ダーク・ファンタジー小説
- Re: アール・ブレイド ( No.6 )
- 日時: 2012/08/05 15:34
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
第4話 ◆アールから渡されたもの
目が覚めると、そこは見知らぬ場所だった。
……いや、違う。
首を振り、改めて、辺りを見渡す。
確か……そう、カリスと言ったか。金髪の女性に案内されて、船の一室を貸してもらった。あまり使っていないという話だったが、埃一つ無い、綺麗なこざっぱりした部屋だった。白い布団とシーツ、毛布のベッドが一つ。小さなデスクが一つ。鏡と洗面所のついたトイレとバスルームがひとつ(しかもトイレとバスルームは別々!!)。
そうだ、ここはアールとかいう男の船の中だ。
なのに、こうこざっぱりして男臭さがあまり感じられない。
あの、カリスという女の所為、いやお蔭だろうか?
私は起き上がり、トイレに行こうとする。が、車椅子がやや遠くて、難しい。
手を伸ばして、頑張っているところに。
こんこん。
「リンレイ様、おはようございます。もしよろしければ、お手伝いいたしますが」
………隠しカメラとかあるんじゃないのか?
思わず苦笑を浮かべる。
「すまない、手伝ってくれないか。トイレに行きたい」
「入りますが、よろしいですか?」
「ああ」
許可を得て、彼女が入ってきた。
支度を終えて、私とカリスは共に部屋を出た。
案内されたのは、小さな食堂。
どうやら、朝食が出来たらしい。
「おはよう、リンレイ。フレンチトーストを用意しましたが、良かったですか?」
この甘い香りは、トーストのせいか。
「ああ、好きだ」
カリスの手で席に促される。私はアールが料理を並べるのをそのまま眺めていた。
出来立てのフレンチトーストに、バニラアイスが乗っている。
他にもスクランブルエッグにベーコンとほうれん草が細かく入っているし。
サラダは具沢山のポテトサラダ。
妙に手が込んでいる。
「豪勢だな」
「お客様がいますから」
口元に人差し指を持っていって、アールは悪戯な笑みを浮かべた。
「いつもはもっと質素ですよ」
「そっちの料理も見てみたいものだ」
一笑いして、私達は旨い朝食を口に運ぶ。
「ああ、リンレイ。あなたに渡す物があるんです」
「渡す、もの?」
思わず、食事をする手が止まってしまった。
「ええ、驚きますよ?」
「驚く?」
「あごが外れるくらいに」
今度がカリスが口を開いた。
あごが、外れる……くらいに、か……?
一体、何が起きるんだ?
美味しいはずの朝食が、何処か遠くへいってしまった気がした。
「…………なるほど、な……」
朝食を終えた私は、問題のソレと対面していた。
「で、これは何だ?」
改めて見よう。
コルセットだ。明らかに、あの貴族がウエストを細く見せるために作った、あのコルセット。それに、ブーツのような、レッグギアというのだろうか。そんなものがベルトのようなもので繋がれている。
もう一度言おう。
「で、これは何だ?」
「リンレイ専用オペレーションシステム」
「略して、リンレイOSですね」
「真面目に答えろ」
ぎろりと私は二人を睨みつける。アールは降参と言わんばかりに両手を挙げた。
「まあ、まずは先に着けてもらいましょうか」
「いや、その前にもっと言うことが……」
と言いかけたとき。
「ですね」
問答無用でカリスが私を抱き上げて。
「ちょっ!?」
近くにあったベッドに横倒し。
「おいっ!?」
「あ、こっちの壁見てますね」
背中を向けるアール。ちょっとほっとしたが……いや、今はそれどころでは!
「うわっ!!」
脱がされた。下半身、脱がされた(ショーツ以外)!!
しかも、上もコルセットをつけるところを上に捲られて、肌に着けて……。
ばちっ!!
「なっ」
思わず顔を歪める。
「一瞬だけですから」
カリスの言う通り、痛みはその一瞬だけだった。気がつけば、私の足と胴体にはコルセットと、レッグギアが装着された。その上に服を着せると、若干、違和感を感じるが、それほどでもないように思う。
「一体コレは何なんだっ!」
がばりと立ち上がり、アールに言い寄る。
「大体、説明もなしに痛みのあるものを無理やりつけるとはどういう……」
「良い感じですね」
「はあ?」
アールはにこにこと、指摘した。
「良い感じに、『立って』いますよ。リンレイ」
「何を言ってる……!!!」
立っている。
もう立てないはずの私が、二本の足で、立っていた。
「そのために用意したんですよ。またあの追っ手が来たとき、車椅子だと対応しきれなくなりますからね」
「こ、これ……」
レッグギアを指差す手が、震えた。
「まあ、差し詰め、リンレイ専用スタンディングシステム。略してリンレイ用SSって所ですかね?」
くるりと回ってみせる。ジャンプしてみせる。
できた。もう出来ないと思っていたものが、今なら、できる!
「じい! みてみ……」
思わず出た言葉に、アールは僅かに苦笑を浮かべたが。
「後で戻ったときに見せてあげましょう。きっと喜びますよ」
「あ、ああ……」
なんだか、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
さっきまでの興奮が、あっという間に冷めてしまった。そんな気分だった。
「そうそう、もうワープアウトしていますよ」
アールが口を開いた。
「どこに着いたんだ?」
話題を変えてくれたことに感謝しつつ、私はその話に乗った。
「ラスベルリッタです。丁度、目的地から中間地点の距離にある惑星ですよ。農業と観光で栄えてる街で、ちょっと補給をしに降ります」
「補給は大事だからな」
この大きさだから、エネルギーもかなり喰うのだろう。
「それにもう一つ朗報があります」
ずっと黙っていたカリスも、話に加わる。
「お祭りが開かれているそうですよ。屋台とか出ていて、とても賑わっています」
アールは嬉しそうな笑みで、床を指差した。
「一緒に降りませんか? 補給が終わるまで、少し楽しみついでに」
冷めた興奮が、戻ってきたかのように、頬が熱くなって来る。
「ああ、行くぞっ! 絶対だっ!!」
「じゃあ、30分後に」
「任せろ!」
私は急いで部屋に戻って、すぐさま必要なものを用意する。
その間、足が動くことに、車椅子がない事に、私は全く気づいていなかった。
実際のところ、麻痺していた期間はほんの数年。動けた期間よりも短いのだ。
だからだろうか、動ける時の事を思い出したかのように、ギアをまとった足は心地よく動いてくれた。
そう、まるで——自分の足を動かしているような、自然な感覚で。
準備を終えたアールと合流し、私達はラスベルリッタへ降りる。
ちなみにカリスは、残念ながら留守番だった。