ダーク・ファンタジー小説
- Re: 箱船のアヴァターラ ( No.2 )
- 日時: 2020/04/09 18:02
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
第一話「拾われたのは初代アヴァターラ」
13年前、アヴァターラ試運転時に起きた爆破事件は今ではもう記憶の隅に置かれていた。
その頃、伊瀬九蘭は5歳という幼さだった。父親は片腕欠損という重体を負ったが娘を育てた。
育児などやったことが無い彼は困り果てていた。そこで彼はある事を思いついた。
九蘭の曾祖父の研究データを利用し母親に似せたアヴァターラを作り出し彼女を九蘭の
お世話係を命じた。13年後。今の伊瀬九蘭は漫画家をしていた。といっても売れていないわけでも
無く売れているわけでも無い。
「おーい、無事ですかぁ?九蘭ちゃん」
長い黒髪が揺れ動くのが見えた。育児用アヴァターラ、名前を伊瀬卑弥呼という。
「無事でぇす…」
「声が無事じゃないですぅ!!しっかりしてください!!」
否、育児をする母親とは思えない。この姿や口調はメイドや姉もしくは妹に近い。九蘭が
高校時代に着ていた制服に似たデザインの服を着ている。
「九蘭ちゃん、私拾ってきちゃいました!」
「何を?」
「え、エヘヘ…シヴァ君ですぅ。お、怒らないでくださいよぅ!!九蘭ちゃんが御国の人に
お願いすれば修復ができるでしょう?古いタイプの子だからそんじょそこらの技術者じゃ
直せないんですぅ!!」
シヴァ、それは今使われている初代自立型AIの三体トリムールティの一体だ。
彼の他にヴィシュヌ、ブラフマーの名を持つアヴァターラが存在する。確かに一部部品が
錆びついている。九蘭は手元の電話の受話器を手に取ってボタンを押す。そして連絡し数時間すると
国から派遣された技術者がやってきた。
「オッス、九蘭さん。久しぶりっすね」
体育会系の口調で話す好青年、堰沢巧翔は若いながら国直属の技術者の
一人になった天才技術者だ。旧タイプから新型まで幅広いアヴァターラの修理等をしている。
「この程度の錆ならすぐにどうにかなるっス。ちょっとすいませんね」
背負っていた箱を開き道具を使って錆を取っていく。「あ…」彼が気の抜けた声を出す。
「これ…まだちゃんとした持ち主が決まってないみたいで。九蘭さんにしておきますね」
頷く前に彼が勝手に、勝手にプログラミングした。