ダーク・ファンタジー小説

Re: 半死半生の冒険記 ( No.11 )
日時: 2020/03/27 20:00
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

第5話「悪魔との契約」


翌朝、まだ朝日が出始めたばかりの早朝に起きたが、ローナさんはいなかった
衰弱感はまだ抜けていない。けど、昨日貰った薬のおかげで幾分か様態がマシになった。

けど、悪魔と契約しなければいずれ死ぬ。
ローナさんのお勧めだから不安ではあるものの、これまでの医師や白魔道士でも治せなかった魔血病と、今日でおさらばできるのではないかという期待のほうが大きい

「……悪魔との、契約か。」

可愛いぬいぐるみのあるベッドから出て、所々散らばったポーション瓶やスクロールを見て、夢じゃなかったんだと認識する
周りを見てもローナさんはいないが、外に出ているのだろうか。とりあえず折れた足が痛まないようにゆっくりと動かし、窓を見る

───窓から外を覗くと、謎の模様やどの属性にもない印がある、禍々しさを感じる大きな魔方陣を地面に描くローナさんの姿があった。

「───っ」

あれが、今から悪魔を呼び出すための魔法陣だろうか。

まず地面に描かれた魔法陣なんてダンジョンでしか見たことないが、……アレって人工的に作れる物だったのか。
朝早いんだな……って思ったが、本人は眠そうに目を擦りながら描いていた。

このまま見続けても何もないので、扉を開けて外に出る


「おはようございます」

「……んぅー、おふぁよ」

呂律が回ってませんけど……。大丈夫なのだろうか。

「これが……、僕と契約する悪魔を召喚する魔法陣ですか……?」
「ですですぅ。ただ、契約する際に全裸になって貰うので後で脱いどいてね。」

「はい。わかりま………………???」
今、この方は何とおっしゃった。
……いや、恐らく聞き間違いだろう。

「あの、よく聞こえなかったんだけど……」

耳に手を当ててもう一度聞く。……何故だろう、聞かないほうがよかった気がする。


「魔法陣描き終わったら全裸になってね。」


………………ふぅぅーーー

いや、恐らく何かの比喩だ。契約する時は心の中の邪念を一切残すなって意味に違いない。


「……何で?」

何故か冷や汗をかきながら聞いた質問に対して、ローナさんはさも当然のように答えた

「裸のお付き合いって言うじゃん。」

……………




僕は早々に痛いのを我慢して早足で逃げる。

知っていたと言わんばかりにローナさんに腕がガッシリ捕まれて動けなくなる

力じゃ流石に勝てるだろう…………何だコレ、全然勝てないぞ。


「いやだぁ!」

「やい、待つんだ少年。私は意味のあることしか言わないぞ。」

「じゃあ意味って何ですか!」

「悪魔を魂に表意させる際に、余計な物を見につけていると魔力が散らばって成功しにくくなるから、極力着る物は減らすの!」

意外とまともな答えが返ってきた、が。
僕はジトっとした目でローナさんを見た。信用するにはちょっと危険すぎる……。

「何だい、その疑いの眼差しは。」
「僕があまりそういうのに詳しくないのを知っててソレっぽく言ってる可能性も……。」

「私にそういう趣味はねぇーっ!少年!私を信じるのだ!それに、しゃべり口調も敬語じゃなくなったってことは、ある程度私を信用してるってことでしょ!?」

あ、そういえばそうかも。

「……すいません」
「おーぅ!直さなくていいよ!」
「いや、でも」

うーん……、でも、こんだけ助けてもらった人にタメ口は駄目な気がする。
すると、ローナさんはわざとらしく両手を目に当て、泣きまねを始めた


「しくしく………(チラッ)しくしく………」
「………」

……絶望的に下手だ。時折指の間から覗いてるのも微妙にウザったい……。

「あぁ、わかりましたって」
「よろしいっ!」

本当に、元気な人だな。
僕が話しをしたせいで魔法陣を描く手が止まっていた。
……ここは描いて貰うまでどこかで待っていたほうがいいな。


「じゃあ、その魔法陣ができたら脱ぎます。」


脱ぎたくないけど、覚悟を決めるしかない。
いや、まず変な事されるわけでもないんだし、悪魔と契約する覚悟を決めたほうがいいな。


「後で、ここら一体に隠蔽魔法かけるから、ちょっと時間かかるかも!」

─────────────────

「それじゃあ、あんまり見ないようにするけど、覚悟はいい?」

「はい」

ローナさんの一軒家の周りに広がる庭、そこに描かれた大きな魔法陣の前で、僕は全裸で立っている。
全裸と言っても、自分の男としての尊厳を保つためにパンツは許された。


「…………」



これで、僕の病気が本当に治ったとする。


いや、失敗する可能性を考えてもしょうがないな……



病気が治ったら、何をしよう。
今まで質素な食事だった分、味の濃くて美味しい料理も食べたいな。

ベッドの中に居た分、もっと色んな所を見てみたいな。

そうだ、治ったら冒険者になろう。元々、そのために大銀貨やナイフを持ってきたわけだし。



「……そんな心配しなくても治るよ。私が自信を持って言ってやろう!」
「常闇の魔女のお墨付きなら、安心ですね。」



「それじゃあ、行くよ。」


ローナさんが杖をかざして目を閉じる。辺りの空気が変わったように風の音が大きくなる。
光が吸い込まれていくように、周りが暗くなるのに比例して、魔法陣の中央がどんどんと黒くなっていく

