ダーク・ファンタジー小説

Re: 霊障対策課24時! ( No.1 )
日時: 2020/04/18 15:36
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


霊障対策課、霊障?ふざけたこと言ってんじゃねえって思う人が多いと思うがこれでも

色々仕事は入ってくる。私、柳水流愛瑠はつい最近、前の課長に半ば強制的に課長に命名され

今に至っている。そして今日、夕方に全員が帰宅の準備を始めた。それは帰りに霊障事件が

舞い込んでくるから。昨日の事だ。一般企業に勤める男性から一本の電話が来た。

「はい、もしもし霊障対策課です」

『あ、すいません。実は変な屋台を見つけて…』

「は、はぁ…」

『私、実は霊的なものが見えちゃう体質でして。他にも同僚と帰っていたんですが同僚は

見えないと言ってて…もしかすると、と思って電話したんです』

「分かりました。じゃあその屋台を見た場所を教えてください」

愛瑠はペンを走らせた。ここからすぐ近くで夜しか現れないらしい。さらにその日、遅刻してきた

職員はその公園付近で例の屋台に入り二日酔いで遅れたと言って来たのだ。やはりこれはここの

仕事だと感じた。


「おぉ、ここが例の屋台かぁ…」

圓勺時哉はその屋台を見て呟いた。

「まぁ良い店じゃないか。最近は見たことが無いけどね。ちゃっちゃと入ろう」

そう言って一人、先に屋台に入って行ったのは天草姫香だ。彼女に続いて他の霊障対策課の

職員も入っていく。席に座ると屋台をやっているのは札のようなものが顔に張られた男。

「あーいらっしゃい霊障対策課の人達だろ?いやぁ視える人が数人ここに来てくれてよかった。

ずっとここに居るのもどうかと思ってたからね」

男は札の下で嬉しそうな笑顔を浮かべた。

Re: 霊障対策課24時! ( No.2 )
日時: 2020/04/18 16:04
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


「ん〜美味い!もう一杯、くれるかい?」

「はいはい」

屋台の男は天草姫香のジョッキに酒を注ぐ。酒にかなり強い彼女はどんどん飲んでいく。

「警察の課長をこんな若い子がやっているのか。老若男女平等だねぇ…名前は?」

男はおつまみを愛瑠の前に置いて名前を聞いた。

「柳水流愛瑠です」

そう名乗ると男は何かを思い出した。

まだ生きていたあの頃は居酒屋を開いていた。警察庁の近くにあるため仕事を終えた警官たちが

時折寄って行く。その中で数人の警官たちがやってきた。先輩、課長などと呼ばれていた男が

いた。彼は確か…そうだ柳水流と呼ばれていた。特徴的な名前だからよく覚えている。

「そうか…あの男の娘か」

男は小さく呟いた。辺りを見回すと大分食料や飲み物が消えてきた。男の体が透けていく。

「最後に大繁盛して良かった。ありがとう」


幽霊屋台はその後、見られなくなった。

霊能力には属性操作をする者や式神等を自身に憑依させる、霊力を具現化させて武器などを作り出す

などがある。一言に属性を水にしてもそこから幾つか枝分かれする。天草姫香は陰陽師に分類され

属性は水、水を凍らせることが出来るのだ。彼女はその能力で空気中の水分を凍らせて刀を作って

戦闘する。圓勺時哉は陰陽師に分類され属性は木だが縄のように練った気功を扱う。属性はあるが

その属性らしいものを必ず使うというわけでもないのだ。

Re: 霊障対策課24時! ( No.3 )
日時: 2020/04/19 22:15
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


テレビで新聞でインターネットで大々的に取り上げられている喜ばしいニュースがある。

大女優、櫻井椿の結婚というニュースだ。

「柳水流さん、ちょっと良いかな?」

「ほわっ!」

びっくりした。声を掛けてきた優男は藤原宋一郎、主に占いをする術師だ。彼の占いは

100%当たる。彼は珍しく愛瑠に声を掛けてきた。その内容はニュースに対しての占い結果。

「どうも嫌な結果が出たんですよ。それに電話が来ました、刑事課から」

「え?珍しい。向こうから電話ってくるんだね。で、内容は?」

いつの間にか周りの職員も聞き耳を立てていた。櫻井椿の結婚式の警護を霊障対策課に

回すという内容。そして占い師、藤原宋一郎の占い結果。事態が悪化するという占い結果。

その事件は霊障事件、それも大きな事件になりそうだ。少し緊張しだした愛瑠のデスクにある

電話が鳴り驚いた。受話器を手に取ると刑事課からファックスで事件の詳細を送ると

言われた。

「うっわぁ…読みたくないわぁ」

生き胆を抜き取った死体がいくつも見つかっているという事件。愛瑠は遠目に紙を見ていた。

「結婚式は確か一週間後、今日は4月19日か。これから暫くは長くなりそうだね」

「まぁこの一週間に色々情報を集める必要があるな。ここの課長は君だから頑張って回せ」

「そうですね。頑張るしかないかぁ…」

愛瑠は困ったような笑顔を見せた。書類をペラペラと見ていく。



櫻井椿(30)
国内外で有名な女優。知名度がある上、ネット上では真偽不明の噂が色々飛び交っている。
過去に離婚歴あり。前の夫は事故死、子はいない。

Re: 霊障対策課24時! ( No.4 )
日時: 2020/04/19 22:44
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


