ダーク・ファンタジー小説
- 2,久々の依頼-後編- ( No.3 )
- 日時: 2020/03/05 21:03
- 名前: 夢追 由 (ID: KdG939V5)
気持ちの悪い音を立てたのはさっきまで道を歩いていた
女性が指し示した標的”穂根沢聡”であった。。
雅人が屋上から落とした鉄骨が、彼を下敷きに潰したのである。
辺り一面に脳髄やら血飛沫やらが飛び散ってしまっていた。
…最悪なことに、”標的”の死を確認しに行く担当は渡だ。
【煙屋】では当番制で敵の脈が亡くなったか、或いは辺りに見ている人がいないか
監視する人間と、攻撃を実際に仕掛ける人間と、死を隠蔽させる人間で分かれていて
衛→莉彩→渡→雅人の順番でローテーションして回して仕事を行っているのだ。
今回は本来莉彩が脈が亡くなったかを確認する当番であったのだが、流石に依頼した殺し方で
死んだ標的の亡骸を見に行かせるのには刺激が強いだろう、それにトラウマにもなるかもしれないと
渡自身が自ら名乗り出て、本来監視する立場であった仕事と交換してもらったらしく。
…まさかこんな残虐な死に方になるとは思わなかったが。
顔を顰めながら、渡は亡骸をできるだけ見ない様に鉄骨の下からはみ出た
左手の脈に触って確認する。…。手以外、全部ミンチの状態になってる亡骸に触れて。
…殺した相手と云えど、しっかり合掌する。
そして、胸にかけていたトランシーバーを起動しみんなに伝えた。
亡骸の近くで、喉に込み上げてくるものを飲んで吐くのを堪えながら。
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そうして”肉片”になった亡骸を片づけるのは、正直面倒臭い。
幾ら人の通らない路地裏だと言えど、鉄骨が落ちた音は響くし
駆けつけてくる人間もいるかもしれない。…いつもここでバレないか冷や冷やする。
【万屋】稼業の人間とはいえ、地味な死に方ではなくこうして残虐な殺し方をしてしまったからだ。
次第に亡骸へと【煙屋】のメンバーが集ってくる。
「…どうしたもんかね」
煙草に火を付け、一口吸うと衛は飛び散った”穂根沢”だったものを見ながら言った。
隣の莉彩も若干引いたような表情を浮かべている。
雅人は亡骸をじぃっと見つめ、何もしゃべらない。
「幾ら…依頼って言ったってヤりすぎでしょ、これは」
莉彩が困惑した声で、そういうと雅人もうなづいた。
「…仕方ねぇだろ、子を奪われた親がそうしろっつったんだからよ」
はぁ、とため息をつく莉彩。
「…てか、渡は?」
「あそこ」
莉彩に渡の居場所を聞かれ、衛が答えようとした先に
亡骸から少し離れしゃがみ込んでえずく渡が居たのでそれを指差した。
流石に莉彩も察したらしく、指差した方向から目を逸らす。
その空気を打開するかのように雅人が口を開いた。
「取り敢えず、依頼は終わったけん帰ろう」
「…そうだな、雅人。ここで考えてても仕方ねェ、アジトに戻って考えよう」
「たまにはいい事いうじゃん…。」
そう言って、彼らはアジトへと向かっていったのだった。
渡と雅人を除いて。…これはまた後の話。