ダーク・ファンタジー小説
- Re: 半死半生の冒険記 ( No.8 )
- 日時: 2020/03/26 09:56
- 名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)
第2話「ローナとの出会い」
熱が奪われていく感覚が消える。冷めた温もりが、暖かくなっていく。
久しく感じていない、自分の体温が、感じられる
失っていた、この感覚に泣きそうになる
ずっと浸かっていたい。これが夢なら、全力で寝続けてやる
しかし、それは外部からの刺激によって中断される
頬に何かを押し付けられているようだ。
「………ぁ」
目を開いて、最初に視界に入ったのは魔力を使って火を付けたランタン。眩しかったので目をもう一回閉じる。
ゆっくりと体を起こして周りを見渡す。
机や本棚、よくわからない瓶が置いてある棚に、衣装をギュウギュウに詰め込まれたクローゼット
壁は木の繊維が模様となっており、部屋の奥からいい匂いがする
「あ、起きた?」
青い刺繍が入った黒いとんがり帽子、同じく青い刺繍の入った黒いローブは、肩から足のつま先まで繋がっており、随分と長い
黒い衣装とは対照的な、穢れのない肩まで伸ばした白銀の髪、碧眼と、人形のように整った顔立ちをしていた。
随分若く見えるが、身長からして大人の女性に見える。
僕に声をかけてきた女性は、しゃがんで手に持っていた杖で僕をつついてたみたいだ。……ちょっと失礼過ぎるのでは。
彼女はそのまま立ち上がり、机の引き出しから何かを探し始めた
「………あの、ここは───「おーっと、その前にこれを飲みなさい」
謎の女性は、どこからか取り出した青色の丸いフラスコの瓶を投げてきた
咄嗟に受け取って瓶を眺めてみるが、……怪しい臭いしかしない
「え、いや、その」
「一時的なものだけど、それ飲まないと明日には死ぬよ。後、いくつか質問もさせてもらいます」
「──え」
「衰弱しきった体で無理な魔力行使なんてするから、穴、広がっているよ」
「……あ、穴ってなんですか」
「心当たりあるでしょ」
心の中まで透かされたような瞳で見つめられ、思わず俯く。……穴というのは、魔血病で発生した魔力が漏れる穴のことだろう
だが、その穴は非常に小さなもので、この彼女はその穴が広がっていると言った。──それは、見えているということなのだろうか。
にわかに信じられないが、嘘をついている様子はない
「いーから飲みなさい。はーやーく」
「………」
ええい、ままよ!
そこまで量はなかったので一気飲みしたが、口の中に入った瞬間に広がる味わったことのない強烈な苦味に吐きそうになる
急いで口を押さえ、何とか飲み込む。それを見ていた彼女は呆気にとられていたが、何故か拍手をして
「おお、豪快。私なら吐いてる自信しかないよ」
ならそんな物を飲まさないでくれ………、と思ったがいちいちツッコんでいれば話は進まないので飲み込むとする
まだ口に残る苦味に耐えながら、どうにか顔を保つ
「体のほうは……足が折れてたね。後で包帯もってくるから待ってて。具合はどう?」
「あ、はい。大丈夫です」
倒れそうなのに変わりはないが、ここに来る前よりずっと良くなった
椅子の上でだらけている彼女のほうを向いて、できるだけ真剣な表情を作って話す。
「さっき、この薬のこと、一時的なものって言ってましたよね。つまり、もう少し時間が経てば僕は死ぬ、ということですか」
ここがどこで、あなたは誰なのかも気になるが、彼女がさらっと言った言葉を逃さなかった
窓の外は暗く、ランタンの明かりが反射してるのでよく見えない
彼女は、しばらく考え込んだ後、指をこちらに向けて説明してきた
「うんうん。人の話をよく聞いているね。えとね、君が今かかっている魔血病は確かに『漏れ』が止まっている」
