ダーク・ファンタジー小説

Re: 半死半生の冒険記 ( No.22 )
日時: 2020/04/02 11:04
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

第15話「ワイルドピックと魔術師」


無事にアロマラットを5匹討伐できたので、それぞれの尻尾を切って予備の皮袋に入れる
皮袋は本来小物を入れるものなので、もっとちゃんとしたポーチを今度買おうと思った。

「にしても……」

これだけで大銀貨2枚と銀貨5枚。昨日の掃除という名の重労働に比べると、遥かにマシである。
命と隣り合わせの職業ってよく言うが、逆に一攫千金もありえる職業なんだよな……

ホクホク顔で素材と一緒にギルドまで運ぶ。
「魔力探知の練習でもしとくか……」

面倒くさいが、習得できた時のリターンを考えるとやっておくべきだ。
魔力を体外に放出し、波を意識して飛ばす。……が、やはり難しい。

まぁ、いつかは使えるようになるだろう。




木、木、草、木、草、草
帰り道、とりあえず慣れるために魔力探知をしまくり、サイズが分かったものから名前を当てる
草、木、木、……これは、………何だ?

さっきまでの感覚とは違う、何か柔らかい立体物……
わからなかったので目を開けたが、誰もいない

『もうちょい前のほうだぞ。目を凝らしてみぃ』

くろ丸の言うとおりに前方に目を凝らすと、何やら豚っぽい物陰と……
その豚っぽい物陰の前で、怯えたように腰をつかせた……

「……人?」

え、誰だかしらないけど、状況的にヤバいんじゃないだろうか
魔力探知を解除し、体格が1メートル強ある豚っぽい魔物に向かって走る。
くろ丸!あれ何!?

『ワイルドピックだな。名前通り雑魚のくせに好戦的だが、突進ばっかしてくるので対処は簡単だ。たが、あの鼻の上にある角をいかした突進の威力は馬鹿にならない。……僕ちんからしたら、かゆいぐらいにしか感じないけどな!まぁ、Lv1〜2の冒険者では、相当なダメージを食らうだろうな。ただし肉は美味い。』

相変わらず詳しいな。
そう伝えると、くろ丸が頭の中で自画自賛を始めたのでくろ丸を無視し、ワイルドピックの所まで走る

走りながら腕に集中し、魔力を込める。そろそろこの腕に技名でも付けようかな……。


ある程度人影が見えてきた。転げまわるように怯えながら突進を回避しているので、あまり見えにくいが、
紫のローブに、シンプルな杖、腰にいくつか装飾品のあるので、恐らく魔術師だ。
顔はフードを被っているので見えない。というか、避け方が本当に必死そうだ。

あ、木の根っこに足引っ掛けたな。
それをチャンスと見たワイルドピックが一気に突進してくる

不味い!あの体勢だともろに食らってしまうぞ!

「どりゃあ!」
牽制にもならないが、注意を引かせるために近くに転がっていった握りこぶしぐらいの石を投げつける
「ヒブィッ!」

運良く頭に当たったみたいで、ワイルドピックは一瞬怯むと激怒したようにこちらに向かって大きく吠えた

「へ?」
「下がってて!すぐ仕留めるから!」

状況が飲み込めていない魔術師は呆気に取られているが、
ワイルドピックは僕を標的に変えたようで、ギロリとこちらを睨んでくる


「フビイィィィ!」

物凄いスピードで突進してくる、が、あまりにも一直線だ。
さっきまでもう少しまともな精度だった気がするが、怒りでよく考えていないのだろう
軽く横に回避して、距離を取る。突進した後にワイルドピックは再び足を地面に擦り、突進しようとしている

『今ので分かったと思うが、こやつは単調だ。次で仕留めれるだろ?』

うん。次で仕留める

「ブヒイイィィィ!」

方向が定まったワイルドピックが勢いよく突進してくる。
僕は黒く侵食した腕を構えて、じっと突進を見つめている



「───そこ!」

スシャッ

突進のタイミングに合わせて軽く横にステップし、真横から腕を伸ばして引き裂く
自分の腕が汚れるのはもう慣れないと仕方がないのだが、この肉を抉る感覚はまだ慣れそうにないな……。

頭を切り裂かれたワイルドピックは、その後も突進を続けていたが徐々に勢いを減らし、やがて地面に倒れ付した
水の初級魔法で水を生成し、腕を洗う。
汚れてない方の腕でペタりと座り込んでいる魔術師に向けて手を伸ばす
女の子座りってことは、……さては女の子だな!?

「ふーっ、大丈夫だった?」
「……え、あ、うん。」

僕の予想は正しかったようで、澄んだ女性の声だった。
困惑したような様子をしながらも手を握り返してきたので、悪くは思われてはないだろう

「大変だったね」
「……いや、本当に助かったわ。ありがとね」

ん?さっきから僕の腕を見ているが、何かついているのだろうか。
そう不思議に思っていると、頭の中でくろ丸が呆れたように呟いた

『アランは、僕ちんに人前で悪魔の力を見せるなー!って言ってなかったか……?』

あ。

Re: 半死半生の冒険記 ( No.23 )
日時: 2020/04/03 10:15
名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)

作者コント
シーナ「その腕って…」
アラン「君は知り過ぎた。消えてもらう。」
とはなりませんのでご安心ください。
後、閲覧数が200越えてました!ありがとうございます!

