ダーク・ファンタジー小説

Re: アール・ブレイド ( No.9 )
日時: 2012/08/05 15:38
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)

第6話 ◆宇宙を駆ける銀色の戦乙女

 ———『ハンター』になるために、大いに役立つのが、モーターギアの操縦免許だ。
 それを持っているか否かで、ハンター試験の難易度が劇的に変わる。
 むろん、持っている方が、有利だし難易度を下げられる。
 また、ハンターのランクも、この有無によって大きく変わっていく。
 上位ランクを目指すなら、必ず持っていないと、途中でランクを上げるのに厳しくなってくる。それくらい重要なのだ。
 そんなことをアールは、思わず思い出していた。
 これから、そのモーターギアを動かさなくてはならないのだから。
 もっとも、彼にとって、モーターギアは、彼の手足であり、分身でもあるくらい自然に動かせるものでもあるのだが———

 モーターギアの音が聞こえた時点で、こうなるだろうと感じてはいた。
 恐らく敵は、こっちの船を落としに掛かるだろう。
 こっちのシールドは、そう簡単には破られないだろうが、牽制する必要がある。
 それに……。
 慣れた手つきで、シルバーのシートにその身を滑り込ませる。
 少し固めのシートが、逆に心地よい。
「カリス、シルバーで出ます」
 スイッチを押して、起動を開始する。
 この一連の操作は好きだ。全てのスイッチを入れ、オールグリーンなのを確認した。
「奥のでなくてもいいんですか?」
「必要ないでしょう。相手はタダのゴロツキですから」
 イヤーギアに接続コードを付ける。
 ばちっ!!
 この痛みにも、もう慣れている。これで僕とシルバーとが無事に『接続』されたのだ。
「リンレイを頼みますよ」
 そう言って、僕はハッチを閉じる。とたんに壁が周囲を映し出すモニターへと一瞬で変化した。次々と流れてくる起動コード。足元のペダルを踏み込み、両サイドにある操縦桿に手をかけ、前に倒す。
「さて、行きますか、『ルヴィ』」
 二人が離れるのを見て、僕は宇宙に飛び出した。

 相手を引き付ける為に、宇宙まで来ていた。
 地上で戦ってもいいのだが、やっと復興してきたあの街を、また壊すのは忍びない。
 幸いなことに敵は、こっちの誘いに乗ってきてくれた。
 後は……蹴散らすのみ。
 できれば、この牽制に懲りてくれればいいのだが……。


「……サーチ」
 その声に従い、アールのシルバー——いや、今は『ルヴィ』と呼ぼう——の後方、背面から青白いひし形の結晶体『サーチプレート』が二つ飛び出す。
 それは敵機に向かい、すぐさま宇宙の闇に溶け込み、敵のデータを拾い集めた。
 敵はそれに気づいていない。
 同時にアールのミラーシェードの内側には、大量のデータが流し込まれてくる。
 サーチプレートが読み取ってきたデータが、流れてきているのだ。
 敵は5体。
 巨大なチェーンソーを二つもつけたのが1体。
 パイルバンカーをつけたのが1体。
 巨大な砲台を肩につけたのが1体。
 両手と右肩、合計3つのレーザーライフルを持っているのが1体。
 どれも、ブロンズ級のフレームを使用している。
 そして、最後の1体が両腕に巨大で鋭いクローをつけた軽量型タイプ。恐らくアールと同じ、シルバー級だということが覗える。
「ブロンズ4体にシルバー1体、まあ、妥当な線か」
 ただ一つ、残念なことは。
「こっちがそれを上回っているって所だけどね」
 アールは、にっと笑みを浮かべ、一気に間合いを詰めた。

「何だ、ありゃあ」
「あんな細っこいギア、初めて見たぜ?」
 敵は明らかにアールのギアを弱いものと見ていた。
「しかも1機で俺達と渡り歩こうなんざ、無理ってもんだ」
 そんな彼らを冷ややかな眼で見ている者がいる。
「まあいい、お前らの力を見せてやれ」
 眼帯をつけている男は、そう部下達に告げる。
「さて……あんなピーキーな改造してるんだ。タダでは死なないでくれよ」
 舌なめずりするかのように、眼帯男は瞳を細めた。
 彼の瞳の先にいるのは、右肩に巨大な盾を持った美しき戦乙女のギアだった。

 アールの『ルヴィ』には、右肩に巨大な盾をつけていた。
 何かを象った青い紋章のようなマークも見受けられる。
 と、動いたのは、チェーンソーとパイルバンカーの2体。
 彼らが近づく前に、アールは慣れた手つきで盾から剣を引き抜いた。

 ガキンッ!! キンッ!!

