解き方を教えても、どうしても力に頼る節がある。ありゃ、若造の考えることじゃな」
「そんな風には見えなかったが……」
むふふふとウィザードは笑う。
「小娘、お前さんがいるからじゃろ? 格好付けてるのじゃ。あやつもまだまだ青臭いってことじゃの。ほっほっほ」
ことさら楽しそうに。
「それよりも、中身は何だったんだ?」
「タダの動画じゃよ」
「動画?」
どうやら、データチップの中には動画が入っているらしい。
「そうさな、あの坊やにはまだ意味の無いものじゃな」
「意味の無い……動画?」
ウィザードの言葉に頭を傾げるリンレイだったが。
「さて、用も済んだのだから、さっさと戻れ。機械女が待ってるぞい」
ウィザードがさっさと追いやっていた。しかも。
「機械? それって」
「おや、知らなかったのか? アイツは全て機械で出来とる女じゃよ。カリスと言ったかの?」
驚いた! あのカリスが、アンドロイドだったとは!!
「だから、感情が……」
いや、今は早く戻ろう。きっとカリスが心配しているだろうから。
「ありがとう、ウィザード。助かった」
「礼はいらんぞ。おぬしのような、面白い小娘に会えたのじゃからの」
見送るついでにウィザードが尋ねる。
「して、その義足。あの坊やが用意したもんか?」
「え? ああ、そうだが……」
そういえば、義足だってことはまだ話していなかったなずなのだが……。
「ええものを作ってもらったの、『エレンティアの姫君』殿」
何か言おうと振り返ろうとしたのだが、その間もなく。
リンレイの足元が急になくなり。
いやこれは、落とし穴というやつだ。
「うわああああああああ!!!」
「お帰りなさいませ、リンレイ」
もふっと抱き止めてくれたのは、カリス。
気がつけば、あの出口に戻されていた。
「あ、ああ……」
リンレイは心の中で文句を言った。
———あのジジイ。もっと丁寧に返さないかっ!?
役目を終えた二人は、シップに戻る。
その間、敵の襲撃もなく、また、犯罪者に絡まれるということもなかったのであった。
この世界……いや、宇宙には無数の国がある。
辺境になればなるほど、その数は増えてゆく。
その広大な宇宙で、勢力を伸ばしている国があった。
ラフトブレスト帝国。
驚くべきことにその帝国は、宇宙の8割を支配する巨大帝国まで発展していく。
その手腕は、他者を力で捻じ伏せるというものであったために、不満も大きく、抵抗する組織もあるらしい。
そして、彼らが目をつけたのが……。
小さな小さな国だった。
辺境にある、農業と観光を主とした国。
少しずつ、けれど確かにその力を伸ばしていた。
小さいけれど、その国が、私は好きだった。
貧しくても、町の人達は優しくて暖かで。
その町の人達がくれるもの、全てが美味しくて。
中でも、母が作ってくれるクリームシチューは天下一品だった。
いつも収穫祭で貰った野菜を使って、母はとびきりのシチューを作ってくれる。
その日も収穫祭を終えた、夕食時。
「リンレイ、そっちのお皿を取ってくれないかしら?」
「はい、母様」
母の指示通り、皿を持ってくる。
「姉さま姉さま。今日はね、きれいなお花を見つけたの」
「違うよ、それ僕が見つけたんだよ!」
可愛い妹と弟がやってきた。
「おや、良いにおいだと思ったら、シチューかい?」
仕事を終えて、少し疲れている父までやってきた。
シチューを見て、明らかに元気を取り戻したようだが。
「ええ、一緒にいただきましょう」
暖かい食卓。席に座る家族。
あまり人を雇えなかったから、料理は母が担当となった。それを手伝うのが私と妹と弟の3人。
私はずっと、父と共にこの国を豊かにするんだ。守ってゆくんだと思っていた。
その日までは。
「きゃあああああああ!!」
いつもと変わらないはずの暖かい団欒が一転した。
「早く王と后を見つけろ、そして殺せ!!」
そんな声と共に銃声が鳴り響く。
食卓をそのままに父と母は、私達を連れて逃げた。途中、じいとも合流し、別れる。
父と母は妹と弟を別の部下に託すために、また逃げると言っていた。一緒に逃げたかったが、出来なかった。
力が、なかった。
「じい、父様と母様は大丈夫だよね?」
「ええ、大丈夫です。他にも腕の良い方はたくさんいらっしゃいますから」
「妹も弟も大丈夫だよね?」
「ええ、きっと大丈夫です」
逃げる途中で、子供の悲鳴が……聞こえた。
聞いたことのある、声だった。
「……うっ……くっ……」
逃げるしか、出来なかった。
怖かった。
助けたかったけれど。
怖くて怖くて。
「うおおおおおおおお!!」
勝利の雄たけびに似た声が後から聞こえた。
「王と后を……殺したぞっ!!」
聞きたくなかった、言葉だった……。
涙がこぼれて、前が見えなくなった。
それでも逃げられたのは、じいがいてくれたから。
「姫さま、あともう少しあともう少しですぞっ!!」
「んっ!!」
この森を抜ければ、きっと……きっと……。
草原に出たとたん、私はじいと共に吹き飛んだ。
恐らく爆弾か何かで吹き飛ばされたんだと、思う。
……目が覚めたときは病院で。生きているのが奇跡だといわれて。
私は下半身麻痺。じいはその体の殆どを機械にされていた。