「あらぁ、愛瑠ちゃんじゃない。今回の事件は大変ねぇ」

そう声を掛けてきたのはオネェ口調の男、名前は鹿平グエン。名前で分かる通り中国人の

ハーフで霊能力はエンチャントと呼ばれ身に着けた者の能力を上げる衣類、装飾品等を

作り出せる。

「貴方、若いんだからしっかり食べてしっかり寝なさいよ?ここではね貴方を信頼している

職員が多いんだから」

「はい、有難うございます」

飛んできたのは書類の束。それを投げたのは引きこもりがちな白衣の男、古守恭一。

彼もまたグエンに似たエンチャント系の霊能力を持つが彼の場合はトラテープや標識を模した

シールのアイテムを作り出す。彼は愛瑠には特別に作ったアイテムを渡している。

「一通り櫻井椿について調べた。結構オカルトな噂が目立つな。それに誹謗中傷も…大きい存在は

良い目で見られると同時に影で何言われるか分からねえ。後アイテムの方は大丈夫か?

足りなくなったら言えよ補充してやる」

「ありがとうございます」

グエンと恭一が去ると入れ違いで別の集団がやってきた。

「なんか随分と大きな事件になりそうだな。俺はお前が無事でいられるか不安でしょうがねえよ」

そう言った細身の男は雛芥子累槻、蜘蛛を式神とする女系家族の末っ子として生まれた。

「そんなに心配はいらないと思うけどね僕は。ほら、強そうな人がいるわけだから」

「あれ?灰崎さん、それってもしかしなくても俺らですか?」

圓勺時哉の言葉にごまかすように笑った男は灰崎憶人、記憶消去を専門にしつつ「悪魔」と

呼ばれる黄色の炎を用いた結果術も扱う。

「俺らって…僕も入ってるんですか?」

時哉に問う男は月足慧、対象に掌で触れることで気を操作することが出来て特殊な手袋を

通して霊的存在にもその能力を使える。月足慧と圓勺時哉は相棒同士だ。

Re: 霊障対策課24時! ( No.5 )
日時: 2020/04/20 12:02
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


調査一日目。死体調査を担当したグエンと古井戸信慈より調査報告が入ってきた。

古井戸信慈は動物の霊を引き寄せやすい体質。憑依させれば身体能力を強化できるようだ。

「死体には齧られた痕が多くありました。こう、歯形のような形で無造作で…」

「顔には傷は無いし気絶させたり眠らせたりして殺したと思うわ」

二人が順番に簡単に説明する。更に信慈が話し出す。

「それと実は刑事課などからの情報で現場での痕跡は無し、こちらでも霊的な痕跡が無いのです。

意図的に痕跡を消されているようでして…」

「じゃあ現場からヒントを得るのは難しいのかな…でも齧られた痕があるってことはあれだよね?

人食い、もし本当にそうだとしたら霊的類が関係していると考えられる」

悩んだように声を漏らした愛瑠に信慈は「面目ない」と謝る。

「いや気にしないで。まだ序盤だから分からないことだらけなのは仕方ないことだよ」

「あ、話は変わるんだけど良いかしら?結婚式の警備は全てこっちに任されているのよね?」

グエンは話を変えた。分からないことを何時までも悩んでいても仕方ない。その話に乗る。

「うん。かといって全員が警備につくのもあれだから結婚式場側に色々頼んであるよ。

とりあえず結婚式の日には三つのグループに分けようと思う」

「招待客として潜入するチームと給仕として動くチーム、そして式場の警備員として動く

チームね?」

グエンの言葉に愛瑠は頷いた。

「なら私にちょっと意見があるのだけれどいいかしら?霊能力を使うと体が変形したりする子とか

いるでしょう?そういうのが心配な子は私のところに来なさい。採寸してあげるわ!」

周りにいた全職員にグエンはそう伝えた。

Re: 霊障対策課24時! ( No.6 )
日時: 2020/04/20 14:41
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


