ダーク・ファンタジー小説
- Re: 半死半生の冒険記 ( No.16 )
- 日時: 2020/03/29 22:25
- 名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)
作者コメント「やっと登場人物が増えるよ!今まで何してたんだろう!」
※1コメの人物設定にくろ丸を増やしました
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第9話「冒険者登録」
冒険者ギルドは一階で大体の窓口が揃っている。
無数の紙が張られたクエストボード、よく分からないランキング表みたいなのももある
仕事から帰ってきた冒険者が酒を飲むため、大きなテーブルもいくつかある。
クエストを受けるための窓口は2つあり、素材換金や魔石換金も別々に1つずつある。
受付人は男女一人ずつで行っているが、隣が美人な受付人なので依頼を受ける人がそこばかりに集まっている。
「うわ、凄い行列だな……」
明るいブラウンの髪に、ぱっちりとした青い目で、緑色の受付の制服を着ている。
肩は肌が出るようになっていて、そこから見える綺麗な白い肌が色っぽいが、恐らく20代ぐらいの女性だろう。
当然人気だ。あれ何人並んでんだろう……。ギルドは相当広いのでまだ余裕はあるが、ざっと見ただけでも20人ぐらい並んでるぞ……。
「絶対時間かかるよな……」
見なかったことにして隣の受付に並ぶ。受付人は男だったが、
隣の行列を見て同じことを考えた人達がここに並んでいる。並んでいるのは2人だけなのでさっきとは偉い違いだ。
「うわ、さらに並んでる人が増えた」
あの行列を知っておきながら新たに列に加わった人に軽く引きながら順番を待っていると、
前の方から何やら揉めたような声が聞こえてきた
「ここはお前みたいな小せぇガキ来るとこじゃねぇんだよ!」
「ガキじゃねぇし!冒険者ライセンスが銅色ってことはおっさんはレベル3か4程度だろ!でかい口叩く余裕あんのかよ!」
一人は、酒でも飲んだのか、顔を赤くした皮鎧のおっさん冒険者と、
もう一人は燃えるような赤い眼をした赤い髪の少年だ。凄いなアレ、服も真っ赤だ。
おっさん冒険者は口を大き開いて怒鳴っていたが、赤い少年はそれに怯むことなく返した
周りに居た冒険者は止めるような様子はなく、むしろ興味深そうに二人を眺めていた
え、止めないの……?
赤い少年に口答えされたのが気に障ったのか、おっさん冒険者はさらに顔を赤くして怒鳴りつけた
「何だと!?冒険者がどれだけ危険な仕事かも知らないクソガキに何が分かる!」
相当お怒りの様子のおっさん冒険者は拳を握っており、今にも殴りかかりそうだ。
野次馬が小声で「面白そうだぜ!」と煽るようになり、どんどんとヒートアップしていく。
近くの受付人は「早く終わんないかな……」と言った感じでどこかを見ている。
「そこまでだ。」
両者がいつ殴りかかってもおかしくない状況の中、前に居た男性の受付人が静かに割って入った
「ギルド内での喧嘩沙汰は罰則があるって知ってるのか?つか、おっさんはそれくらい知ってるよな?お酒飲んでるとか理由になんないからな。これ以上騒ぎを起こすのなら俺も上に報告する必要ありそうだな……」
ピタっと止まったように動きを止め、赤い少年もおっさんも、顔を青くして頷いた
……………
「………となります。はい次の人ー」
何事も無かったように受付が再開し、ギルド内の空気も元に戻った。
おっさんはバツが悪そう舌打ちして出て行った。
すぐに順番が回ってきて、僕の番となった。
「あの、さっきの凄かったですね。」
「何、いつものことだぞ。あんなんいちいち気にしてたらキリが無いし、坊主も早くここに慣れたいなら無視すればいいぞ」
受付の人は特に威張ることなく普通のことのように言った
まぁ、そうなんだろうけど……。
「で、何しに?」
「あ、冒険者登録したいんですけど」
冒険者になるだけでもそのライセンスが身分証明になるのでかなり有難い。しかも無料だったはずだ。
