ダーク・ファンタジー小説

Re: 衰没都市リベルスケルター ( No.8 )
日時: 2020/02/15 10:31
名前: 祝福の仮面屋 (ID: yVTfy7yq)

代参話「Re:Birthday」

「すっご〜い!何これ何これ!」

とある異世界(?)に来てから三日程時が経ち、異世界転生者(仮)こと雪宮茅種は、初めて見る光景に大興奮していた。まぁ、恐らく此処がどこかも分からない為、遂に知能指数が低下したと思われるがそうじゃないと思いたい。スマートフォンのカメラアプリを起動し、周囲の植物を撮影して行く。実は彼女の趣味、とても意外な事に植物鑑賞なのである。

「ねぇ、ローカスト。貴方はこの植物の事知ってる?」
「ヴァグゥ…?」
「やっぱ知らないか…まぁしょうがないよね、私も分からない訳だし…」

デフォルメされた機械蝗…《ローカスト》は首を振り、茅種は小さくため息を吐く。
因みにこの機械蝗、元々名前は無かった訳なのだが、呼び名が無いと不憫に感じた茅種が群れを作る蝗を意味する英語・Locustと名付けたのだ(グラスホッパーだと呼び辛いからだろうか、え?そんな事ない?寧ろ略して呼べるから逆に楽?ほっとけ)。
とは言え、機械蝗も名前は気に入っているらしく、茅種も名付け甲斐があっただろう。

「つーか、此処どこだろう…見た目的には東京タワーの近くっぽいけど…」

少なくとも、この異世界(仮)ではコンビニ等一部の場所でしか電波が通じないらしく、スマートフォンが無いと生きていけない今時の若者からしたら地獄以外の何でも無いだろう。多分今どこの若者だったら発狂死しそう。

「ガァァァアアアア!」
「うひゃー、やっぱ来ますか」

ほのぼの日常パートも束の間、東京タワーの陰から巨大な怪物が現れる。この前戦った巨大蜘蛛と違い、今度は本気で怪物と思わざるを得ない風貌をしていた。恐らく原型は蛍なのだろうか、とは言えあのヤゴ(?)から放たれる悪臭は筆舌しがたいものだった。

「……くっさ!しかも何あれキモッ!多分ドリアンだな!?あの玉ねぎが腐ったような独特な臭いは!」
「ギュァァァアアア!」
「うおおお!こっち来んな馬鹿ぁぁぁ!」

ヤゴの突進を紙一重で躱す茅種。しかし、ヤゴのスピードの方が一枚上だったのか、突進の余波を右腕に食らってしまう。

「いっつ………!しかも臭いし!」

茅種の右腕に鈍痛が走る。
だが茅種とて一方的にやられる訳にはいかず、即座に体制を立て直し、相棒の名を呼ぶ。

「行くよ!ローカスト!」
「ヴァァァァァァグゥ!」

雄叫びを上げたローカストは茅種の脚に現れた痣、ヴァグ・エフェクトを発動させる。エフェクトは蝗の強靭な脚を形成し、茅種の跳躍力と脚力を強化させる。

「オラ"ァ!」
「ギュア!?」

茅種の俊足を支え、しかもエフェクトにより大幅な強化を施された脚力はヤゴの外殻を一撃でぶち壊し、怯んだヤゴに更なる追い討ちをかけるがーーー

「づッ!?」
「ギュラァァァ!」

茅種の体に無数の切り傷が走る。致命傷でこそ無いが、それは茅種の動きを止めるには十分すぎる効果があった。

「ギュララララ!」
「ガッ!?」

なんという事だろう、羽化した。思えばこいつはヤゴ、しかも茅種の最も嫌いとするヘビトンボのヤゴだった。

「………キッショォァァァァァァい!」

茅種は絶叫し、ヘビトンボの突進を上半身を逸らして回避。そしてすれ違いざまに飛び乗り、いつも通り踵落としを叩き込もうとした次の瞬間ーーー

「ゴアァァァッ!」
「うひゃぁ!?」

茅種の顔の横を高速の何かが掠める。目線を向けると、視線の先には巨大なオニヤンマが飛んでいた。

「ホァ!?おいおいマジか!」

オニヤンマは再びこちらを視界に捉え、轢殺せんと言わんばかりのスピードを出して茅種目掛けて飛翔する。しかし、不意打ちかつ初見で殺しきれなかった茅種に2度目が通用する筈もなくーーー

「2度も喰らうかァ!」
「ギュピッ!?」

茅種はライドオン!していたヘビトンボの羽を掴み、ヘビトンボを上昇させオニヤンマと衝突させる。無論茅種は衝突する寸前に飛び降りたから平気だったが、ライフル弾の如く加速したオニヤンマは自身のスピードを制御出来ず、ヘビトンボの体を貫通する。思いの外かなりグロテスクだった。

「うわぁ…」
「ギュギャギャギャギャ!」

怒り狂ったオニヤンマは、呆然と突っ立っていた茅種目掛けて三度突進を繰り出す。そして、茅種との距離が数メートルにまで迫り、茅種を吹き飛ばそうとした刹那ーーー

『シャンッ』

と鈴の音のような、金属製の何かを走らせる音が響き渡り、オニヤンマの頭と胴体が真っ二つに分かれる。

「今のは………?」

茅種は斬撃が飛んできた方向…即ち自身の後ろに振り返る。そこには、茅種と同じ学校の制服を着た少女が、刀を片手に立っていた。

「貴方……誰?」
「………」

茅種の問いに対し、刀を持った少女は何も答えず後ろへと振り返り歩き出す。茅種はその少女を追っていった事に関しては言うまでも無いだろう。



次回 代肆話
「幻実と現想の狭間で」