調査二日目。新たな報告が信慈によって行われた。先日の夜に殺されたと思われるその死体には

やはり噛まれた痕があった。それを照合すると複数の人間の歯形がある事が分かった。

更に今回の死体には霊的な跡が残っていた。少し話題を戻すが歯形については一つ気になることが

あった。

「犬歯が鋭くなってるんですよ」

「うわ、なんか吸血鬼みたいだね」

愛瑠はそう答えた。数分後に扉が開き灰崎憶人が入ってきた。彼は愛瑠の前に立つ。

「あぁ古井戸君、霊力について調べて色々サンプルと比べてみたよ。その男のサンプルがあった」

遅れてやってきた古守恭一は憶人がいった男の資料を持ってきた。南井という男だ。男で

あることは間違いない。本名かは不明。年齢も分からない。過激な霊能力者が集まった

テロリスト集団「フェンリル」の副団長を務める男だという。彼は対価と引き換えに都合の

悪い情報を消していた。

「でも少し犯人は絞れそうだね。一歩前進したよ。あ、そうだ。そのフェンリル若しくは

南井からして邪魔だった組織とか人はいるの?ちょっと気になったんだけど」

「そんなのは簡単だ。ここに決まってるだろ。霊能力なら証拠も残さずに済んで警察も

対処できない。普通の警察ならな。だけどここはそう言った事件を専門としている。

サイコメトリーなどの霊能力を持つ人間もいるんだ。殺人を犯すにしても尻尾を掴むことが

出来る厄介な警察だ」

恭一が答えた。

「数年前にこことフェンリルの交戦があってフェンリルは大半のメンバーが霊障対策課に

よって逮捕された。因縁があるって言った方が良いかな。今では身を隠してしまってるけどね。

フェンリルにはここに恨みがある人間が多いようだ。快楽殺人鬼もいるらしいし世間に対して

不満を抱える術師も多い」

憶人が補足説明を付け足した。



<二日目に分かったこと>
・歯形について犬歯が尖り気味だった
・複数人の歯形
→多くの人間が同じ死体に噛み付いた?

・今回の死体には霊的痕跡が残っていた。
・霊力はフェンリルという組織の副団長、南井の霊力
→事件の被疑者は個人ではなく団体の可能性がある

Re: 霊障対策課24時! ( No.7 )
日時: 2020/04/20 16:21
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


累槻も調査に参加し始めた三日目。

主に情報は課長である柳水流愛瑠に最初に届く。課長、敬われることが多い立場だが愛瑠が

若いということで取っつきやすく友達感覚で接している者が9割を占めている。

「櫻井椿は子供を妊娠中、妊娠何か月かは不明。結婚相手の男は霊力も全くない一般人だな」

「そっか。ありがとう、色々調査にまで手伝ってくれて」

「気にするなよ。それより今は出かけているが藤原さんから伝言を頼まれてる。今は別の場所で

資料集めしてるよ…で、伝言は—」

式場にはどうやら発火術の結界が張られていたよ。移動すれば良いと考えるかもしれないけれど

お勧めはしないな。混乱を招き敵を逃がしてしまう。

それが伝言の内容。

「藤原さんの事だ。その術をどうにかしようと必死になってると思うぞ」

「そうだね。じゃあそっちは宋一郎さんに任せておこっか」

愛瑠と累槻は互いに頷き合った。

「どうかな?調査は順調かな?」

「あ、憶人さん!調べものはどうでしたか?」

「幾つか候補は出てきたよ。で、僕的に色々推測してみたけど今回の件で近いのはこれ…

人食いの呪いがかかった人間の一族、僕たちの中では屍鬼族と呼称している。既に消えかかっている

一族だからほとんど資料は残って無かったよ。でも消滅したとも報告されていない」

駆け足で愛瑠の机にやってきたピンクのメッシュ入り黒髪の女がピンクのカメラと数体の霊と

共に報告に来た。

「いたよ〜この子たちがね知ってるって話してくれたの。なんか若い女の子とおじさんが

話してて「ごめんなさい」「もうすぐ全て終わるから」って会話を聞いたって」

目黒ヒヨ、彼女はカメラで撮った場所にいる霊体を一定時間使役できる。時間が過ぎた後、

その霊は成仏するということで一緒に来ていた霊たちが成仏した。

「お、三日目はなんか沢山収穫できそうだな」

「時哉君たち!」

圓勺時哉と月足慧は二人でフェンリルの残党などを調べていた。どうやら南井以外の残党も

見つけたようだ。

「北見サナ、彼女はどうやら呪術師らしくて噛みついた人物の意識を奪って使い魔のように

従わせることが出来るようです。ほら、吸血鬼に噛まれたら噛まれた人も吸血鬼になるって

話があるでしょう?それと同じように彼女の術に掛けられた人間に噛まれたら噛まれた人間も

同じように支配される。凶暴化や人肉を好むようになる、筋力などが強くなるなどの効果も

あるようです」

「因みに霊障対策課のデータベースを調べたら北見サナの家族が霊障化、解呪不可能で

殺されたっていうのが残ってた」

少しずつ犯人とこの事件についてが繋がってきた。


<三日目に分かったこと>
・櫻井椿は妊娠中
・結婚式場に発火術式の結界が張られている

・屍鬼一族というカニバリズムの呪いにかかった一族が存在した(現在は不明)