「……これが……」

常闇の魔女の力。
肌をピリピリするように激しく魔力が動いているのを感じる。
一体どれほどの魔力がこの空気中を動いているのだろうか。

「地獄を駆け抜ける者 夜を支配するものよ 汝 夜を旅する者 闇の朋友にして同伴者よ 影の中をさまよう者よ あまたの人間に恐怖を抱かしめる者よ 悠久を持つ汝の庇護のもとに 我が友の声に答え 契約を結ばん」



中央に集まって言った黒い光は膨張していき、やがて僕の身長を超えていった
風は吹き荒れ、揺れる木の枝から飛んでいった葉っぱが魔法陣を囲むように舞っていく


「ふぅ……。完了!」

ローラさんは疲れたように大きく息を吐くと、かざしていた杖をおろした
いやまて、一仕事終えたぜっ!って感じで汗をぬぐってますけど、全然終わったようには見えないんだが!むしろ現在進行形で続いてないかこれ!

「あの……!全ッ然光がっていうか、……止まんないんですが!」

「だいじょーぶ。見てなって。」

大丈夫じゃ、ない!




しばらく魔力の膨張のような波は続いたが、やがて黒い光は平べったくなっていき、コンパクトなサイズになった。

「……これは何ですか?」

「それが悪魔だよ。手を近づけたら、契約は完了。」

「?」

言われた通りに近づいて見ると、黒い物体が僕の腕に絡み付いてきた

「うぉわっ!!」

絡みついた、じゃなくて、……張り付いた?
指先まで真っ黒で尖ったような指になり、黒く侵食していく黒い物体は、
肩の近くまで侵食してきたが、そこから先は普通の体のままだった。



次の瞬間、体の奥にゾっとするような、深く、冷たい寒気が襲った


「………ッ!?」

体の中心に虚無感を感じたのと、同時に何かが入ってくるような、奇妙な感覚だった。
大事な何かを、取られた……?あ、僕の魂を半分与えるって内容だった、な……。
覚悟はしていたはずなのに、心のどこかでまだ怯えている自分がいる、




身震いした僕を見て、近くにいたローナさんが声かける

「落ち着いて。融合しないと君の壊れた魔力回路がそのまんまだよ?」
「!……は、い!」



感覚がある程度落ち着いたその時、体全体に薄い炎のような青いオーラが現れた


オーラっていうか………、腕と足普通に燃えてないか!?
「ああぁっつぅ!!…………くない?ローラさん!これ何ですかぁ!」
何故か距離を置いていたローナさんに声をかける。

「それがたぶん呼び出した悪魔の能力何だと思う!とりあえず落ち着く!」






落ち着け僕……、これは契約だ。深呼吸をして、乱れた呼吸を正す。


息を整えていると、自分の右肩辺りに重みを感じた。
気になって見てみると、そこには、逆にこちらをじっと見つめてくる



羊がいた。

Re: 半死半生の冒険記 ( No.12 )
日時: 2020/03/29 10:35
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

第6話「大悪魔との自己紹介」



丸くシンプルな目に羊の口、小さな赤い角が生えていて、羊毛は黒く、尻尾はくるんとはねている

「全く。随分とちんけな人間とけーやくしてしまったようだな!」


……しかも喋った


「……ローナさん。これが呼び出した悪魔でしょうか。」
「待てい!コレとは何だ。お前ごときが我をもの扱いするでない!」

いちいちうるさい……。
ローナさんはポカンと口を空けていて、その後「あれ……角赤いんですけど……。スクロール間違えたかな……?」と独り言を言っている

「しょうしょう不満だが、僕ちんとけーやくしたからにはしっかりして貰うぞ!」
「う、うん」

僕ちん。
それと、所々舌足らずな感じがするが、適当に頷いておく。

「あの、ローナさーん?」

さっきから何かをぶつぶつ言っているローナさんに声をかける。
声をかけた後もしばらく何か考えていたが、やがて「………………可愛いしいっか!」と諦めたように笑顔になった


