ダーク・ファンタジー小説
- Re: 黒蛇殺しの鎮魂歌 1ノ赫 ( No.1 )
- 日時: 2021/02/05 20:37
- 名前: ひにゃりん (ID: PNMWYXxS)
ーーーリリカーーー
スタンガンの電流に倒れた“人”を確認する。ブロンドの髪、華やかな顔立ち、いったい何処で買ったんだと聞きたくなるようなフリフリの服…
「犯人はコイツか…」
「ん…」
「え…えぇ!?」
縛られていた金髪の少女が目をさまし、私を見上げて驚いている。
「殺人事件の犯人はあなたなんだな。何故私を襲った?」
「……し、しらばっくれないで下さい!!」
「なにがだ」
「あなた、黒蛇の仲間でしょう!」
少女の口から出た『黒蛇』という単語。黒蛇は、マギアを使って
殺人などで政府に反抗をしている団体だ。私が最も憎むその団体の一員と
思われていたらしい。
不快だ。
「なぜ…何故そう思う」
声に感情がのってしまったのか少女は少したじろいだ。しかし思いきって口を開く。
「だ…だって、あなたずっとここから出なくて怪しいし、なんかこう…人を殺してる感じがするもの」
今度は、感情がこもらないよう、静かに続けなければ。
「私は黒蛇では無い。むしろ敵対しているといってもいいくらいだ」
「…!」
「質問を続ける。お前、今まで黒蛇を何人殺した?」
「聞いて…どうするんですか」
私の質問に少女は怯えるようなようすで聞き返した。
「別に警察につきだしたりはしない。正直に答えろ、何人やった?」
すると少女は渋々答えた。
「10人…」
「10人か…お前、黒蛇に恨みがあるのか」
少女はハッとしてこちらを見上げる。
「当たり前じゃないっ…!あんなに…あんなに仲間を殺されて…」
その返答で、少女が何を目的に黒蛇を殺してまわっていたのか分かる。
「かたき討ち、か…お前、名は?」
「…へ?」
少女は拍子抜けしたのかポカンとしていた。
「名前だ、本名でも偽名でも構わない」
「……」
「…」
「メリー…」
「ん?」
「メリーさん!」
「偽名確定」
呼び名を確認できたが、ここからが本題だ。私は真剣に、メリーに話しかける。
「お前に提案がある」
- Re: 黒蛇殺しの鎮魂歌2ノ赫 ( No.2 )
- 日時: 2021/02/05 20:58
- 名前: ひにゃりん (ID: PNMWYXxS)
ーーーリリカーーー
「お前に提案がある」
「提案…?」
「お前の目的は黒蛇のメンバーを消すことだったな」
「…はい」
黒蛇を消す。それを聞いた途端、メリーの目が変わった。
「私の目的も同じだ」
「……えっ?」
「そこでだ。私が黒蛇を消す戦力になれ」
「はい?」
私と彼女の目的は同じ。ただ、私は“戦力になれ”と言った。
正しく理解してくれると良いが、それを聞いてメリーはうつむいてなにか
考えている。
「勘違いするなよ?仲間では無い、戦力になれと言ってるんだ」
「戦力…あぁ、そっか…」
するとメリーは急に笑って言った。
「わかりました、戦力ならなります」
……理解したようだ。私はメリーのロープをナイフで切り自分の足元を指さす。
そこには小さな…枷。
「これは魔力を込めると外れる仕組みだ。こればかりはお前の力を借りなければいけない…意味は分かるな?」
…カトン。
枷が外れた。悠長にはしていられない。私は、急いでカバンに色々なものを
入れ始め、メリーに声をかける。
「すぐにここを出る」
「はぁ!?」
メリーには悪いが、その時間も惜しい。テキパキと荷物をまとめ、立ち上がる。
「いくぞ」
私が目の前に手をかざすと、そこがぼんやりと光りはじめ、窓枠のようなものが出現した。
「これは…ゲートのマギア!」
マギア発動を表す赤い瞳のまま、メリーのほうに振り向く。
「私の名前を言っていなかったな…リリカだ」
メリーの腕を掴んでゲートに一歩踏み出した。
- Re: 黒蛇殺しの鎮魂歌3ノ赫 ( No.3 )
- 日時: 2021/02/06 19:55
- 名前: ひにゃりん (ID: PNMWYXxS)
ーーーメリーーーー
「ギャン!」
リリカさんが開いたゲートから、二人仲良く落下した。
「こ、これがゲートのマギア…イロイロ凄いですね…」
痛むお尻をさすりながら呟く。
ゲートのマギアは、ほとんど使う者がいないレアなマギアだ。
どこにでも行ける、どっかの猫型ロボットが出しそうなマギアだが万能では無い。
手一本くらいならともかく、体を丸ごとだとそれなりに負荷がかかる。とは言っても慣れればだいぶマシになるらしいので、やはりゲートのマギアはチートと言えるだろう。
……いや、やっぱ今は辛いけど。
「ふう…じゃあ行くか」
「へ!?ちょ、リリカさんまって!」
「…って!どうやって黒蛇を探すんですか〜?」
前をスタスタと歩いて行くリリカさんに声をかけた。
「手がかりが掴めそうなところならある。」
「どうしてそんなのわかるんですか?」
怪しすぎる答えに思わず探りを入れるが、リリカさんは何も言わない。