彼女が言った言葉に反応するが、黙ってきく
「けど、穴は塞がってないし、むしろ広がった。だから魔力が少し回復した明日にはその大きな穴からどんどんと魔力が漏れて、今みたいに弱りきった体じゃ、明日か明後日が限界ってこと」
「私が渡した薬は、魔力の流れ一時的に止める薬。あれ一本しか作ってないし、薬の効果が切れたら再び漏れは続くから死ぬ、ってこと」
「あの、」
「むしろ、そんな体でよく頑張ったねって思うよ。生きたいっていう相当強い意志を感じたもん」
「あのー」
「ん?何?」
流れるように説明をした魔血病については後でじっくり考えるとして、
さっきから台所でぐつぐつと音を立てて鍋の蓋を揺らしているのが気になって仕方がない
「火、大丈夫ですか」
「ひ?………て、あああぁぁぁ!!?」
髪の毛をいじってた手が止まり、顔が一瞬固まった後、
彼女は慌てて飛ぶように台所に走って魔力コンロの火を止めた
鍋の中身はギリギリセーフだったが、彼女の手は何も考えずに急いで触ってしまったので焼けどを負って泣いた
テーブルで向かい合わせに座り、
二人分の可愛いウサギのおわんが並べられ、それぞれにスープが入れられる
二人分?と思ったが、すぐに僕の分も入れてくれてると気づき、慌てて手を振る
「あ、いや、悪いです……」
「ただでさえ細いんだから、しっかり食べなさい。」
「そうじゃなくて、夜ご飯、食べました」
「嘘。全然お腹すいる人の体形だよ」
……いや、元々病気のせいで食えないんじゃい!
その後、何回か否定したが押し切られ、結局一杯飲むことにした。
………普通に美味しかったです
─────────────────────
夜はもう遅く、食器を洗った後、改まって彼女は真剣な表情でこちらを見てきた
「で、君はこれからどうするの?」
…………
どう、するのだろう。
残りの短い命で、何ができるのだろう。
生きるために頑張った
行動するのは遅かったが、一生懸命頑張った。
でも、無理だった
暗い顔でもしてたのか、彼女はため息を吐くと、咳払いをして
「あー、質問を変えます!」
「君は生きたいの?」
目をそらさず、真っ直ぐに向いてきた
───。
そんなの、決まっている
自分の心に聞いても、きっと帰ってくる答えは同じだろう
「────生きたい」
彼女は、その言葉を待っていたと言わんばかりに大きく頷き、カッコつけるように指を鳴らした
「じゃあ、契約しよう」
- Re: 半死半生の冒険記 ( No.9 )
- 日時: 2020/03/26 21:02
- 名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)
第3話「お話」
「契…約……?」
思わず聞き返した僕の言葉に、彼女は手横にを振りながら話す
「まぁ、契約するのは私じゃないんだけどね。」
この部屋には、他に誰も居ない。じゃあ誰なんだと考えているのが分かったのか、
何かを言う前に彼女は持っていた杖で地面を叩いた
「その前に!まずは自己紹介からしましょうか。お互いの名前しらないし」
そう言えば、何も聞いていなかったな……
目覚めてからまず最初に思った疑問を思い出して、忘れる前に口に出す
「僕は、アランです。それで、……ここはどこで、あなたは誰ですか」
「うんうん。アラン君ね。それじゃあ……、面倒くさいから簡単に言うけど、ここはさっきまでアラン君が必死になって歩いてた森、カルジュラの森の中です。それで、私はローナ。わけあってこの辺に隠居しているただの魔法使いです。」
カルジュラの森は、確かに僕がさっきまで走ってた森の名前だ。
でも、カルジュラの森はそこまで大きいわけではないし、小さい頃に何度も行ったが、この森に一軒家なんてなかったはずだ。