・南井と行動する若い少女が事件に関与→北見サナ
・北見サナは感染系の呪術を扱う
→歯形は北見に操られた人間のもの?
・北見の家族は霊障対策課によって殺害処分された。

Re: 霊障対策課24時! ( No.8 )
日時: 2020/04/20 16:46
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


調査四日目。藤原宋一郎は刑事課との交渉で死刑囚の尋問の許可を取った。尋問をするのは

愛瑠だ。

「私は外で聞いていますので」

「分かった。頑張ります!」

愛瑠はグッと拳を握った。深呼吸してから中に入ると白髪で顔の左上半部に大きな傷がある男、

東雲白亜だ。フェンリルの元、リーダーの男からフェンリルについて、若しくは南井や北見に

ついて聞こうと思っている。素直に答えるかどうかは知らないが聞くだけ聞く。

「おや、霊障対策課の課長というのは随分と若いですね」

「初めまして白亜さん。課長の柳水流愛瑠です。これから色々聞かせてもらいますね」

白亜は穏やかな笑みを浮かべたまま動かない。愛瑠は手元のメモに目を向けて一つ目の

質問をする。

1.フェンリルには何か「思想」はあるのか。

「死は救いですよ。大切な人がいない世界にいても苦しいだけ、価値などない。この苦しみを

幸福な人間に味わってもらう。知っていると思いますが我々は多くの苦痛を背負っている。それは

他人の苦痛でしか消せないんですよ」

「そうなの?まぁ半分は否定しないよ。笑わってきた人が笑われるとちょっとざまぁみろって

思っちゃうし。でも限度はあると思うなぁ…」

「ふふ、それは今、幸福だから言えるのですよ。まぁその思想は全体ではない。多くを殺そうと

する南井みたいな人間もいますから」

未だ白亜はうすら笑いを浮かべている。


2.救うために殺しているのか。

「それは違いますよ柳水流さん。私たちの意思で殺している、楽になるために殺しているのです」

「快楽じゃない?」

「そう捉えても構いませんよ。捉え方は人それぞれですから」

白亜は可笑しそうに笑った。


3.死刑によって自分は救われるのか。

「えぇ。手酷い殺され方で構わないのですが日本は随分と軽い…せめて地獄にさえ

行けたらよいのですけどね」

「まぁその辺は何も言わない」

白亜は頬を緩ませた。


結局、イマイチ分からなかった。

Re: 霊障対策課24時! ( No.9 )
日時: 2020/04/20 18:07
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


五日目、調査は大きく動き出した。

霊障対策課とフェンリルの抗争。その時に関与した職員もいる。退職した者も少なからず

存在している。その中には敵に寝返った職員も存在する。こちらも可能な限り、小さな動きで

探っているが漏れている可能性も考えられる。一人の職員から霊的痕跡等が全くないと

報告を受けた。

「櫻井椿の義兄は15歳で消息不明になっています。彼女の母親と母親が結婚した二人の夫も

消息不明…」

憶人が呟くように言った。

昨日の最後、白亜は愛瑠を呼び止め囁いた。

「南井は止まりませんよ。だから…職員諸共大いに苦しみ絶望してくださいね、そして

恨んでください。それと南井が従わせている式神、あれはありとあらゆるものを削る…

ふふふ、楽しみにしていますね?貴方の絶望しきった顔を」

「舐めて貰っては困るよ。頼りになる仲間がいるからね。それとその言葉、そのまま返す!」


抗争時の被害者リストを見つけた。その中にある名前を見つけた。同じ苗字の男が職員として

今ここにいる。

「信慈君、少し良いかな?」

信慈を呼び止めた。名簿を見せると彼は顔をしかめる。

「自分の妹です。やっぱり柳水流さんには隠し事が出来ませんね…」

信慈の妹が抗争時に被害に遭い死亡してしまっていた。フェンリルとの抗争には色々と

彼は関わりが強いようだ。突然、愛瑠の携帯の着信音がして二人の視線は愛瑠の鞄に移った。

携帯を手に取り応答すると愛瑠は鞄を手に持って慌てた様子で近くの病院に向かった。

病院には既に数人の霊障対策課の職員がいた。

「みんな!」

「愛瑠さん!こっちです」

慧は愛瑠を呼んだ。部屋の白いベッドでは藤原宋一郎が眠っていた。いや、昏睡状態に近い。

「式場調査中に倒れたらしくて…」

「むぅ…これは、辛いわ。刺された様子は無い。それで確か飲み食いもしてないんだっけ?