「とりあえず、この体に纏ってるオーラみたいなのを止めて欲しいんだけど……。後、何か僕の腕が黒いんだけど……。」


「なんじ!名は何と?」
ここまで綺麗なガン無視は始めてだな……。
肩に乗りながら姿勢変えるのやめて欲しい……。時々落ちそうになる……。


「アラン・ベルモンド。えっと、よろしく。」
「ふむ、いい名前だな!」

悪魔、と聞いていた割には、随分と優しそうな感じがする。
「そ、そう?」

「名前負けもいいとこだがな!」
「そ、そう……。」

………なるほど。今のうちに主従関係はきっちりしておかないとな……。

「君の名前は?」
「ないぞ」

え?悪魔ってそういうモンなの?よく分かんないな……。
隣では、吹っ切れた顔のローナさんが僕の肩にいた羊を抱き上げ、もふもふし始めた

「こら!おい女!僕ちんに気安く、触れ……触れ………ひゃふん」
「じゃあアラン君、名前つけないとね!」

「……そうですね。」


ローナさんにKOされた羊がだらしなく腕の中でもたれかかっている

いや、なんて言うか……、悪魔の召喚ってもっと禍々しいイメージだったのだが……、拍子抜けと言うか……。
いや、禍々しいよりかはこっちの方が気は楽何だけど……。


でも、名前か……。
話を進めないと、体に纏っているオーラを消してくれなさそうだし、早く決めよう


「うーん、……くろすけは?」

「「………」」

二人からジトっとした視線を感じる。さ、流石に安直すぎたかな。

名の無い羊をじっと見つめる。赤い角、黒い羊毛、丸い眼、はねた尻尾。全体的に丸い姿

「…………くろ丸」

我ながらイイ線いってるのではないだろうか。
悪魔だけど、何かペットみたいな感じだし、呼びやすくて特徴も捉えている。

「……まぁ、いいだろう!」

よし、何とか合格は貰えたようだ。ローナさんも頷いている


「それで……」

この僕身に纏っている炎のような青いオーラは何だろうか……。さっきから気になって仕方が無い。
ローナさんの言った通り、これがくろ丸の能力なのだろうか。
別に熱いわけじゃないのだが、何かこう……体の芯が轟々と燃えているような、不思議な感覚だ。
ぶっちゃけカッコいいのだが、いつもこの状態となると嫌だ

「あぁ、そうだったな。僕ちんの能力、『適正属性強化』と『魔力纏』によるものだ!」

僕ちん。……まぁ置いておくとして、

「これが……」


くろ丸の能力……。………うーん、強そうなのだが、
魂の半分を代償にして手に入れたにしてはちょっと地味だな……。

「魔力纏っていうのは具体的にどんなスキルなの?……後、この腕が黒くて硬いんだけど、これも君の能力?」

「纏っている時は適正属性の魔力行使にかかるまりょく量が減るのと、単純な身体きょーかもだ!腕は……アレだ、僕とけーやくした証って奴だ!」

纏っている時は、てことは、魔力纏は任意で始動できるんだな。
ちょっとカッコいいし、是非とも使いこなしたい。

腕は……契約した証、か。試しに右腕を指で叩いてみるが、随分と硬い。
「これってもしかして武器になる?」
「武器なるというか、普通はそういう使い方だな。指もえいりになっているだろう?どんな攻撃がきても僕ちんの力を超えない限りかすりきず一つもつかんぞ!」

相変わらずの舌足らずなのはもう受け入れるとして、
腕を何回か振ってみたが、別に以前のなんら変わらない質感だった。
いや、強いのは分かったけど、人前で見せるのはちょっと嫌だな……

「これって隠したりできないの?」
「いや、別に腕に力を込めてひっぱるようにすればできるが……、……かっこいいだろ?何で?」

こういうカッコいいのは人前でやるにはちょっと無理かな……。
腕に力を込めて、体の奥に引っ張るように魔力を集める。あ、できた。

さっきまでジーっと僕の手を見つめてたローナさんが、不思議そうな顔で再び元に戻った僕の手を見ている
「ほえー」
「ローナさんでも、こういうのは初めてなんですか?」

常闇の魔女が知らないことってあんまりないと思ってたから、この悪魔がそういう能力があるのを知ってて召喚したと思っていた

「魔力纏は見たことあるけど、今のアラン君みたいな色は見たことないよ。」

「我は数ある悪魔の中でもさいじょういだからな!」

さいじょういなのか。

「魔力纏も、任意で纏うことができるから、体の中心に魔力を集めるようにすると消えると思うよ。発動するときはその逆。」
「分かりました」

さっきので感覚は掴んだから、次からはすんなりと使えこなせそうだ。
ずっとローナさんに抱かれていた羊がモゾモゾと動き出し、脱出した。

「一通り我の能力については説明したな!何か聞きたいことがあれば後で聞くがよい!」


またこちらの肩に戻ってきた。……と思ったら消えた。
「って、えぇ!?」

「あー、落ち着いてアラン君。悪魔は魔力で作った仮初の姿で滞在しているから、今みたいに自由に消えたりすることができるの。」

あ、そうなのか……。まぁ常に肩に居られたら困るし、有難いのは変わりない



まぁ、これからよろしく



悪魔との契約にしては随分の緊張感のない時間だったが、


この時の僕はまだ、くろ丸がどれほど強い悪魔なのか分かっていなかった



ようやく顔を出してきた朝日が、木の葉の隙間を抜けてこちらに降りかかる。


────何か、新しく大きなことが始まりそうだ