ダーク・ファンタジー小説

Re: アール・ブレイド ( No.8 )
日時: 2012/08/05 15:36
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)

「残念だが、そんなもので俺を止めることは不可能だ」
 私の顔の近くで、アールがそう静かに呟くと。
 ぶんっと、私を空高く放り投げた!!
「ば、馬鹿者っ!!」
 アールを怒鳴るが、既に時は遅し。私は空の住人に。
 けれど、空からアール達の様子が手に取るように分かった。

 両手がフリーになったアールは、すぐさま腰にある二本の剣を引き抜き、目の前の敵の懐に飛び込む。
「そんな剣でやられるかっ!!」
 負けじとトンファー使いの男が、それを使って一撃を喰らわせようとするが。
 二本の剣で太いトンファーを受け止め、弾く。同時にもう一閃。
 トンファーがありえないところで、真っ二つになった。
「なっ!?」
 うろたえる男に、アールは容赦なく、わき腹に鋭い蹴りを入れ悶絶させた。
 と、次の瞬間、後ろからナイフ男の攻撃!
 ナイフがアールを捕らえた……はずが、アールはそれをしゃがんで見事にその攻撃を躱した。その返す勢いをそのまま腕に乗せ、男の背中に喰らわせる。ナイフ男は、武器を落として、そのまま動かなくなった。
「死ねっ!!」
 その隙に後方から来た男達が発砲。
 アールは体を仰け反らせながら、その攻撃を全て避けると、両手に持っていた剣を上に放り投げた。私と同じか!?
 次に手にしたのは、太ももに取り付けられた、二つの銃。銃身が長く、狙いをつけるのは難しそうだったが、それを容易くアールは狙ったところに撃ち込んだ。
 狙ったのは、二人の男の手と足。
 見事に狙い通りの場所に命中。手から武器は落ち、足を怪我した男達はその場で悶える。
 アールは銃をホルスターに戻すと、タイミングよく降ってきた剣を両手で掴み、腰の鞘に戻した。
「すみません、空に投げてしまって」
 最後に落ちてきた私をしっかりと抱きとめて、アールは言った。
「わ、私はお前の武器か!?」
「こうでもしなくては、守れませんから」
 お陰で命は守れたでしょうというアールの言葉に反論は出来ず。
 そう言っている間にも、アールは駆けて行く。今度は通路ではなく。
「お、おいっ!! 何処を走ってる!?」
 とんとんとんと、猫のように身軽に飛び上がり、彼は建物の屋根上を走り抜けていた。
「どうやら、向こうは本気みたいですから」
「何だって?」
 思わず後ろを振り返った。
 なんと、後ろから追いかける男達も、アールを追いかけて屋根を駆けて来ているではないか!
「アール、嫌な予感がする」
 なんとなくそれを感じて、私はつい口を開いた。
「奇遇ですね、私も同じことを考えていましたよ、リンレイ」
 あまり良いことではない気がする。
 そう、遠くからグオングオン……と、嫌な機械音が響いてきたからだ。
 この特有の音は紛れもなく。
「向こうはモーターギアを持ってきましたか」
「本気かっ!?」
 こっちは生身なんだぞ!?
 思わず心の中で叫んでしまう。
「でも、もうすぐ船に着きますよ」
「た、助かったのか?」
 アールは一気にスピードを上げて。
 船に飛び込んだ。
「一応、なんとかなりましたね」
 華麗に着地をして、アールは私を降ろしてくれた。
 そんな私を受け取るのは、留守番をしていたカリス。
「お帰りなさいませ、マスター、リンレイ」
 カリスの情の無い声が、これほどほっとするとは思わなかったが。
「助かったんだよな……」
 カリスにコルセットらを外してもらい、いつもの車椅子に座る。
 船はいつの間にか動いており、攻撃を受けているためか、時折、ぐらぐらと振動していた。
「カリス、シルバーで出ます」
 いつの間にか、アールは既に奥の格納庫にあるシルバーに乗り込んでいた。
 パチパチとスイッチを入れ、起動準備に入っている。
「奥のでなくてもいいんですか?」
 あの青白い機体のことだろうか? カリスがそう確認する。
「必要ないでしょう。相手はタダのゴロツキですから」
 アールはそう言って、否定する。どうやら、あの格好いいシルバーで出撃するようだ。
「了解」
「リンレイを頼みますよ」
「はい、お気をつけて」
 立ち上がるシルバーが、とても美しく、そして頼もしく映った。
「カリス、アールの戦いを見たい」
「わかりました、移動しましょう」
 アールが出撃するのを見送った後、私はカリスに押してもらいながらブリッジへと向かったのであった。