ダーク・ファンタジー小説

Re: アール・ブレイド ( No.7 )
日時: 2012/08/05 15:35
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)

第5話 ◆ラスベルリッタのフィスティバル

「ようこそ、ラスベルリッタへ!!」
 最初に渡されたのは、色とりどりの花の首飾りだった。
「女性にはそれが渡されるんですよ」
 ミラーシェードをつけたアールがそう教えてくれたが、いまいち理解できずにいた。
 そういえばと、私は思う。
 お祭りと言う行事には、参加してきていなかったように思う。
 ただ、遠巻きで楽しげな声を聞いていただけだった。
 そう、こうして参加するのは、実はこれが初めてだった。
「似合うか?」
 隣に居るアールに尋ねてみる。
「ええ、とっても似合いますよ。リンレイ」
 そういわれると、少し嬉しくなる。
 船から下りて、通りを歩く。賑やかな声がどんどん近づいていく。
 そして、広場に出た。
 とたんに、舞い散るのは花吹雪……いや、紙吹雪だろうか?
 どちらでもかまわない。
 遠くではクラッカーの破裂する音まで聞こえた。
 それだけではない。
 何処かで、楽器が演奏されているらしく、明るく元気な曲が流れていた。思わず踊ってしまいそうな、そんな魔力を秘めた曲が。
「はぐれないよう、気をつけて」
 アールはそう言って、私の手を握ってくれた。
「あ、ああ」
 広場では人でごった返していた。この人波に呑まれたら、出るのも一苦労だろう。
 そうならなかったのは、アールが導いてくれたお陰だ。
 なんだか、目が回りそうだ。
「何か食べませんか?」
「あ、ああ」
 アールに促されて、やってきたのは、香ばしい香りに包まれた屋台だった。
「あら、アールじゃない!」
「ご無沙汰してます、アンナ」
「あらあら、そっちはアールのこれかい?」
 にやにやしながら、屋台の女将のアンナが小指を立てる。
「なっ!!」
「違いますよ、私のお客様です。このお祭りを案内してるんですよ」
 私の否定の声を聞いてか、アールはそう付け加えてくれた。
「あらそうなの。残念ねぇ。でもまあ、アールのお客様ってことだから、これはオマケしてあげるわ」
 そういって渡されたのは、出来立てホヤホヤのホットドック。湯気の立つウインナーに慣れた手つきでケチャップをリズミカルに程よく付けてくれた。
「あ、ありがとう……」
「どういたしまして」
 受け取ったホットドックをさっそく頬張る。美味い……。
 思わず、じいの姿を探してしまったが、ここに居ないことを、とても残念に思う。
 今度あったときに、話してやろう。出来立てのホットドックがどれだけ美味しかったかを。
「すみませんね、サービスしてもらって」
 アールがお金を払おうとしていたが。
「いいんだよ、前に助けてくれたお礼だからね。それにしても……あんた、今日は祭りなんだから、もっと気楽な格好できなかったのかい?」
 アンナは、黒一色に包まれたアールの服装を指差して、ため息をついた。
「これでも仕事中ですから」
 そういって、次の店へ。
「おう、アール!! 来てたのか!! 久し振りだな!!」
 髭を蓄えた親父に声をかけられた。
「元気で何よりです、リベックさん」
「今日はゆっくりできるんだろ?」
「いえ、補給でちょっと、立ち寄っただけなんです」
「それは残念だな。酒の相手をしてもらいたかったんだが」
 そういうリベックに、アールは嬉しそうにけれど残念そうに。
「また来ますから、そのときにでも」
「おう! 約束だぞ!!」
 どうやら、アールはこの街で良い仕事をしたようだ。
 彼と共に歩いていると、いろんなところから声がかかり、いろんなものを貰っていった。持てない分は船に運んでくれさえした。
 食べ歩いたり、ゲームをしたり、道端での芸人達の技や芸を見て騒いだり。
 何もかもが初めてで、新鮮で、面白かった。
 ちょっと目眩がしそうになったが、それを引いても、楽しさが上だった。
「有名なんだな」
「ちょっとだけ、皆さんを助けただけなんですけどね」
 きっとこんなに声をかけられるのなら、本当に良い事をしたのだろう。
 初めて会ったときは、凄い殺気を出していたが、今はそんなもの、微塵も感じない。
 街の人達にもみくちゃにされながらも、祭りを楽しむ一人であった。
 そして、私も彼のオマケとして、大いに祭りを楽しんでいた。
 なにより、街の人達の好意が、暖かい。
「こういうのも、いいものだな……」
「ええ、いいものですよ」
 ベンチを見つけ、二人はそこに腰をかける。
「それにこの街は、私の住んでいる街にも似ているんです。だから、ちょっとやり過ぎた部分もあるんですけどね」
 そういって、苦笑を浮かべるアールが眩しく見えた。
「やり過ぎた? そんな風には見えないぞ。むしろ、凄いことをしたように思うんだが」
「リンレイ……」
 ミラーシェードの奥で瞳を細めるアールに、私は堪らず立ち上がる。
「こ、今度はあっちの屋台に行くぞ!」
「いいですよ、姫様」
 そういって、おどけるアールの言葉に、少しむかついた。

 どのくらい楽しんだだろう。
「そろそろ戻りましょうか」
「そうだな」
 流石にはしゃぎ過ぎたかもしれない。少し疲れてきた。アールも良いタイミングで声をかけるものだと感心した、その時だった。
「あ、あれはっ!!」
「居たぞっ!! アールだっ!!」
 見たことの無い男が5、6人束になって、こっちに向かって走ってきた。
 その手には、銃やライトソードを持って。
「なんで敵がもう追いついているんだ! 特別なワープをしたんじゃなかったのか?」
「ええ、しましたよ。ですが……まあ、この星にはプラネットゲートがありますから、きっと感づいて追いついてきたんでしょうね。向こうも優秀なようです」
 そう言って、アールは荒くれ者達とは反対方向へと私を引っ張った。
「そんなこと、言ってる場合か!?」
 逃げながらも思わず、私は叫ぶ。
 きっと、あの男達は、前に追っかけてきた奴らの仲間だ。
 懸命に走る。その脇を銃の光線が掠めていく。
 と、足が縺れた。
 どちらかというと、足の疲れが限界に達したからに他ならない。
「リンレイ!」
「あうっ!!」
 撃たれたのは、レッグギア部分。幸いにもギアが頑丈だったからか、壊れたのは外装のみで、その下までは貫通していなかった。衝撃はあったが、痛みはない。
 しかし……。
「くそっ……」
 お陰で立ち上がれなくなっていた。さっきまで歩けれた力が、全く無くなった、そんな感じだ。恐らく動力の接続部をやられたのだろう。アールはそれを見て、すぐさま私を抱きかかえた。
「アールっ!?」
 俗に言うお姫様だっこというやつだ。
「いいから、捕まって。一気に駆け抜けるっ!」
 少しアールの体が沈んだかと思うと、先ほどとは比べ物にならないくらいの高速で走り出した。
「ちょ、アールっ!」
「今はリンレイを守ることが先ですから」
 それは嬉しいのだが、けれど、抱きかかえてやり過ごせる相手なのか?
 ほら、今度は目の前の通路から、敵が現われた!!
「逃しはしない!!」
「ここで、二人とも死ね!!」
 トンファーと折りたたんだ警棒を構えた男達が立ちはだかる。後ろにも、銃を持った男達が迫る。

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 絶体絶命だ!!