ということは首謀者側にやられたって事か…」

愛瑠は目線を下げた。

「とりあえず病院を出よう。こっちは病院側に任せて私たちは今回の仕事を終わらせる。ね?」

職員たちは病院を出て行った。


<五日目・午前に分かったこと>
・フェンリルとの抗争で退職した中には敵側に寝返った者もいる
→今の職員の中にも抗争に関わった人間がいる(古井戸信慈等…)

・藤原宋一郎の昏睡状態
→首謀者側はこちらの動きに気付いている

Re: 霊障対策課24時! ( No.10 )
日時: 2020/04/20 18:23
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


五日目の午後。霊障対策課にやってきた若い男は知念美弦と名乗った。そして屍鬼一族でも

あると言った。

「ほぉ、アンタが課長?珍しいねぇ若い女が課長とは…」

「あはは…では本題に入りますね。まず屍鬼一族についてお願いします。こちらには資料が無くて」

「あぁ、屍鬼一族は人肉を喰らう人間の一族。呪いみたいなもんだ。それと支配しようと

思って俺たちが噛み付いたらソイツは俺たちの思う通りだ。その能力は一族の人間の血が

混じってれば遺伝する。血液を与えれば感染時間も長引く。まぁここには霊力が強い奴が

わんさかいるから後者の効果は薄いだろうよ。で、他には?」

美弦は愛瑠の顔を見つめる。


2.北見について

「…久しぶりに聞いたな、その名前。なんか面倒くさい一家だった。奴らは昔から呪いを

他の人間に移すことが出来ないかと研究してたねぇ…ま、詳しいことは分からねえから勘弁してな」

男は愛嬌ある笑顔を見せた。


3.対峙した際に注意する点

「噛まれて感染したってんならここの奴らで解呪できる。問題は術で呪いを移された場合。

手遅れだからな、殺しちまえ。奴らは呪いを他人に移すことに特化している。血を流させるのは

禁手って奴さね。そういう類に弱い奴は触っただけで発狂するだろうし…」


「ありがとうございました。美弦さん」

美弦は立ち上がった。

「気にする必要はないさ。俺の代で本筋は最後さ。俺は死ぬまで迷惑をかけないように

森の奥でゆっくり生活させてもらう」




別の場所で宋一郎が残した占い結果のメモ。それは愛瑠の手元に入った。

櫻井椿→「屍鬼」

Re: 霊障対策課24時! ( No.11 )
日時: 2020/04/20 19:12
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


招待客として潜入

・柳水流愛瑠(偽名:伊黒愛良)
青色の正装を着用して潜入。周りの潜入職員たちに目を配りながら警備をします。

・雛芥子累槻(偽名:咲丘累都)
正装を着て潜入。偽名は愛瑠が考えた。

・鹿平グエン
偽名は使わない。櫻井椿とは前に衣装デザイナーとしての仲があり正式に招待されている。


給仕として潜入

・灰崎憶人

・月足慧


警備員として潜入

・圓勺時哉

・古井戸信哉


古守恭一、目黒ヒヨは今回の事件では調査パートのみ。

Re: 霊障対策課24時! ( No.12 )
日時: 2020/04/20 19:43
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


結婚式当日。

愛良(愛瑠)の肩を軽く叩く女性がいた。それは友人、霧矢ユキだった。愛瑠と呼ぼうとした

ユキの口を塞ぎ小声で言う。

「今は仕事中なの。愛良って名乗ってるから…ごめん!」

「うちこそゴメン。愛良、お仕事頑張れ!」

愛良は頷いた。新郎新婦の誓いも終わりアフターパーティが始まった。現在午後六時。

後3時間ほどで終わるが無事に終わる気配は無い。累都(累槻)はチラッと愛良のほうを見て

また目を逸らした。グエンもまた辺りを横目に見ていた。


給仕側もまた同じ。

「流石は大女優、いろんな人がいるね」

憶人は隣に立つ慧に声かけた。

「そうですね。少しキッカケを与えれば混乱させるのは簡単…か」

グラスにシャンパンを注いでいく。華やかなパーティはそのうち地獄へ変わる。


同時刻、警備側。

騒がしい声が外まで聞こえていた。

「今のところは問題なさそうだな」

「そうですね。一応、恭一さんから貰った火気厳禁テープ、立ち入り禁止テープを避難経路に

貼ってあるので大丈夫だと思います」

時哉の言葉に信慈は返した。張り詰めた空気を突き破るように鋭い悲鳴が聞こえた。

Re: 霊障対策課24時! ( No.13 )
日時: 2020/04/20 19:57
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


「ひ、人が…人が人を、喰ってる!!」

慌てた口調で半べそをかきながら一人の男が叫んだ。新郎新婦は?愛良は辺りに目を向けるも

姿が無い。しまった!同時に一般警官が撃たれた。窓ガラスを突き破り複数の集団が

入ってきた。

「よぉ、犬ども!あのメガネは元気かな!?調べはついてたんだろ、こうなることも予測済み!