「まぁ、家は隠蔽魔法で意識阻害をしていたから地図にも載ってないし、知らなかったでしょ。」
「………この家全体に魔法を?」
隠蔽魔法というのは、文字通り隠す魔法だ。まず使える者が少ないが、一軒家に丸ごとかけるような魔法ではなかったはずだ
当然、馬鹿みたいな魔力量も必要だし、それを今まで維持してたというのなら、にわかに信じ難い。
「……そういう属性の魔法が得意でして。」
「はぁ」
「とにかく!」
ローナは咳払いをすると、机から一枚の紙を取り出した。随分と古い、魔方陣のようなものが描かれた紙だ。
「魔術スクロール?」
確か、強い魔法を行使するのに必要な詠唱を紙に書いて簡略化したものだったはずだ。
今まで何枚か見たことはあるが、………こんなに複雑に書き込まれたスクロールは見たことがない。
一体どれほどの魔法を使うつもりなのか……、そんな不安を他所に、ローナは元気に説明を続ける
「そう!今から、君と契約する悪魔を召喚します!」
「あくま………悪魔!?」
「そうそう!あまり言いたくないけど、すでに君の体は限界に近いからね。無理矢理行使した魔力回路も崩壊寸前だし、長い間放置した漏れた魔力が魂まで侵食している。今は大丈夫だけど、後何日かしたら本当に死んじゃうような状態なの。だから、悪魔との契約内容に自分の魂の半分を悪魔に住まわせる!代償に魂を使う分、授かる力は大きいものになるし、魂の半分を住まわせることで体も今の状態から回復できるし、魔力回路も悪魔を住ませることで魔力が融合し、強固なものになる!どうよ!」
「ま、待ってください」
情報量が多すぎる………。人に聞かせる気はあるのだろうか。
今聞いたことを一つ一つ頭に入れて、次に質問を考える
「悪魔に住まわせるって意味がわかりませんし、まず第一に、何で普通の魔法使いが悪魔を呼び出せるんですか!」
悪魔の召喚は、魔法使いにとって禁忌のようなものだったはずだ。そんなスクロールを何故持っているのか気になるし、それに、何で悪魔についてそんなに詳しいのかも気になる
僕の言った疑問に対して、ローナは腕を組んでしばらく考え込んだ。
数秒、あるいは数十秒の沈黙が流れた後、ローナはゆっくりと口を開いた。
「………ふむふむ、もっともな意見だね。じゃあ、一つ話しをしよう」
「自分で言うような話じゃないんだけど………、三大魔女って知ってる?」
- Re: 半死半生の冒険記 ( No.10 )
- 日時: 2020/03/27 09:10
- 名前: 星騎士 (ID: X1kgwzZ6)
作者コメント「1話で4000〜5000文字ぐらいと言ったな、アレは嘘だ。」
2000文字ぐらいです……すいません。
───────────────────
第4話「魔女のお話」
「三大……魔女」
「そう。」
知っているも何も、小さい子供に聞かせる怖い本の代表作じゃないのか……。
火・水・風の魔女が居て、
夜遅くまで遊んでいると魔女に食べられちゃうぞ〜って親が子供に言うことを聞かせるために作られたお伽話
僕も昔母から聞いたし、この国では有名だ。
「本で、みたことがあります。」
「ふむふむ。じゃあ、どれくらいまで知っている?」
悪い魔女達が、互いに争ってるうちに強くなり、やがて国を無茶苦茶にしてしまうという本
だから、悪いことをしていると魔女達がやってきて、食べられてしまう
僕を知っている限りではこんな感じの話だったはずだ。
だが、ローラはこの話が気に入らなかったらしく、近づいてきて何故か僕の胸をポカポカ叩き始めた
「??…?」
「何だい何だい!その『子供が悪さしないように作られた童話』みたいな話は!」
いや、実際にそうなんですけど……。ここでそれを言ったらさらに怒らせてしまうので黙っておく
「何でローナさんが怒ってるんですか?」
「君はその魔女についてどれくらいしってるの!?」