「ん?……ああ、登録な。ちょっと待っといてくれ」
受付人は一旦奥の方に向かうと、登録の手続きであろう書類を持ってきた
荒くれ者が多いギルドの中ではかなりの常識人だな……。
「名前と、書ける所まででいいから下の項目を書いてくれ。書き終わったら判子の枠の右に血を一適垂らしてくれ。」
う、血が必要なのか……。
下の項目は、使う武器や出身地などがあった。
差し出されたペンで早速書く。
名前は、どうしようか
仮にも子爵家から家出して来た身だ。流石にそのまんま名前を書くのは不味いな。
うーん……。
アレンでいいや。
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「ほい、これがライセンスだ。その冒険者ライセンスは初回登録は無料だが、なくした時は大銀貨3枚払って貰うからな。」
そんなに高いのか。ちょっと分厚い鉄の板にしか見えないが、受付人が言うには魔法陣が組み込まれているらしい。
その後、受付人からギルドについてあれこれ説明され、無事に登録が完了した。
差し出された銅のライセンスには、右上に自分の顔があり、
その左に名前や情報が簡単に乗っており、その下にはLv1と表示されている。
「ありがとうございます。それで、早速クエストを受けたいんですが……」
正直もう金がない。食っちゃねをしている悪魔のせいで食費がかさむのだ。
少し驚いた様子の受付人は、二つあるクエストボードのうち、緑色の方を指して答える
「お、そうか。なら緑のクエストボードから受けたいクエストの紙を持ってきてくれ。」
緑?さっきちらっと見たが、採取やお手伝いクエストが主なクエストだった気がする。
その隣にある赤色の討伐クエストじゃ駄目なのだろうか
「赤は駄目なんですか?」
「駄目だ。赤はレベルが3以上じゃないと受注できない。……あぁ、まずレベルについても説明しないとな。」
そう言えばさっきも耳にしたな、レベル。
「えーっとな、レベルというのは……」
ギルドが定めた、個人の強さや戦績を評価し、数字で表したものらしい。
レベルに応じて難易度の高いクエストを受けれるようになり、逆にレベルが低いと雑用みたいなクエストしか受注できない。
一般的にはLv1〜3までが初心者で、ライセンスは銅。中堅と呼ばれるLv4〜5は銀。Lv6〜7は金。
Lv8以上となると、国から紋章が貰えるらしい。
Lv3〜5の冒険者が全体の割合の中でも最も多く、6〜8は本当に一握りだそうだ。
Lv9〜10はもはや童話に出てくるレベルで、ギルドの長い歴史の中でも2人だけらしい。
Lv6〜7まで来ると立派な上級者と呼ばれ、かなり有名になる。
Lv8の冒険者は英雄扱いで、冒険者の街と呼ばれるバルトラインでも3人のみだ。
Lvは、クエストをこなしに時はライセンスに記録されるため、こなしたクエストが一定の成績になると上がるらしい。
その審査を行うのも当然ギルドで、同じLvの難易度のクエストをやっても上がらず、Lvを手っ取り早く上げるには自分のLvと同等のクエストを繰り返すか、もしくは以上の危険なクエストこなさなければいけない。
「……と、まぁ簡単に言えばこんなもんだ。」
「細かく説明してくださって有難うございます……」
すると、受付人は少し呆れたような視線を隣の行列に向けた
「いいってことよ。……隣があんだけ人気じゃ、暇な時が多いし。」
「た、大変ですね。」
「むしろ暇だ」
「は、はは……」
確かに、見向きもしないもんな……
「そういえば、お名前は何て言うんですか?」
「エルマだよ。」
ん?女性の名前?
あ、隣の受付嬢の名前か。
「違います。あなたの名前です」
「あぁ俺?ジェラルドだよ。」
ジェラルドさんか。よし!お世話になりそうだから覚えておこう。
普通にいい人だし、この人相手なら面倒事も少ないだろう
「後から名乗ってしまいすいません……。僕はアラ……アレンです。」
「おう、よろしく」
無事に登録が終わった……!しかも常識人ゲット!
真新しいライセンスを見ると、冒険者になった実感が湧いてくる
よし!まずは雑用クエストだ!