 パイルバンカーは盾で。
 チェーンソーは剣で受け流した。
 クローを持ったシルバーは、まだ動かない。高みの見物といったところか?
 ———それならそれでいい。
 動きが止まったところで、砲台とレーザーライフルが火を噴いた。
「バリアシールド全開!!」
 かなりの衝撃があったが、見えないシールドのお陰で、アールの機体に損傷はない。そのまま煙と共にやや後退する。
 そこにパイルバンカーとチェーンソーがまた切りかかってきた。
「今度はこっちから」
 剣を振りかぶる、と同時にその剣が伸びた!
 よく見ると、その剣には幾重もヒビが入っているような形状をしていた。グリップを切り替えることで、その剣は姿を変える。そう、鞭のように伸びて撓る特別な剣、『蛇腹剣』だ。
 その伸びた剣が、刃が輝きを纏う。
「行かせてもらう!!」
 一振りで2機の武器を粉砕した。
「なに!?」「オレ様の武器が!?」
 二振り目で、彼らの脚部を切断。その所為でチェーンソーを持っていた機体が大破した。とはいっても、爆発前にパイロットは外に脱出して、命だけは無事だったが。
 それを見て、砲台とレーザーライフルの機体が接近しつつ、『ルヴィ』目がけて射撃してくる。アールは高速移動で避けつつ、弾丸を肩のシールドと、剣で弾き返す。弾ききれなかった分はバリアシールドとで打ち消す。
「近距離で戦っても構わないんだけど」
 剣を素早く盾に戻すと、今度は背中にマウントされていたレーザーライフルを腰だめに構えた。
「まあ、こっちの方が狙いやすいか?」
 アールのミラーシェードの内側に、照準が現われる。右腕の操縦桿のボタンカバーを親指で開き、タイミングよく押していく。
「なんだと!?」「馬鹿なっ!!」
 レーザー弾は、そのアールの押した通りに発射し、彼らの武器を見事に撃ち貫いた。
 残りは、クローを持った機体のみ。
 アールはボタンカバーを戻すと、もう一度、操縦桿を動かし、盾から剣を取り出した。

「ほう、見事に無力化したか。面白い」
 腕を組む眼帯の男は、その手を操縦桿へと伸ばした。
「少し遊んでやるか。相手を殺しても良いといわれているしな」
 楽しげに嗤いながら、男はコクピットの上部にあるレバーを引いた。

 アールの機体にぶつかるかのように、クローの機体は猛接近してきた!
「くっ!? まさかアイツ、シルバーじゃない?」
 何とか躱したが、盾が大破してしまった。使えなくなった盾を捨てて、剣を両手で構える。
「どうやら、驚いているようだな、『アール』」
 焦っている様子を知っているのか知らぬのか、眼帯の男は、その手を止めない。
「俺の機体は、シルバーに成りすました、『ゴールド』! 貴様に勝てるわけが無い!!」
 その猛攻を剣とバリアシールドで防ぎながら後退していく。大降りの攻撃をアールは剣で力いっぱい弾き返し、腕に内蔵しているマシンガンを敵に打ち込んだ。
 その煙と共にアールは、距離を取る。
 接近したときに見えたあの、回路の煌き。
「あの金色の煌き……相手はゴールドだったか」
 ミラーシェードのデータに、破損データが加わっていく。これ以上、長引けばこっちが危ないだろう。
 そんなとき、ふわりと立体映像がアールの隣に映し出された。
 蒼い髪の少女が不安そうにアールを見つめる。
「大丈夫ですよ、『ルヴィ』。あなたの体にこれ以上、傷つけさせません」
 そして、アールは手元にあるキーボードを素早く打ち込んだ。
「プログラム・スサノオ起動。……ルヴィ、ちょっと痛いですけど、我慢してくださいね?」
 その言葉にルヴィと呼ばれた立体映像が、にこりと微笑んで頷いた。
 アールも微笑む。
 ヴイイイイイイイイイイ………。
 唸る機械音と共に、アールの周りに青白いオーラのようなものに包まれ。
 アールの『ルヴィ』の内部回路に青白い灯が灯り始めた。

「あん? 手が止まったか? ならこっちも止めと行くか?」
 眼帯男はにやりとほくそ笑み、再び上部のレバーを大きく引いた。
「これで終わりだ、アールっ!!」
 眼帯男のギアのクローに、さらに凶悪なプラズマの光が加わり、力が込められる。