仕方ないけど、今はついていくしかないか。
「…着いた」
「ここが…」
森の中の廃工場。リリカさんから此処に来る間にここが黒蛇の拠点の一つという情報を聞いていた。
「ここにいる黒蛇達を気絶させて新たな情報を聞き出す。一人くらいなら殺ってもいいだろう。」
わたしは包丁を、リリカさんは小型の投げナイフを取り出す。
「黒蛇をようやく潰せるんですね…!」
笑みを浮かべ、マギア発動の準備をする。
そんなわたしを見て、リリカさんも走り出す姿勢に。
ーーー視点ナシーーーー
リリカはパッと駆け出し、一つ二つとナイフを投げる。
「な、なんだ!!…ぐあぁ!!」
「え!?…ギャアアアッ!!」
倒れた音を確認したリリカは、気を失った男女に刺さっているナイフを回収した。
これは相手に刺さると、気を失う程度の電流が流れるスグレモノだ。
「…二つ」
「がっ……!」
他の仲間から離れていた見張りが倒れる。後ろには包丁の持ち手を振り上げたメリー。
「ワタシ …メリーサン。」
しかしその目に宿るのは、哀しみだけだった。
- Re: 黒蛇殺しの鎮魂歌4ノ赫 ( No.4 )
- 日時: 2021/02/06 19:54
- 名前: ひにゃりん (ID: PNMWYXxS)
ーーーメリーーーー
わたしとリリカさんは黒蛇を一掃してから、工場の作業スペースに集まった。
「殺したのは何人だ?」
いつもと同じ様子でリリカさんが尋ねてきた。なんでそんなの聞くんだろう。
「そんなの…覚えてません。べつに数人残せばいいでしょう」
私は黒蛇を殺せればいい。すると少し焦った様リリカさんは言った。
「な…!黒蛇だっていちよう人間なんだぞ!そんなふうに続けていたら…」
ーーーその時。
「これ、あんた達がやったの?」
「ーーっ!?」
リリカさんがわたしより速く反応し、後ろに飛び退く。入口側…つまりは声のした方向にはわたしと同じくらいの少女。
しかしその手に握られた刃がその異質さを物語っている。黒蛇……?
「お前…黒蛇だな。雑魚とは違う」
リリカさんが真っすぐ彼女を見つめる。
その瞳からはなんの感情も読み取れなかった。
少女はリリカさんに集中している。行動を起こすなら今だ。
「まー確かにさ、ここの戦いの右も左も分からんようなやつとは違うよー。でもさ」
軽そうな声。ここで彼女がなんの行動も起こさなければただの女とも思えた、しかし
「ーーーがぁっっ!!!」
「ワタシ達を舐めないでくれる?」
マギアで後ろにまわっていたわたしに、打撃が与えられた。
床に倒れたわたしの真上に刃が迫る。刃に、青くなったわたしの顔が映っていた。
あぁ…”また”だ、またわたし…
「ぎゃっ!」
その時、黒蛇の叫び声が響き、肌を裂くハズだった刃の軌道がずれた。
黒蛇が横腹をおさえてうめく。そこにはリリカのナイフが刺さっているが、電流が流れる前に自分で引き抜くと、立ち上がろうとする。
今のうちにわたしは距離をとり、リリカさんは黒蛇を囲むようにゲートを開いて
ナイフを投げ込もうとする。だけど。わたしの胸に、ある感覚が湧き上がる。
これじゃあ殺せない 失敗したら…
ナイフが投げ込まれるのと、同時に飛び出す。
「馬鹿っ…!」
リリカは高速でナイフを受け止めるかたちでゲートを展開し
わたしは黒蛇の体に包丁の刃を入れる。
おわったあと、倒れたまま動かない黒蛇の少女を、息を整えながら見つめていた。
リリカさんがそっと彼女に近づく。すると、突然彼女の唇が動き言葉を発した。
「 おね…ちゃ…」
「!!」
え。今、お姉ちゃんって…。
リリカさんは彼女の首に手をあてて
「…もう、死んでる。」
それを聞いても、なかなか実感が湧かない。
十数秒たって、ようやく呟く。
「わたし…ころしたんだ…同じくらいの女の子を…。」
そんなわたしをリリカさんは横目で見て、一言。
「死ぬつもりか?」
「…ふぇ?」
「私がゲートを開くのがあと少しでも遅れていたら、あのナイフは、お前を
襲っていた。あんな危険な、戦いかたがいけないことくらい
わかっているだろう」
もっともなことを言われて、下唇を噛む。しかしすぐリリカさんの様子が
おかしいことに気がついた。妙に息がきれている。
「リリカさん、大丈夫ですか…?なんだかちとても疲れている様な…」
「私の事より、反省してるんだ、ろうな」
「は、はい……ごめんなさい…本当に…」
- Re: 黒蛇殺しの鎮魂歌5ノ赫 ( No.5 )
- 日時: 2021/02/06 19:59
- 名前: ひにゃりん (ID: PNMWYXxS)
ーーー視点ナシーーー
夜、星空が覗く廃工場の広間で、メリーは黒蛇の死体を見つめていた。
「アレは貴女じゃなくてわたしのせい。わかってる。でもごめんね、わたしが正気でいるためなの。」
メリーは開いたままの少女の目を閉じてやると、悲しそうに瞳を閉じて呟く。
「わたしは、仲間を持ちたいなんて思っちゃいけない。」
言い聞かせるような独り言が星空に消えていった。