ダーク・ファンタジー小説

Re: ドレッドノート ( No.7 )
日時: 2020/03/03 20:15
名前: 祝福の仮面屋 (ID: cerFTuk6)

代参話「更なる刺客」

「はぁ……」
「珍しいな、お前が溜息を吐くとは」

千歳は珈琲を飲みながら溜息を吐き、珈琲を差し出して来た黒髪のマスター・黒星 統威の一言に対し、「そうか?」と一言だけ返す。現在千歳はとある店に来ていた。店の名は『玩具喫茶・STARS』。統威と二人の看板娘が経営する喫茶店であり、この店には他の店舗には無いこの店だけの秘密…というか個性があった。ここは『玩具喫茶』の名の通り、珈琲などはもちろん戦隊モノの玩具なども提供しているのである。故に一部の客層に莫大な人気を誇り、中には玩具目当てで来る客も居るんだとか。

「図太いお前がそこまでやられるとは…まさか、鬱病にでもなったか?」
「ばーか、んな訳あるかよ…ただ、アイツが気になるだけだ…」
「あいつ?」
「あぁ、『アイツ』」

因みに『アイツ』と言うのは、つい先日荻野目自宅で遭遇したマスクドナイト・クロノスチーム・ノアールと名乗る奇妙な男の事だった。臙脂色のタキシードにモノクロの仮面、数世紀前に流行った悪人を月に代わってお仕置きしちゃう系美少女戦士のアニメに出て来そうな風貌だったが、多分違うだろう。あの男と会ってから澪氏の夫・裕二氏の遺体を発見した訳だが…死後硬直からかなり時間が経っていた為、あの男が殺人犯とは考えにくいだろう。考えの纏まらない頭で必死に考えていると、統威が気を利かせてくれたのか、フォンダンショコラをカウンターに置いてくる。

「サービス精神か?」
「あぁ、何か考え事してるっぽかったからな。考え事すんなら糖分は必須だろ?」
「……ありがとよ」
「んで?その依頼の全容は依頼主にちゃんと話したのか?」

勿論、依頼主である澪さんには一部始終を話てある。彼女の自宅に仮面を被った謎の男がいた事、彼と交戦した事、彼もまた自分とは別の誰かから依頼を受けていた事や彼が家を退去した後に夫の裕二さんの遺体がクローゼットから発見された事。一応だが後は警察に対応して貰うように掛け合ってこそあるが、クローゼットの中の遺体が死んでからかなり時間が経っていた為、頭の奥では彼女が犯人なのでは無いかと考えている自分もいた。そんな考えをかき消すかのように、千歳はテーブルに置かれたフォンダンショコラに齧り付く。

「品のねえ買い方だな」
「糖分が必要なだけですー」

統威の一言に千歳は不貞腐れた様子で返す。統威は軽く微笑み、唐突に真剣じみた表情で資料の入った茶封筒を取り出し、千歳の前に見せつけて来る。

「これは?」
「取り敢えず話は後だ、一旦裏のスタッフルームまで来て貰おうか。鳴、輝、店番は頼んだが閉めても構わん」
「分かりました!」
「はいはーい」

統威は看板娘二人にそう告げると、千歳を連れて裏口から繋がるスタッフルームへと連れて行った。

***

「そんじゃ、まずはこれにザッとで良いから目を通して貰おうか」
「コイツは?」
「最近起こった連続行方不明事件、そして連続自爆テロに関する資料だ」
「で?この資料があの事件と何の関係があるってんだ?」

千歳の問いに対し統威は「まぁ落ち着けよ」と諭し、ソファに座るように促す。千歳はぶつぶつと何かを言いながら座り、座ったのを確認した統威は続きを話始める。

「でまぁ作家の続きな訳だが…取り敢えず、この事件には何らかの組織が関係してる」
「何らかの組織?」
「あぁ、お前は臙脂色のタキシードを着た仮面の男と会ったって言ってたよな?」
「あぁ、それがどうした?」
「その男が所属してる組織、その名前はゴーストナイトファミリーだ。流石のお前でも名前くらいは知ってるだろ?」

名前どころか、ゴーストナイトファミリーと言えばイタリアを拠点に活動しているマフィアの家族…即ちマフィアファミリーならぬ、家族でマフィアやってるファミリーマフィアである事も知っている。子供達は美男美女の集まりらしく、長女・ビアンカには連日見合いの申し込みが殺到しているのだとか。

「大体は」
「まぁ、ファミリーマフィアって事くらい知ってれば大丈夫か?まぁいいか。そんで後一つの組織な訳だが、疾風迅雷net.ってのも知ってるか?」

確か、最近ネットで話題になっているテロリスト集団の事だったか。『迅』と名乗る少年をリーダーとしており、高校生かそれ以下の年齢の子供達で構成されているとも聞いた事がある。活動拠点は未だに明らかになっていないが、一説ではかつての国後島…現在は『デイブレイクシティ』と呼ばれている廃都を拠点にしているのでは無いかと言われている。

「だけどよ、何で疾風迅雷net.みたいなチンピラ紛いの集団がマフィアと手なんか組んでんだ?」
「おいおい、誰も手を組んでるとは言ってねぇだろうがよ」

「ゴーストナイトファミリーがチンピラ紛いの集団と手を組むと思うから?」と統威は付け加えるが、確かに統威の言う通り、厳格なゴーストナイトファミリーが新参のテロリスト集団などと手を組む理由がない。ここまで来ると犯人は疾風迅雷net.で、彼らが犯罪を犯した時間帯にあの男がやって来た時間が被ると考えられるが、だがそれでも腑に落ちない点はいくつか存在する。

「いや…だとしても、何でこの事件にその疾風なんたらnet.ってのが関わってるのかが分からん。」
「そうか?話によれば荻野目裕二さんは元政治家だったそうじゃ無いか。その来歴なら、ネジの飛んだテロリスト集団に目を付けられても可笑しくないと俺は思うが?」
「いや、そうかも知れねぇけど…」

刹那、けたたましい爆発音と共に鳴と輝の二人がスタッフルームに飛び込んで来る。戦慄する千歳を他所に、統威は目を見開きながら血塗れの二人の元へ駆け寄る。

「おい!鳴!輝!何があった!?」
「て、店長…逃げて…下さい…!」
「うぅ…」

統威は鳴達が飛び込んで来た方角を睨み付け、侵入者を牽制する。しかし、彼らの前に現れた侵入者の風貌は、無機質で機械的な見た目をしていた。

「何なんだ、テメェ…!」
『標的確認、計良千歳および黒星統威。殲滅開始』

統威は侵入者に問いかけるが、侵入者は無機質な機械音声で統威と千歳の二人を新たな標的と定める。予期せぬ侵入者との戦いが、今幕を開けた。



次回
「Blood,Memories」