ダーク・ファンタジー小説

Re: ドレッドノート ( No.6 )
日時: 2020/03/02 22:09
名前: 祝福の仮面屋 (ID: xZ7jEDGP)

代弐話「暗殺者の1日」

「んん…!いい朝ですね…」

暗殺者の朝は早い。
私の名はマスクドナイト・クロノスチーム・ノアール、由緒正しき貴族家の末裔・ゴーストナイト家に仕える執事で御座います。私は洗面台で顔を洗い、身嗜みを整え玄関にて我が主人を出迎えます。

「おや、お早う御座いますお嬢様。お出掛けですか?」
「おはようノアール、少し散歩に」
「左様で御座いますか、お気を付けて」

まず、親愛なるン我が魔王!…じゃなかった、親愛なるン我が主人・ビアンカ様の日課である散歩を見送る。お嬢様の事でしょうから、散歩ついでに近所の方々の労を労いに行くのでしょう。そして私は他の使用人やメイドとの挨拶を交わした後、自己鍛錬も兼ねて我が自室へと戻って行く。

『Ladies,and,gentlemen!これから始まる手品には〜♪種も〜仕掛けも御座いません♪1!2!3!』
「日々…鍛錬…」

昨日溜撮りしておいたアニメを見ながら、私は自室にて自己トレーニングに励む。暗殺者以上に執事たる者、日々鍛錬を欠かさず行う事でちょっとやそっとでは動じない忍耐力と、何事にも怯まない強靭な精神力を得る事が出来ます…え?アニメは余計だって?……唯一の救いなので見逃して下さいお願いします。今日は数少ない非番の日なので、偶には趣味に没頭させて下さいお願いしますどーかこのトゥーり。

「ノアール様、少し宜しいでしょうか?」
「分かりました、すぐ行きます」

鍛錬を終えた私は、栗色の髪が特徴的なメイド長・レベッカさんに呼ばれて自室を後にする。アニメは大丈夫なのか?えぇ勿論、アニメが終わるまでの24分間部屋には誰も一切立ち入らせないので、アニオタとバレる心配も決して御座いません。

「ノアール様…あの…お約束、覚えて頂いてますか?」
「えぇ、勿論」

本日、私はレベッカさんとデートの約束をしていたのです。執事長とメイド長が同時に屋敷を後にするのはどうかと思いますが…まぁ、背に腹は変えられません。彼女との付き合いは長いので、折角彼女からデートのお誘いを受けたと言うのに足蹴にしてしまっては彼女に申し訳ないですし、何より彼女の思いを無下にしてしまう事になります。それに関しては私の良心の呵責に障りますし、何よりプライドが許せませんので。

***

「ここですか?」
「はい、ここ…実は私のお気に入りの場所なんです。ノアール様にも気に入って頂ければ良いのですが…」
「レベッカさん、私と貴方は同僚である以上敬語を使うのも疲れるでしょう?溜め語でも構いませんよ?」
「…ノ、ノアール、一緒に…行こ?」
「えぇ、喜んで」

頬を赤らめる彼女を傍目に、私は彼女の手を引きながらドアノブに手を掛け、ゆっくりと扉を開けます。すると、目の前にはアンティーク調の見るからに高価な家具が置かれているではありませんか。外装も随分と洒落ていましたが、内装もこう洒落ているとなると彼女のお気に入りスポットになるのも納得です。

「いらっしゃい…おやレベッカちゃん、今日は彼氏連れかい?」
「か…!お、おちょくらないで下さい!彼はその…仕事の同僚です」
「カッカッカ、まぁ座りな。今日はついてるなぁ、お客さんはアンタら二人だけだぜ?彼氏さんもゆっくりしていきな」
「ではお言葉に甘えて」

クラシックの曲が流れるこの空間では、まるで時が過ぎるのを忘れてしまいそうなくらい落ち着いて過ごせますね。どうやらレベッカさんはここの常連だそうですが、私も気が向いたら行ってみようかな…。

「ご注文承ります」
「おやマスター、これはこれは可愛らしいウェイトレスですね」
「自慢の看板娘だ、変な気は起こしてくれるかよ?」
「残念、私は幼女趣味ではないのですよ。では、私はオレンジペコを貰えますか?」
「私はテデザリゼで」

注文を受け付けたウェイトレスは、「かしこまりました、オレンジペコ一つとテデザリゼですね?」と注文を確認すると、マスターの方へと歩いて行く。かなり…というか結構今の時代では見かけない外装ですから、しかも立地もあって知る人ぞ知るといった感じですね。という訳で頼んだ物も飲み干し、店長の粋な計らいによって提供されたガトーショコラも頂いた後、しっかりと会計を済ませて帰路にたく事にしました。無論、デートは大成功です。

***

さて今はもう夜ですが、今回は些かいつもより時が過ぎるのが早く感じてしまいました。彼女に色んなところに連れて行って貰ったのもあるのでしょうが、いつもは長ったらしく感じてしまう非番の日も、こう言った楽しみを見つければ早く感じるものですね。「昼がもう少し長ければ」と嘆く声をよく聞きますが、今ではその言葉の意味が分かる気もします。

「ノアール…寝ないの…?」
「いえ、今ちょうど日誌を書き終えた所ですので、お眠りになられないのですか?」
「怖い夢…見たから…」

ビアンカ様は高校生くらいの年齢ですが、昼間の活発な彼女とは異なり夜中ではこうも甘えん坊な性格になってしまいます。こういう所も可愛いと言うべきでしょうか……まぁ、そんな事言ったら確実に二重を極まれちゃいますからよしておきましょうか。

「大丈夫です、私が側にいます」
「良かったぁ…」

………数十分後、すーすーと可愛らしい寝息を立てながら深い眠りに就いたお嬢様の毛布をかけ直し、私は部屋を後にする。これから仕事なのか?えぇ、何せ私はゴーストナイトファミリーに仕える暗殺者、闇に紛れて闇へと葬る存在であります故。
それでは皆様、Good,Night



次回
「更なる刺客」