ダーク・ファンタジー小説
- Re: ドレッドノート ( No.8 )
- 日時: 2020/03/06 16:03
- 名前: 祝福の仮面屋 (ID: cerFTuk6)
代肆話「Blood,Memories」
「ラアアァァァッ!」
生身とは思えない轟音を響かせ、千歳が放ったハイキックは無機質な侵入者の頭部にクリーンヒットし、侵入者の首を180度回転させる。本来なら…いや、中に人間が入ってさえいれば、今すぐに侵入者の動きは停止するだろう。しかし、侵入者は強引に首を180度逆回転させ首を元の位置に戻す。かなり不気味な印象を受けるが、中に人が入っていないとわかった以上本気で戦える。千歳は深呼吸し、次の行動を読む為に瞼を閉じるがーーー
「避けろ計良ァ!」
「ッ!?うおおおお!?」
唐突に統威の叫び声が入り、千歳はバク転の要領で後方に回避する。刹那、さっきまで千歳が立っていたところが真っ二つに切断される。その切り口は地割れとかで起きる粗雑なものではなく、まるで鋭利な刃物でバターを切り裂いたように綺麗だった。
「何だこれ!?」
「知るか!次が来るぞ!」
再び降り注ぐ斬撃。千歳と統威は共に回避し、統威は携行している拳銃の引き金を引いて侵入者に向け発砲する。二人はその悉くを避けて行くが、放たれる斬撃の雨霰は応接デスクなど家具をぶった斬って行く。
「どうすんだよアレ!」
「俺が知るか!」
「どうやらお困りのようですね…」
くぐもった声が聞こえた次の瞬間、侵入者の体を何かが貫く。その先端は槍のように鋭く、全体的に見れば機械で出来た蠍の尾の様な形状をしていた。その蠍の尾は持ち主の方へと縮んで行き、腕に絡まるようにして格納される。その男を、千歳は見た事がある。
「ノアール…!」
「おや、これはこれは千歳さん。こんな早くも予言が当たろうとは」
臙脂色のタキシードを身に纏い、白黒の仮面を付けた男・ノアールは蠍の尾が巻きついた左腕の袖を降ろすと、仮面越しでも分かる程に明確な笑みを浮かべる。そして千歳の冷たい視線に気付いたのか、若干芝居が掛かった様子で両手を上げる。
「さて、私は帰りますかね」
「まて、話は後で聞こう」
「…話のわかる方は嫌いじゃないですよ」
***
「早速だが、お前は何でここに来た?」
単刀直入な質問だが、その選択は間違っていない。確率は低いだろうが、彼が現れたタイミングの都合が良すぎる以上、マッチポンプの可能性も否めないからだ。しかし当ては外れたのかノアールは軽く首を傾げると、まるでこちらの考えを見透かしているようにーーー
「………まさか、貴方方は私のマッチポンプなんじゃないかとか思ってます?」
冷たい声色で質問を返す。
「あぁ、何せ登場のタイミングが良過ぎたからな。疑わない訳にも行かんだろ」
大抵の者ならここで萎縮してしまうだろうが、流石は裏社会の大物と言うべきか統威は微動だにせず冷静に返す。そして統威はノアールに茶封筒を渡し、本題に入る。
「まぁ、お前のマッチポンプの可能性は低いだろうが捨て切れないからな。それにお前はあの日、何故荻野目さんの家にいた?」
「ノーコメントで」
「………巫山戯てんのか?」
「いえね、私はしがない暗殺者。依頼主の素性の詮索は致しませんし、私の仕事は依頼を確実に遂行する事ですから」
統威に胸ぐらを掴まれながらも、ノアールは飄々とした態度を崩さない。そしてノアールはため息をつくと、うんざりした様子で胸ぐらを掴む統威の腕を見下ろしーーー
「それと、この腕…離して貰えますか?」
「がっ!?」
強引に引き剥がし、怯んだ統威を応接デスクに組み伏せる。無論統威は拘束から逃れようと抵抗するが、ノアールはビクともしない。
「はてさて、では先程の話の続きと行きましょうか。千歳さん」
「あ、あぁ分かった。統威、少し二人きりにして貰えるか?」
「………分かった」
統威が出て行った事を確認したノアールは、音もなく椅子に座り、まるで猛禽類のように鋭い瞳で仮面越しにも関わらずプレッシャーを与えて来る。千歳は少し恐怖を覚えながらも、ノアールにある質問をする。
「アンタは何で、あの時あの家にいたんだ?それに…あれはアンタがやったのか?」
「ふむ、貴方からちょっかいかけて来た癖にそれを言いますか?……まぁいいでしょう。話せる所は話しましょう」
どうやら彼は、自分と同じく誰かからの依頼を受けて荻野目邸へ行っていたらしく、彼曰く「自分が来た頃には、既に例の夫は殺されていた」ようだった。その依頼主に関して聞くと、「守秘義務ですのでノーコメントで」と返して来た為殴りかかりそうになったが、つい先程統威が組み伏せられたのを思い出し座り直す(因みに、統威は現在鳴と輝を連れて店の修理を行なっている。)。
「そんで、例の写真には目を通したか?」
「えぇ、これは私の勘なのですが…この事件にはどうやら、疾風迅雷net.が関わっていると思います」
「………根拠は?」
「依頼内容を話すのは私の流儀に反しますが…私は、依頼主に『父の護衛』を頼まれていたのです。即ち、貴方は妻の澪さんに依頼を受けたのならば、私は彼の娘さんに依頼を受けたと言う訳ですね」
言わばそう言う事だ。
どうやら、彼もまた裕二氏の身内の人間から依頼を受けていた訳で、彼も依頼主に依頼の失敗を告げていたらしい。
「何で言わなかった」
「貴方が突然殴りかかって来たんでしょ」
ノアールの冷静なツッコミに顔を逸らす。正論過ぎてぐうの音も出ない。それを見かねたのか、ノアールは「まぁいいでしょう」と話を戻すとタキシードの胸ポケットを急に弄り出し、一枚の写真を机に置く。そこには、全身を鋭利な刃物で滅多刺しにされ腹を真っ二つに破られた裕二氏と、監視カメラに向かって笑顔を浮かべた血塗れの少年がいた。その少年の顔はフードで隠されており、顔はよく見えなかった。
「おそらく彼がそうです」
「……コイツは?」
「彼の名は『迅』。疾風迅雷net.のリーダーにして、この事件の最重要人物です」
次回
「Are,you,crazy?Yes,my,crazy!」