そうだろ?じゃあ問題ねェ…オカルト警官共、ここで死んじまえよ!!!今日は良い日だぜ!!!」

あの男が南井。確かに骨の蛇のようなものが彼を守るようにとぐろを巻いている。

「お前らは私から家族を奪った…だからお前らからも奪ってやる!何も救えず苦痛に

埋もれて死ね!!!」

そして幼げな少女が北見、能力なのか鬼のような角が生えている。ユキは愛良の腕をギュッと

握る。あっという間に地獄が出来た。テロリストの誰かが使役しているであろう火蜥蜴の

火が引火し始める。人を襲い始めた人だった客たち。銃を乱射する南井や北見、そして

他のテロリストたち。愛良は近くのマイク越しに叫んだ。

「皆さん!今、落ち着けと言っても落ち着けないのは分かっております!場内の避難経路を

使って外へ避難をしてください!今、その近くでは多くの警備員が控えています!彼らの指示に

従って非難してください!!!」

「愛良ちゃん…!」

ユキは心配そうに愛良を見つめる。

「わ、私も何か手伝いたいよ!何か手伝わせて!」

『貴方たち、聞こえるかしら!?全員の衣服に耐熱、耐火を付与したわ!大量の水を被らないように!』

グエンの声だ。

『オイ、全員聴こえるか!?小さい蜥蜴みたいなのコップの水で消滅する!既に客がひっくり

返した水で結構な量、潰せてるぞ!』

累都の声だ。

「ユキちゃん危ないから避難して。もし近くに水があって蜥蜴みたいなのを見つけらそれに

水をかけて。火を広げてるのはその蜥蜴だから」

「ッ!うん!!」

Re: 霊障対策課24時! ( No.14 )
日時: 2020/04/20 20:33
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


一般の警備員たちも避難誘導に専念する。退路を塞ごうとするテロリストたちを牽制しながら。

憶人は首謀者のリーダー南井に目を向ける。幾人か銃で彼を遠距離攻撃していたが銃で

撃たれた傷は無さそうだ。

「(となると…)」

憶人の連絡は瞬く間に広がる。

「あ、いたいた。柳水流さん、生き残ってますかぁ?」

偽名で呼び合う必要は無いし全員が互いを本名で呼び連携を取る。声を掛けてきたのは

鶴宮夏彦だ。給仕として潜入していた。特殊な紙に霊力による火を付与し、それを操る。

折り鶴にすれば伝書鳩にすることができたり、紙吹雪で目くらましなどが出来る。

「うん、無事だよ。私の方はどうにかするから夏彦君は自分の方を頑張れ!」

「そうは言ってられないでしょう。こっちも別の人に言われてるんですよ。聞いてなかったでしょ?

ある程度避難は完了してる。課長でしょう?グループを崩すならリーダーを潰すのが一番

早い」

そういうことか。元霊障対策課職員がいるなら愛瑠の情報が流れていても可笑しくない。

霊能力を持たないとなれば簡単に倒せるし人質にも出来ると考えるのは自然だ。

Re: 霊障対策課24時! ( No.15 )
日時: 2020/04/20 22:05
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


時哉と慧は合流し操られた人々を気絶させることに専念していた。

「何か可笑しくないか?力が弱まり出したっていうか…」

「あ、時哉さんも感じます?多分、ホール内にいる北見って子に何かあったんでしょう」

慧は答える。彼の言った通り、ホール内で戦う職員の数名は未成年の少女、北見と対峙していた。

『南井はこういった荒事に慣れているけど彼女は慣れていないはずさ。よく見てごらん、

屍鬼の力を纏っているけど取り巻きが戦っているだろう?恐らく殺しには慣れていないんだ』

憶人の落ち着いた声が応戦する職員の耳に入ってくる。愛瑠は辺りを見て口を開いた。

『累槻君、南井は多分霊能力を持ってません。銃を封じれば彼自身の戦闘力は下がると

思います。憶人さん、確か解呪用の札を何枚か持っていましたよね?それを蛇みたいな姿を

した南井の妻、伊織に貼り付けてください。敵意を出さないように』

「了解、やれるだけやってやる」

累槻は答える。憶人も「分かった」と一言返した。多くの挑発に乗ってしまった北見は自身の

体をナイフで傷つけた。滴り落ちる血は霧のようになって見えなくなった。

「良いんですよ…私は化け物らしく死ぬ!こちら側で良い!!!」

「可笑しいよ、それは。学校、サボってるでしょ?だって考えれば分かるもの!奪われたから

奪うって言う考えやその行動は全部私たちと同じだし」

微かに北見が揺らいだ。

「だってそうでしょ!?こっちだって大切な家族を奪われたから怖い奴らから奪ってんの!!

