ダーク・ファンタジー小説

Re: グランドアヴァターラ ( No.1 )
日時: 2020/02/02 15:00
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)

第1話


道を歩くと黒い軍服を着た青年が立っていた。

「貴方がアルトリア様ですね。僕は黒百合騎士団団長シウと申します」

黒百合騎士団、ここアヴァロン王国に存在する騎士団だ。ペンドラゴンと名乗る男から

託された記憶にあった。

「早速で申し訳ないのですが…貴方に王を継いでほしいのです。今は王が不在、無駄な

争いは可能な限り避けたい」

シウの言葉に彼女は相槌を打つ。それは避けたい。上に立つことは柄じゃないが腹を

決めるしかないようだ。彼に案内してもらい城にやってきた。目の前にそびえ立つ城には

迫力がある。中に入ると既に数人の人物が待ち構えていた。そのうちの数人はシウと同じ

黒百合騎士団の団員らしい。


アルトリアの眼にたった一人周りより頭一つ分ほど飛びぬけた背丈の男が入った。

彼もアルトリアが自分を珍しそうに見ているのに気が付いたようで彼女はサッと目を逸らす。

額にある目だけが開いている。

「恥ずかしがらないでくださいアルトリア様」

彼はアルトリアに気を遣い少し身を屈める。長い黒髪が床につく。

「私はサリバンと申します。サイクロプスという種族と精霊族の血を引く半巨人です」

サイクロプス、巨人種だ。その血があるからこそ周りよりも背丈が高いようだ。

Re: グランドアヴァターラ ( No.2 )
日時: 2020/02/02 19:38
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)

第2話


アヴァロンと同盟を結ぶ小国シャンバラ連合国。アヴァロンで動くシャンバラ出身の

忍たち夜鮫隊。その中の一人、ヤイトは木の枝に立ち顔を強張らせた。たった一人で

ざっと十万はいる軍勢を殲滅させた謎の男。その男はかなり目がいいのかすぐに自分の

存在に気付く。危険を察知し彼は身を退いた。


「…ってワケです。すいません、戦闘は好きじゃないんで気が付かれたときに退きました。

アルトリア様、前国王がやろうとしていたことをやるって張り切ってるんですよね。

大丈夫ですかねぇ、結構面倒くさそうでしたよ」

鮫の口のような仮面で顔半分を覆っているため声が籠って聞こえる。

「そういえば…アルトリア様とサリバンさんは?あの大きい人、いませんね」

ヤイトは辺りをキョロキョロと見回す。サリバンの第一印象はやはり背が異様に高いと

いうことらしい。そのことをサリバンは気にしていない。


その頃、城の別の場所ではアルトリアとサリバン、そしてシウの三人は有翼種に会っていた。

そのうち一人はたまたま一緒に来てしまった男だ。

「わ、わぁ…大きいだ!」

訛りが強い話し方をする烏天狗の青年はルチル、有翼種の族長ヘリオドール、常人を超えた人間

シン。その三人だ。

「確かお前はサイクロプスの血を引くと言っていたな。で、そっちのが新しい王様か?俺は

ヘリオドールだ。これからよろしく」

「アルトリアです、よろしくお願いします」

ヘリオドールは目を見張る。ペンドラゴンをそのまま性転換したような容姿をしている。

Re: グランドアヴァターラ ( No.3 )
日時: 2020/02/05 19:46
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)

第3話


「オイ。随分と楽観的なんだな」

「カルラ、いつの間に…彼女にはそれなりの実力があると思うが。お前の場合は自分で

試したがるだろうと思ったよ。というわけだ、見極めさせてもらうぞアルトリア」

カルラと呼ばれた青年の両手足は鳥の足だ。より鳥の獣人らしい姿をしている。彼は

武器を何も持たずに構えた。アルトリアの肩をサリバンは突く。そして白い布に包まれた剣を

手渡す。

「え?何この伝説の剣的な奴…」

「武器。ペンドラゴン様は使わずにいましたが貴方へのギフトです」

布を剥ぎ取ると美しい白銀の刃が見えた。鋭い銀色はカルラを捉える。

「オイオイ本当に使えるのか?見た感じ構えが初心者だぞ」

シンは鼻で笑う。

「捕捉しますがアルトリア様はペンドラゴン様の持つ知識や技などを受け継いでいます。

つまり…」

「ペンドラゴン同等の戦闘力を持つ、そういうことだろ?」

言葉の先を説明したヘリオドールにサリバンは頷いた。カルラの攻撃を躱しながら隙を

見極める。

「(こいつ…それなりに力はあるみたいだな。構えがあれだからどうなのかと思ったが…

見えてやがる)」

カルラの前蹴りを伏せて躱したと思いきやカルラは微かな痛みに顔をゆがませる。脇腹に

浅い掠り傷が出来ていて剣を水平に持ち前傾姿勢で横を潜り抜けるアルトリアに舌打ちする。

「んなっ!?」

回転しながらの裏拳は固い壁に阻まれた。剣を地面にさしている。白銀の壁は絶対に

アルトリアへの攻撃を許さなかった。白銀の光は次第に強さを増していく。

「もう、いいですか」

「…どういう意味だ?降参か?」

「そうじゃない。戦いを終えてもいいかなってこと。これから仲間になるのに嫌だからね」

剣の刃は切れぬように布が巻かれていた。この勝負に自分は負けた、カルラの心に敗北という

二文字が染みついた。

Re: グランドアヴァターラ ( No.4 )
日時: 2020/02/06 18:12
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)