- Re: 半死半生の冒険記 ( No.17 )
- 日時: 2020/03/30 09:02
- 名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)
作者コメント「勉強……しなきゃ……」
あと、簡単にお金について話すと、
銅貨が十円で、銀貨が百円、大銀貨が千円、金貨が一万円、大金貨が10万円、白銀貨が100万円って感じです。
ありきたりな単位ですいません………
現実では国ごとにお金の単位は変わる物ですが、異世界では世界共通の通貨としています
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第10話「お手伝いクエスト」
「はい、これが掃除用具ね。この廊下と、階段、あと窓全部拭いたらまた声かけてね」
「はい!」
渡されたのは使い古したボロ雑巾を5枚と、水の入ったバケツと頭にかけるナフキン
そう、お手伝い(ざつよう)クエストである。
クエストを受注して来たのが、もうずっと前からあるらしい老舗の宿屋。
部屋6つをまたぐ長い廊下は、これ全部拭くのか……と思うと見るだけでやる気が失せる
女将さんであろうおばちゃんは「じゃあ頑張ってね〜」と言うと、手を振りながら消えていった
「はぁ……」
階段も結構な高さあるぞ……窓も多いし、いつ終わるんだこれ………
これでいてクエスト報酬金が大銀貨1枚である。ゲロ不味クエストだ。
Lv1だとこれくらいのクエストしか受注できないので、我慢するしかない。
できるだけ早くレベルを上げようと近い、
ため息を吐きながら雑巾を絞って廊下を拭き始めた
……………
一体どれくらいの時間を拭き続けただろうか
「腰いったぁ………」
床を拭くので、屈む必要があるのだ。その体勢でずっと作業を続けているので腰への負荷が半端じゃない
でももう少しで廊下は終わる………ッ!階段はもう少し楽な姿勢でできるはずだ!窓はもっと楽な姿勢のはずだ!
違った。階段も体勢キツいわ。
さっきと同じようにしゃがんで拭くと危険なので、一段一段拭くのに最適なのが膝を折って拭く姿勢なのだが、
膝が痛い。
「はぁ、はぁ、これ……、重労働って言ってもおかしくはないぞ……」
定期的に膝を休めるために座っているが、疲れがどんどん溜まっていく。
窓は楽だったが、他の二つの作業の疲れが溜まっていたのであまり違いを感じなかった
「女将さん……おわ、り、ました………」
雑巾を洗って伸ばし、綺麗にたたんだ状態で渡す
おばさんは「礼儀正しいわねぇ〜」と嬉しそうに頷くと、
「よし、2階も終わった時に報酬渡すけど、特別に晩飯もつけてやる!」
「え」
死刑を言い渡された囚人のように、呆然とした
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お手伝いクエストは、色々な種類がある。迷子の子猫探しや、荷物運び、今日みたいな掃除の依頼
疲労いっぱいの顔を水を貰って綺麗なタオルで洗い、ピッカピカになった廊下で倒れるように寝転がる
「二度と、しない」
頭の中に呑気な寝言が響く
『むにゃ……むにゃ……や、僕ちんはもうお腹いっぱいなのだ……やめ……ふへへ……』
ぷちん
いつまで寝てんだこの食っちゃね悪魔ぁ!!
『!?!!何だ何だ何なのだ!?』
強制的に呼び出し、寝ぼけた頬を強くひっぱる
──あれ、今どうやって呼び出した?
……まぁいいや、今それよりこのぐうたら悪魔の躾が先だ。
『や、やへろ!はひふるほだ!?』
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「お疲れさん!たんとお食べ!」
「ありがとうございます。」
夕暮れも過ぎ、辺りも暗くなってきたところで約束通り晩飯を頂いていた。
宿の飯ってだけあって、ボリュームもあっていつもより大分豪華に感じる。
これが、仕事をするってことなのか………!
今日の頑張った自分を思い返し、一口一口味わって食べる。
やばい、泣きそう
「美味しいです……!」
「ピッカピカにしてくれたからね!おかわりも自由だよ!」
『僕ちんも、欲しい……』
まだ寝言を言っている食っちゃね悪魔を無視しておかわりをした。
その日は、代金を払って宿に泊まらせてもらった。飯代は抜きだったので、安くすんだ。
- Re: 半死半生の冒険記 ( No.18 )
- 日時: 2020/03/31 12:06
- 名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)
第11話「同伴者募集」
「お、帰ってきたか。」
ギルドに戻り、ライセンスを受付人のジェラルドさんに渡す。
相変わらず隣は凄い行列だな……。エルマさんだっけ、絶対疲れるだろうな……。
ライセンスを更新し、クエストの記録を残すためだ。
「無茶苦茶疲れました……。宿代が安くなったのは助かりましたけど、もうしたくないです」
「ははは……。」
ご飯も美味しかったが、あの重労働は無理だ。天秤にかけるまでもない。
ジェラルドさんは苦笑いしながらライセンスを受け取ると、一旦奥の方へと向かい、石のような板を持ってきた
「これは……?」
「ライセンスを更新する魔道具だ。……アレンがレベルアップするまでは、後5回雑用クエストをこなさないとな……。」
「………マジすか。」
あの地獄のような作業を5回も……?