そっちばっかり被害者面しないで!!知ったかぶりの癖に!!!何も知らない癖に!!!誇大妄想

してんじゃねえよ、この野郎!!!!」

愛瑠が叫んだ。その気迫に北見が気圧され始めた。愛瑠は横目に夏彦を見た。


「オイオイ、本気ですか?柳水流さん」

懐に隠していた立ち入り禁止と使用禁止の虎テープが握られていた。


愛瑠は地面を蹴り、一直線に走り抜ける。

「は、ハハハッ!頭が可笑しくなったの!?どうぞ襲ってくださいって言ってるようなものでしょ!」

北見は能力で従えた人造屍鬼たちに目を向ける。彼らは透明な壁に阻まれたように何かを

叩いたりしている。よく見ると下には立ち入り禁止のテープが貼られていた。

「いつの間に!?」

「気付きませんでした?無理もないか。…そうだ、こういうの知っとくと便利ですよ?

普段優しい人ほど怒ると怖いってね」

夏彦は不敵な笑みを浮かべた。

Re: 霊障対策課24時! ( No.16 )
日時: 2020/04/20 22:20
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


彼女は動揺して頭が混乱、どうすればいいか分からず大振りな攻撃を仕掛ける。両腕を高く

上げたのだ。戦闘力皆無の愛瑠でも拘束が簡単。腰回りに二種類のテープが巻かれた。ぐるぐると

走り回る、回った回数が多くなる。北見の体はテープでぎちぎちに拘束される。

使用禁止テープ、巻かれた相手は霊能力の力が弱まる。完全に消すことは出来ないが今は

弱められるだけでも有難い。愛瑠はマイクを握り叫んだ。

「みんな、負けんな!!怪物になった自分がめっちゃ恥ずかしいぞ!!!喰いたいよりも穴が

あったら入りたいでしょ!!?そんな姿でウロウロしてたら社会的にピンチだよ!!!」

辺りから声が聞こえた。

「ひ、何だよ!お前、その顔!!」「貴方だって!汚いわね!!」「うえっ、汚ネェ!!涎まみれじゃん」
「アンタだってそうじゃない!!こんな人と出歩くなんて!!」

北見の命令<<<<<<<<<自分の恥ずかしい今の姿

恥ずかしさなどの方が彼女の呪いよりも強くなっている。

夏彦と愛瑠はハイタッチを躱す。愛瑠の耳に時哉の声が聞こえた。

「うわっ、なんか声がさ…何かあった?こっちは北見って子を抑えたけど」

『俺が噛まれたんです。あーいや、心配するほどじゃないんですけど手が空いてたら頼みます

地下駐車場に!新郎を装っていた櫻井椿のボディガード榊原徹次の様子が…!』

途中で連絡が途切れた。

「柳水流さん、あっちは大丈夫でしょう。俺たちは地下に」

「そうだね。急ごう」

二人は駆け足で地下駐車場へ向かう。



※北見サナ確保により人造屍鬼はほとんど機能停止、彼女も能力を使えません。
新郎→ボディガード榊原徹次

Re: 霊障対策課24時! ( No.17 )
日時: 2020/04/20 22:37
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


南井の銃から出てくる蜘蛛。それは雛芥子累槻が使役する蜘蛛。

「残念、銃はもう封印されちまったなぁ」

「クソッ!!…ッ?」

何かが崩れる音、同時に蛇が地面に落ちて中から小さな女の子と小柄な女性が現れた。

その二人は紛れもない南井の妻と娘。伊織と佳織だ。彼の願いは二人を開放すること。

化け物の依り代にさせられた二人を開放すること。それを達成した今、彼は戦う意味を

無くした。彼の手首に手錠が掛けられた。


一方、地下駐車場では榊原徹次と櫻井椿の周りにドーム状の結界が貼られている。基礎体力が

少ない愛瑠は息切れをしている。

「大丈夫ですか?愛瑠さん」

「大丈夫だよ。最後まで頑張らなきゃ」

そう呟いた直後だった。起き上がった椿は近くにいた鐡治に噛み付いた。情の籠った目で

鐡次は椿を見ると彼女をそっと撫でた。

「あー…よかった。えりな…」

屍鬼。それが櫻井椿の正体。彼女はその場から離れない。動かない。職員に敵意も向けない。

Re: 霊障対策課24時! ( No.18 )
日時: 2020/04/21 10:15
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)