第4話


無事ヘリオドールたちとは打ち解け合い協力すると約束した。カナン帝国へかなり

近寄れる事態が起こる。

「早すぎるな…宣戦布告直後に軍を送るとは」

シウは顎をさする。扉が開きヤイトは白髪の男を連れて戻ってきた。ペンドラゴンの友、

義勇軍ラクリマの団長ミカエラだ。

「すぐに出るのか?こっちは準備満タンだぜ」

「待ってください。もう少し…否、もう終わったみたいです」

階段を下ってきた中世的な女性は淡い青色のマントを翻す。

「お前がアルトリアか?俺が…おっと、記憶はあるんだったな。すまない」

「気にしないで。さぁ、みんな準備は出来てるね?さっさと勝って、さっさと終わらせちゃおう!」



戦場になるであろう荒野、前線に配置されたのは眷属軍だった。アルトリアなる者の実力は

把握できていないため、盾にするつもりだ。

「随分と不安そうな顔をしているなフブキ」

長い黒髪の青年に女は話しかけた。灼熱のサーチスという。一方青年の方は犠牲のフブキと

呼ばれる。どちらも眷属軍の主戦力だ。

「あたしとアンタでアルトリアって奴を抑えるんだろ」

「そうだ。だけど…妙な胸騒ぎがする。その人は侮れない。それにこれが終わればきっと…」

声がして我に返る。眷属軍よりかは少ないがそれでも主戦力が揃っている。軍の先頭に

立つのは中世的な凛々しい女性だった。カナン帝国の人間はアルトリアは男だと語り

勇者であると言っていた。後者はあっていたとして前者は間違っているようだ。

「…まさか、君のような人が戦うのか?」

「不満?フブキ。それは女だからかな」

声も中性的だ。姿はふとある男と重なった。

「聞きたいことがある。君は…君はペンドラゴンと血縁関係があるのか?」

少し間を開けて彼女は首を振る。

「兄弟でもない。ある日、異世界に来たらこの姿になっていてペンドラゴンという男から

彼の記憶等を受け継いだ異世界人アルトリアさ!私の目的はただ一つ!カナン帝国との同盟そして

眷属軍の開放だ!!」

Re: グランドアヴァターラ ( No.5 )
日時: 2020/02/06 19:08
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)

第5話


「可能な限り人数を減らすよ!!」

剣を地面に刺しアルトリアは閉じた目を開く。

—ロードオブキャメロット!

全員が動揺しだす。遠方で指示を出していた帝国軍も驚く。帝国軍を操る人物は笑みを浮かべた。

「ほぅ…かなり広範囲の転送魔法だな。懐かしいねぇ」

戦闘力が低い者はどんどん戦場から追い払われていく。

「仕方ない…細身だろうが容赦はしないよ!!」

サーチスは大きな剣を振り回す。彼女よりも小柄なアルトリアは前傾姿勢で駆け抜ける。

あわよくばフブキの相手をせずに他の主戦力を片付けたいと思ったがそれは敵わなかった。

「行かせはしないよ」

フブキの剣をアルトリアの剣が受け止める。

「確かにその太刀筋は彼と同じだ…だけど君は帰れ。君が来るような場所ではない」

「今は王様だよ?みんなが戦ってるのに逃げられるわけがない。それに絶対に貴方たちを

助ける!」


一方そのころ、黒幕は徐々に力をためていた。黒い球体は様々な人間を飲み込み肥大化する。

ミカエラは違和感を感じた。彼のみならず他の戦士たちも。

「人数が減ってねえか?アルトリア、気を付けろよ。ここで力を使い過ぎるな」

ミカエラの言葉にアルトリアは頷いた。

「へぇ珍しいね。サイクロプスの混血だなんて…細いけど」

「眷属軍は随分とこき使われているようですね。大人しくしてください、アルトリア様は

必ず貴方たちを救う」

「今更無駄さ…あの子には荷が重いと思うがね。あたしが教えてやろうか?この戦場にいる

カナン帝国の戦士は全員、生贄みたいなもんさ」

サーチスは剣を振り下ろす。サリバンは持っている三叉槍で剣を受け止める。

「あの子がフブキに勝ったらね」

「何を言っているのか。勝敗はつきますよ」

二人の間に剣が落ちてくる。

Re: グランドアヴァターラ ( No.6 )
日時: 2020/02/06 19:20
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)

第6話


フブキは気圧されていた。剣は手から抜けていた。

「よぉ、勝敗はついたか…フブキ」

「お前…ペンドラゴン!?」

その名を聞き全員が戦いをやめた。銀髪を揺らし彼はアルトリアの隣に立った。

「よしてくれよ、今はただの守護霊さ。全てをとめてやったまでだ」

そして彼はアルトリアを見た。

「短い戦いだろ?あっけないぐらいが丁度いいのさ。さぁ弔ってやろうぜカナン帝国前皇帝を」

アルトリアは剣を捨て弓を構える。手に握られた白銀の美しい弓矢に全員の魔力が集まる。

腕が痛い。顔をゆがめるも隣でペンドラゴンも付き添い弓を引いていた。

「狩猟の女神アルテミスを一目惚れさせたオリオンの弓だ!味わって死んで来い!」

—アルテミスパフューム!

銀色の弓矢は夜空を駆け上がっていく。











大きな断末魔が反響する。







数日後の話だ。眷属軍は解放された。

アルトリアとペンドラゴンによって。アルトリアは正式な王となって新たな生活を始める。




<第1部・完>


雑過ぎですよね。申し訳ないです。第1部に出てきたキャラは出番が少なくなるかもしれません。

続けて二部へ!