あ、無視された。
「?……えっと、『炎獄のカミラ』、『嵐絶のソフィア』、『常闇のろー………な」
……あれ、ローナて名前最近聞いたな。あ、目の前の人じゃないか。ハハ、まさか、そんなわけ……
目の前の彼女はカッコつけるように杖をかざし、胸に手を当て大きな声で言った
「そう!私は三大魔女の一人!常闇の魔女ローナよ!」
───────────────────
常闇のローナ
氷、水、闇を操る魔女。かつてカミラと争い、とある草原を荒地にしたのは有名な話だ。
屋敷にも何本かそういう本はあったのである程度魔女については知っている
「……どう?ビックリした?」
驚いた、というより固まった僕を見て、何故か得意な顔をして聞いてきた
「……いや、びっくりていうか……、納得しました。」
この家にかかってるらしい隠蔽魔法も、何故もっているのか分からなかった悪魔のスクロールも、
常闇の魔女ということを信じるなら説明がつく。その話を信じるならの話だが。
「うんうん。話が早い子は嫌いじゃないよ!ただ、一つ知っていて欲しいのは……私は人間は食べません!ってか、私も人間だし!だいたい、そういうのはドラゴンとかに付けるべき設定でしょ!」
「あ、はい」
本当に食べられると思っているのは純粋な子供だけなんで安心してください……
椅子に座って杖を回し、改まって話しをしようとするローナさんを前に、僕は体の方が疲れているので横に寝かせてもらっている
「……まぁとにかく、私が闇魔法が得意なのは知っているね?で、闇魔法って言っても色々種類があって、悪魔召喚っていうのはその中でもちょっと特殊な部類に入るの」
「はい」
まず、闇魔法は光魔法と違ってあまりよく思われていないので、自ら覚えようとする者は本当に僅かだ。
だから図書館などに行ってもあまり闇魔法について書かれている書物は少ないし、
貴族は初級魔法を覚えるのが教育の一環なのだが、闇魔法は習わないことになっているので僕もほとんど知らない
「今日はもう遅いから召喚は明日だけど、呼ぶ悪魔は見た目はそんなに怖くないし、むしろ可愛いの。」
「え」
「それに、口調は普段は偉そうだけど、根は素直で、とっても優しい子なの!」
「悪魔なのに?」
「悪魔なのに!そもそも、悪魔全員が童話に出てくるような性格のイカれた畜生ってわけじゃないの!」
悪魔について熱く語るローナさんに、僕はある疑問を抱いた
「あの、会ったこと、……あるんですか?」
「そりゃ、何体も契約してるんだしあるよ。」
あるのか……。まず悪魔と契約してる時点で常識的におかしいと思いつつも、常闇の魔女ならおかしくはないかと納得している自分がいる
ちょっと感覚が麻痺してきてるかも……
「それと、呼びした時に過度に反応しないこと。優しく接してね?心がちょっと弱いから……」
「悪魔なのに?」
「悪魔なのに。姿は翼と角が生えた羊をイメージするいいよ〜」
ローナさんは椅子から立ち上がると魔法のランタンの光を弱くした
どうやらもう寝るらしい。……さて、僕はどこで寝るとするかな。
外で寝るのは流石に厳しいので、床を指しながら寝てもいいかを聞く
「あの、床でいいので今夜はここで寝かせて貰っていいですか」
すると、ローナさんは呆れたように頬を掻きながらため息を吐いた。
「あのね、確かに私は魔女だけど、病人を雑魚寝させるほど人情がないわけじゃないわよ。ちゃんとベッドで寝なよ。」
「でも、それだとローナさんはどこで……」
「適当にソファーで寝ているからいーよ。」
本当に……、人間味の溢れた魔女さんだな……。
ここで否定しても仕方がないので、有難くベッドを使わせてもらった
「ありがとうございます……」
「いいって。」
こんな話の後に大変申し訳なくなったが、ベッドはむっちゃイイ匂いがしました。
ほんと、すいません……