ダーク・ファンタジー小説
- Re: 半死半生の冒険記 ( No.30 )
- 日時: 2020/04/09 20:44
- 名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)
第23話「魔力汚染」
まだ調査隊が派遣される前のこと
めでたくLv2になった僕たちは、解放された赤クエを早速受注していた。
適正難易度もLv2〜3と、今のレベルに適しており、十分に戦えるはずだ。
「今回お前らが受けるクエストは、いつも行ってるウルリア森林の奥、バルク山だ。」
「はい!」
勿論知っている。というか、この辺りの地形なら冒険者になる前に全て頭に入れてる。
バルク山はあれだ、なんか、荒々しい山だったはず……。
「そこに住んでいる魔物は比較的ランクの低い魔物だらけだから、油断せずに挑めばいけるはずだ。だだ、稀に地渡りしてくる竜もいるから、……まぁ、祈っておけ」
「急に不安になってきました……」
竜とか、僕たちが逆立ちしても勝てそうにないよ……。
地渡りというのは、竜に限った話でもないが、そこに住んでいた魔物が何かしらの理由で場所変え、前までいなかったはずの魔物が新たにやってくることである
「来たとしても緑竜だけだ。本当に稀だし温厚だから、自分から攻撃しかけるようなことさえしなければ大丈夫だよ」
「俺の魔法剣なら、竜の鱗だって貫通できるしな!」
「はいはい……」
汚れた短剣の鞘を洗い、持ち物を確認する。黒パン、水、地図、お金が入った皮袋
バルク山は少し遠いので、昼飯の分も入れてある。日が暗くなる頃には帰れる算段だが、もしものために黒パンは4つある。
ただ、黒パンは硬いので大丈夫だが、皮袋の中がパンパンなのでそろそろちゃんとしたポーチが欲しいな……。
よし、このクエスト終わったら奮発してちょっと高いポーチ買おう。
自分へのご褒美を考えて、出発前にやる気を出させる
「じゃあ、行ってきます」
「おう」
───────────────────────
バルク山までは、ウルリア森林から整備された道があるので、それに沿って進めば確実に着ける。
アロマラットのクエストで散々お世話なった、見慣れた森の中をサクサク進み、バルク山へと着く。
草木が生い茂る森から急に荒々しい山が出てくるので、急に景色が変わったように感じる。
森を出たとき、肌に粘りつくような嫌な悪寒がした
一瞬のことだったが、あの悪寒はしばらく消えそうにない
「………?」
「?どした?具合悪いのか?」
……気のせい、か?
僕の前で鼻歌を歌いながら歩いていたバーンが何か見つけたのか、急に立ち止まって屈んだ。
つかさっきの歌、帝国騎士団の軍歌じゃん……。帝国騎士に憧れているのだろうか。
「おいアラン!足跡あるぞ!きっとワイルドピックのだ!」
「ん……だね。」
相変わらず声のでかいバーンに対し、控えめな声で返事する。
他の魔物に気づかれるからボリュームは下げて欲しい。
僕の声が小さかったのが気になったのか、バーンが心配そうな顔で見てくる
「……なぁ、やっぱ具合悪いんじゃないのか?無理ならまた明日にするか?」
「あぁ、心配させちゃってゴメン。今日声がガラガラだから、ボリューム下げてるんだよ」
……バーンにはあんま心配をかけたくない。
ちょっと無理にでも元気にしよう。
「そうか。ならいいぞ!ワイルドピックはこの近くにいるはずだ、気を引き締めて行くぞ!」
「おー」
……ねぇ、くろ丸
『……ん?どした?』
なんか今日、空気が変っていうか、空気中の魔力?が嫌な感じなんだけど。
なるべく無視してるが、やっぱりさっきからずっと嫌な感じがするのだ。
バルク山がそういう場所なら割り切るしかないが、ここまで来ると変に感じてしまう。
くろ丸は、やれやれと言った感じでため息を吐くと、簡単に説明してくれた。
『アランはあれだな、精神系の魔法攻撃への耐性がないんだな。それで、魔力量も多いから余計に感じるんだな。』
??どゆこと?何かされてるの?
『……微弱にだが、この辺り一体に邪悪な……いや、狂った魔力が大量に放出されている。そのせいで空気中の魔力が汚染されているのだ。』
へ、へー。そうなんだ。
……それってもしかしてヤバい?
『やばいな』
…………昼飯抜きな。
『!?ぼ、僕ちんにかかればあんな奴、2秒で懲らしめることができるぞ!』
あんな奴、ってことはやっぱり黒幕がいるのか……。
よしっ
無視しよう。
『……?倒す流れだと思ったんだが。』
嫌だよ。そんなの僕たちの仕事じゃないでしょ。
ちゃんとクエストとして出すなら、くろ丸がしてあげてもいいけど……
『いや、僕ちんがやるんかい。』
いえす。
くろ丸と話ながら歩いていると、前にいたバーンが驚いたように声を上げた。
「お!ワイルドピックがいたぞ!あっちの大岩の、裏…に。……ん?」
最後の方、バーン声が疑問系に変わったので気になって近づいてみる
「どうしたの……って」
まず目に入ったのは、ワイルドピックの下に作られた血溜まり
次に目に入ったのが、
ワイルドピックを膝の上に乗せて食べている、大きな黒い熊の姿があった。
口には、血と、何故か紫に発光している汚い涎、目は異常なほど血走っている。
額に赤い×印があり、丸太ほど太い腕は、本で見たことがある。
バルク山の主、グランドベアーだ。
はは、お行儀悪いですこと……
揃って固まったように動けないままでいる僕たちに、熊は食べかけのワイルドピックを持ったまま、こちら見ている。
そして遅れたように、さっき感じた悪寒が走ってくる。
「ぐっ………」
……こいつかよ!