「………やだなぁ。……何か方法ないかな……」
想像しただけでも血の気が引いた僕を見て、ジェラルドさんはポツりと呟いた
「………ないこともないけどな」
!?
「何ですかそれ!教えてください!」
思わず身を乗り出すように質問した僕を見て、ジェラルドは一歩下がりながら否定する
「あぁ待て待て!ただの独り言だ!何でもない!」
「いや何でもないことないです!教えてください!」
…………
ジェラルドさんはため息を吐くと、諦めたように話した
「……俺が今から言うクエストは雑用クエストとは違って死ぬ危険性のあるクエストだ。それでもか?」
いや、雑用クエストって言い切っちゃった駄目でしょ……。実際そうだけど。
「元々冒険者なんて職業を選んだんですから、死の可能性なんて付き物だと思っています」
実際に、冒険者は常に死と隣り合わせの職業だ。(雑用クエ除く)
上手くいっていた冒険者が何かの拍子で死んでしまうことは珍しいことでも何でもない。
ベットの上で冒険者になるために何度も本を読んだのでよく知っている。
ジェラルドはしばらく僕の目を見てきたが、僕は目を逸らさなかった。
「……よく分かってるじゃないか。……分かった、話すよ。」
「ありがとうございます!」
「……Cランクの中でも下級に位置するアロマラットだ。見た目は小さい緑のネズミだが、森の草むらの中に生息しているから見つかりにくい。単体ではすばしっこいだけであまり殺傷能力はなく、個々で行動することが多いため難易度は低い。だが!それでも魔物だ。殺傷能力は低いが、ないわけじゃない。調子に乗って草むらに飛び込んで死んだ奴もいる。特に今のような春の季節だと、繁殖期が近いから興奮している固体が多い。当然難易度は上がるし、雌と雄が一緒に行動していることもある。」
な、長い……。けど、これは初心者にとっては重要で有難い情報なので、黙って聞く
ジェラルドさんは一息つくと、苦笑いしながら続けた
「プレッシャーをかけるみたいで悪かったな……。報酬は少ないが難易度も低い。今回はそのアロマラットの討伐だ。討伐部位は尻尾、別に一匹でもいいが、最大5匹までなら報酬が上がる。」
「わかりました!」
「ただし!条件がある。」
早速赤いクエストボード向かおうとした僕を手で制す
何だろう。門限とか?
「……俺はお前みたいなちゃんとした冒険者に死んで欲しくない。最低2人以上で行け。パーティが作れたらなお良しだが……。」
う、意外とハードル高いな……。Lv1の冒険者と組む物好きはいないだろうか……
くろ丸に頼る気満々だったが、人前で悪魔の能力は使えないよなぁ……
「……わかりました!すぐに作っちゃいます。」
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「Lv1?何かの冗談かよ」
「他を当たれ」
「こっちは忙しいの!」
「悪い」
「こっち見んな」
「………(聞こえないフリ」
死にそう。
軽く5人ぐらい当たってみたが、見事に失敗している。
何だよ、最初は誰でも初心者じゃないか。もうちょっと優しくしてくれてもいいじゃないか。
『Lv1で行くクエストなのだから、ゴブリンかスライム程度だろう。僕ちんにとっては虫けら同然だが、何で二人以上が必要なんだ?』
雑魚と呼ばれるゴブリンも、剣を握ったこともない一般人にとっては十分な脅威だからね……
冒険者は戦って魔力を吸収するから強いだけで、戦闘経験が浅い層のLv1だと死ぬ可能性は十分あるんだよ……
『この僕ちんと契約した男がゴブリンに負けるようでは泣くぞ。』
今の今まで何の役にも立っていない食っちゃね悪魔に言われたくないな。
『なっ……!それは戦闘機会がないからだろう!ええい!さっさとゴブリンに戦いに行け!あんな虫けらなど2秒で消し去ってくれるわ!いや、2秒もいらん!』
だから戦うのに二人以上というのが条件なんだって……
「誰か、一緒に来てくれる人いないかな……」
その時だった
遠い目で周りのテーブルに座っている冒険者を眺めていると、後ろから声をかけられた
「その話、乗った!」
驚いて振り返ると、
燃えるような赤い目に、同じく赤い髪。意識しているのか、服も赤い、
さっきおっさん冒険者と喧嘩していた赤い少年がいた。