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第16話「魔術師シーナ」


やばい、どうしよう。状況が状況だったから油断してた!うっかり悪魔の力を見せてしまった。
悪魔召喚って魔術師にとっての禁忌じゃなかったっけ……!?

とりあえず腕に集中していた魔力を戻し、腕を元通りの肌色にする。
急に腕が変わったことで、魔術師は再び驚いたように小さく声を上げた
僕は至って冷静で落ち着いた振る舞いで、何事もなかったかのように話しかける

「ん?僕の腕がどうかしたの?」
「えぇ……!?いや、さっきまで……」
「な、何が?それより、怪我はない?一応回復魔法は使えるけど。後、ワイルドピックの素材は貰ってもいいかな」
こうなったら押し切ろう。

「勢いで誤魔化そうとしてない?」

バレた。

「……よくわかんないな」
「でもさっき思いっきり見たんですけど」
「………気のせいじゃないカナ」

………





僕は今、姿を現した黒羊姿のくろ丸と一緒に土下座している。
いや、あいつは土下座を全力で嫌がったので土下座をしているのは僕だけだな。
だからくろ丸は土下座している僕の背中の上で寝転がっている。後でしばこう

「何でもするからこの事は黙っておいてくださいッ!!!」
「………」

これで断られたらもうどうすることもできない。
顔色を伺うようにゆっくりと顔を上げると、ローブのフードを取った魔術師がいた。

肩あたりまで伸ばした透き通るような水色の髪に、端整な顔立ち、紫のロープと対照的な白い肌と、
随分と可愛い女の子だった。
「わ、分かったから顔上げてって。」

魔術師は少し髪を指でイジりながら、横目で話してきた。
僕は背中に乗っていたくろ丸をはたき落としてゆっくりと立ち上がった

「………助けて貰っておいて、その人の秘密をバラすことなんてしないわよ。……よく分かんないけど、その腕ってバラされたら困るんでしょ?」
「うん。ありがとう」

良かった……、なんとか回避できたようだ。

「いや、お礼は私が言う方なんだけど……、まぁいいや、私はシーナ。まだまだ初心者だけど、Lv3の魔術師をやっているわ。あなたの名前と、……その羊さんは?」

どうやら、シーナはくろ丸のことが気になっていたらしい。
コイツにさん付けしなくていいっすよ。たぶんそういう意味じゃないけど。



「僕はアラ……アレンッ、Lv1の、一応短剣使いです」

いい加減、偽名も慣れないといつかバレるな……。
「で、こいつは……、えっと、……うーん。……ペット?」

結構力を入れてくろ丸が足を叩いてきた

『おい!いくらなんでもこの僕ちんをペット扱いとはいい度胸だな!初めての経験だ!』
しょ、しょうがないじゃん……!あのまま「契約した悪魔です」って言っちゃ駄目じゃん!

「なんか羊さん怒ってるみたいだけど……」
「お、お腹が空いているんだよきっと」

力を更に込めてきた。一発一発は痛くないけど、同じ箇所をずっとぺちぺちされてるので以外と痛い。
シーナは何故かジトっとした目で見てきたが、その視線を無視して先ほど倒したワイルドピックに近づいた。
皮を短剣できって、血抜きを始める

「素材は半々でいい?」
「い、いや、流石に取らないわよ。助けて貰っただけだし」

よし!金欠なので有難く頂こう。ワイルドピックの肉は料理としてもよく使われるので、ワロマラットより素材換金で貰えるお金は多いはずだ!
でも、流石に全部取るのは気が引けるな。

「本当にいらないの?」
「いらない!ていうか、別に倒せないわけじゃないのよ?今日はたまたま後ろから不意を疲れただけで」

後ろからって、ワイルドピックの突進ってかなりの威力なんだけど……

「大丈夫?」
「咄嗟に防御結界を張ったからかなり軽減したし、別にもうなんともないわよ」

なら良かった。
ただ、頭の中で一つの疑問が浮かんだ

「でも、シーナって魔術師なのに何でソロなの?」

魔術師なら僕と違ってどこも重宝されるので、適当に声をかければ入れてもらえる気はするが、何故ソロなのだろう。
魔術師はパーティに入って後方から攻撃魔法や支援をするのが普通だ。剣士と違って近接戦は苦手なので、ソロだと危険度も増す。
すると、シーナは困ったように苦笑いしながら話始めた

「あー………、ほら、私ってアレじゃん?美人さんじゃん?」
「だね」
「いや、そこはツッコみなさいよ……。魔法職の私は確かにどこでも入れたんだけど、……パーティからちやほやされるっていうか……」

なんだなんだぁ?5回立て続けに拒否された僕への当て付けかぁ?
贅沢な悩みだなー。と思ういつつ、言葉を飲み込んで黙って聞く

「魔術師としても大切にされたんだけど、皆私と接し方が違うっていうか……」

………?

「……過去に男性が2人女性が1人のパーティに入ったことがあって」


………あぁ、大体読めた

「そーゆーことね」

断ち切るように話を割った僕に対し、シーナはまた苦笑いをした
「早めに理解してくれて助かったわ。そーゆーこと」


あらかた作業が終わり、ワイルドピックの素材を整理しながら、
僕はシーナに向き合って言った。




「じゃあさ、僕とパーティ組まない?」