『コイツだな。』
熊はのそりと起き上がり、持っていたワイルドピックを放り投げると、地面を揺るがすような咆哮を飛ばした
グオオオォォォォォッ!
………行くんだくろ丸ッッッッ!つか助けてくろ丸ぅッ!!
『……はぁ』
- Re: 半死半生の冒険記 ( No.31 )
- 日時: 2020/04/10 23:37
- 名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)
作者コメント「夜分遅くに申し訳ございませんッ!」
それとお知らせ:人物紹介と目次を更新しました。
後、タイトル変えようか迷ってます……。半死半生の要素が冒頭しかないので……。
変えたとしても、「〜の冒険記(※旧題:半死半生の冒険記」と書くのでご安心を。
戦闘描写が相変わらず苦手です……。
第24話「喰ラウ者」
グランドベアーは咆哮を上げた後、四足で狼のように身軽に走ってきた
はっや!……って違う!
くろ丸、我を守りたまえぃ!
『いや、バーンがいるから力は見せられん。頑張るのだ』
本当にコイツヤバいんだって!B+が僕に倒せるわけないだろ!
前を見ると、所々生えている小さな小木や石を無視するように熊が猛烈な勢いで突進してくる。
少しでも触れたら僕じゃ吹き飛ぶので大袈裟に横に回避する。
だが、
「バーン!避けろ!!」
「……ぁ」
未だに固まって動けないバーンに、無慈悲に熊は突撃していく。
「やめろぉッ!」
咄嗟に腕に魔力を込め、瞬時に集中させて黒く染める。
そのまま指を伸ばし、触手のように熊に向かって伸ばす
『おいっ!』
知るかっ!
黒く侵食した指は、勢いよく熊に向かって伸び、毛皮を貫通して太い足に突き刺さる
届いたっ!つか刺さるんだ!
グランドベアーの分厚い毛皮さえ貫通するくろ丸の力を見て、少し自信が沸く
……足を怪我しているから、さっきみたいな速度は出せないはずだ。それなら僕でも……
───しかし、熊は傷口を気にも留めずに、再びこちらに向かって吠えた
全ッ然怯まないんだけど……。痛くないのか……?
『おい、集中しろ。また来るぞ』
さっきの何ら変わらぬ速さで熊が突進してくる。
当然、足に負荷がかかり、足にできた傷口が大きく広がる
血は溢れ、見るからに危険な状態だが、それでも熊は足を止める気配はない
「…は……」
狂気すら感じるその行動に、呆然としてしまった。
その一瞬で対処が遅れ、突進が直撃する
「……しまッ!?」
突進が直撃する前、何とかガードが間に合い、強化した腕で押し付けるように防ぐ。
ある程度の痛みは覚悟したが、流石というか、腕に痛みは全く感じないが、衝撃で体が持ちこたえれずに吹き飛ぶ。
熊はそれをを逃さず、追撃するように乗っかってくる。
「がっ……ぁ」
体が裂けそうな質量が乗っかり、意識が飛びそうになる
全身を力ずくで押さえられ、締め付けられた骨が悲鳴を上げる
目の前には目が血走った黒い熊の顔、そして何故か紫に発光している涎
……あ、死ぬ。
意識が不安定になり、抗おうと力を込めていた腕が少しずつゆるくなっていく
完全に落ちかけた視界の隅で、何かが光った。
……炎…?
次の瞬間、怒号と共に燃え盛るような巨大な炎を纏った剣が横から薙ぎ払われる。
「どきやが、っれええぇぇぇぇ!!」
渾身の魔法剣は、グランドベアーのわき腹に深く刺さり、転がるように熊は吹っ飛んでいった。
「はぁ……はぁ……、これで…いったろ……。大丈夫かアラン!」
「大丈夫じゃ……ないかな……」
「大丈夫だなっ」
こいつ
くろ丸が、安心したように一息つく
『まったく……心配させるな。』
くろ丸も、ゴメン……
『まったくだ。』
うーん。
薙ぎ払った魔法剣を鞘に直し、バーンがゆっくりとグランドベアーの死体に近づく。
よく分からないけど、相当ヤバい奴のはずだ。ギルドに戻って報告するべきだな……
この森の張り付くような空気も、まだ残ってはいるが、だいぶ和らいだ。
「とりあえず、これどうやって持って帰ろうかな」
これ、というのは勿論熊のことである。サイズが大きいの帰りの距離を背負って歩くのは相当厳しいだろう……。
「うげ……アランはコイツを持って帰るつもりなのか?」
「うん。B+ともなればだいぶ貰えると思うし。固体としては……かなり変だったけど。」
恐らく、今日のことを伝えればギルドの方から徹底的に調べられるはずだ。
そう思うぐらいには、この固体は色々とおかしかった。
そこで、死体の状態を調べていたバーンの手が止まる。
いつもとは対照的な、かなり控えめな声で呟く
「……………なぁこれ」
「ん?」
「まだ生きてるっぽいぞ」
次の瞬間、腹の裂けた熊が、両手を上げて僕たちに遅いかかかってきた。