ダーク・ファンタジー小説
- Re: アール・ブレイド ( No.2 )
- 日時: 2012/08/05 15:31
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
第1話 ◆メルビアンの老騎士と姫君
シュン、という軽い音と共に、スペースシップの扉が開いた。
目の前に飛び込んでくるのは、無限に広がる宇宙。
ブリッジから見える宇宙は、なんと美しいのだろうか。
珍しくそんなことを思いながら、彼の歩は自分の席へと向けられた。
三本の太いベルトで固定された、黒の頑丈そうなブーツ。
太ももには、両方に1丁ずつ、黒光りする銃がホルスターで固定されていた。
腰には二本のショートソード。それを互い違いに固定し、両手で一気に抜けるようになっている。
体格は中肉中背といったところか、身長は170近い。
彼は黒いジャケットを、自分の席の背もたれに乱暴にかけ、どっかと座った。
「ふあーーっ!! 終わったぁーーっ!!」
ぐいっと席の背もたれを倒しながら、彼はぐうーっと伸びをする。
「お疲れ様でした、マスター」
音もなく、そっと彼の側に控えるのは、彼よりも少し背の低い女性。
こちらは白を基調とした、飾り気の無いシンプルなワンピースに身を包んでいた。
足元には足首を隠すくらいの、ショートブーツのヒールは高い。
長くゆるいウェーブをかけた金髪を一つにまとめ、グレーの瞳で、彼女は表情なく彼を労った。
これでも彼女なりに、精一杯、表情を付けているつもり……らしい。
「ありがと、カリス」
くるりと席を回して、カリスと呼ばれた金髪女性に向き直る。
「今回も君のお陰で、全ての依頼をこなす事が出来たよ」
「いえ、それには及びません。わたくしはマスターに比べれば、まだまだですから」
そういうカリスに彼は思わず、苦笑を浮かべた。
「それにしても、ソレを外さないのですか?」
「ああ、忘れてた」
カリスに指摘されて、彼は耳元にあるボタンを押す。すると目元を覆っていたミラーシェードが音もなく耳元のイヤーギアに収納された。
その振動で、彼の長い銀髪が揺れる。彼の銀髪は首もとで一つにまとめられ、左肩に垂らしていた。
「道理でちょっと暗いと思ったよ」
「もう少し早く気づくべきでは?」
そんな鋭いカリスの突っ込みに彼は。
「だってさ、こっちは昨日まで寝ないで船をかっ飛ばしたんだ。他のこと疎かになっても、仕方ないってもんだよ」
席の前にあるデスクに触れて、キーボードと立体ディスプレイを展開した。
「まあ、お陰でこっちは予定外に懐が潤ったし、帰るまで余裕が出来たんだ。これならあと一つくらい依頼を受けてもいいかもね」
キーボードを慣れた手つきで打ち込み、自分のメールボックスを開く。
その殆どが身内からの定期連絡ばかりであったが。
「あ、一つ依頼が来てる」
さっそく彼はそのメールを開いた。
『アール殿
貴殿の噂は、このメルビアンまで届いている。
良いものも悪いものも。
それを思慮しても、ぜひ貴殿に頼みたい案件がある。
メルビアンの我が城に来ていただきたい。
メルビアンの老騎士より』
そのメールの末尾には、メルビアンの城の場所らしい、座標が記されていた。
「老騎士、か……」
彼……いや、アールはオッドアイの瞳を細めて、口元に笑みを浮かべた。
「決まりましたか?」
「メルビアンの食べ物は美味しいって聞くからね」
アールはそう言いながら、そちらに向かう旨をかの老騎士にメールで伝えたのだった。