屍鬼として目覚めた櫻井椿は脱力し彼女の腕から榊原徹次が転がる。瀕死状態の彼は救急搬送され

椿については気絶させてから霊障対策課へ移動させられる。榊原徹次も手当てがある程度完了次第、

重要参考人として移動させられることとなった。

一方、南井と北見は職員に拘束。南井は恐らく極刑に、北見は霊能力者専用の更生施設に

送られることが決まった。東雲白亜は牢屋内で自殺を遂げている。


約一週間後。

「おや?珍しいね愛瑠ちゃんが居眠りとは…」

憶人は机に伏せて寝息を立てている愛瑠を見た。

「あー課長は徹夜が多かったであります。暫くはゆっくりさせてあげたほうが良いと思います」

信慈は椅子に掛けられた上着をそっと彼女に被せる。

「そうだね…過労で倒れて貰っては困るし必要になったら起こそうか」


先日。更生施設に愛瑠は顔を出した。一人、黄昏ている北見サナに声を掛けた。力が無い。

彼女はずっと俯いていた。

「私の事なんてほっとけばいいのに…化け物に構う必要はないでしょう?」

「あるよ、私には。北見サナちゃん、フェンリルに所属してから学校も行ってないって聞いたから

…そのワーク、分からないところは教えてあげる。といっても毎日来るわけじゃないけどね。

霊障対策課の職員は皆、普通の人には見えないものが視える。それは私も同じ、化け物だなんて

言わないでね。今はゆっくりその力と向き合うこと、そしていつか殻を破るんだ」

愛瑠はそう言った。サナの眼から雫が零れた。

霊能力は人を苦しませることがある。自分にしか見えない、出来ないことは時に周りから

忌み嫌われる大きな原因になる。


数日後、藤原宋一郎も無事退院し事件は完ぺきに解決した。

Re: 霊障対策課24時! ( No.19 )
日時: 2020/04/21 13:31
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


重低音を鳴らして大きな船が港を出ていく。船、クリスタルキング号と言う名前の船に

霊障対策課職員は乗り込んだ。

「あ、あの貴方たちが霊障対策課の方たちですか?私、クリスタルキング号操舵部門の

設楽紅緒と申します。先日話した通り、最近この船で幽霊が多くみられまして乗組員や

乗客の中にも目撃した人がいます」

「むぅ、いるわけないと思っていてもオカルトな話はみんな飛びつくし…それ目当てに

乗り込む人もいるんですかね?」

愛瑠の問いかけに設楽が頷いた。

「その通りなんです。安全面にも支障をきたすと考えられるので早急に解決して

頂けたらと思います。あ、そうだ。その時に一般客が大勢いますので荒いやり方は

控えていただくと有難いです。恨まれるのも嫌ですし、客にも何かあると困るので…

私は持ち場があるので離れられませんが休憩中なら答えることが出来ます。案内は

ボーイが行いますので。では私は失礼いたします」

設楽紅緒は持ち場へ向かった。出航十分前、ボーイの不破海人がやってきた。

「一般客が入れない場所も特別通すことが出来ます。僕も一度だけ見たんですけど確か

デッキだったと思います。船内は自由に出歩いて構いませんので」

では失礼します。そう言って彼もまた何処かに行ってしまった。

「随分とデカイねぇ…」

天草姫香が呟いた。

「ダディ、シャキッとしてよ」

「うるせぇ〜…なんだか暑いんだよぉ」

ダディ、ペンギンの姿をした姫香の式神的存在だ。

「ここからはそれぞれで探索かな。スマホがあるしグループLINEで情報共有かな」

愛瑠の言葉に頷き船内にばらつき始めた。ここからはそれぞれの視点で情報を集めていく。

Re: 霊障対策課24時! ( No.20 )
日時: 2020/04/21 13:46
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


ロビー。そこにはテーブルとイス、パソコンも揃っていた。窓側の席で一人の女性が

何かを調べながら「うわぁ」とか「マジか」とか呟いている。ロビーに足を踏み入れていた

月足慧は彼女に近づいて何を調べているのか聞いてみることにした。

「何を調べてるんですか?」

「ほわぁ!!驚かせないでよ…」

「あはは、すみません」

女性は驚いたような顔をしていた。彼女の言葉に対して驚かせるようなことをしてしまったのは

事実なので謝った。

「この船に出てくる幽霊の話。こういう話って広がるの早いよねぇ。雑誌とかでも

取り上げられてるし」

「雑誌にも、ですか?貴方はもしかしてこの話を聞いてここに?」

慧が聞くと彼女は首を横に振る。どうやら噂を聞いて船に乗ったわけじゃないらしい。

「私は鳴六島出身で生まれ故郷に帰るだけ。そういうお兄さんは?」

「えっと僕はその島に観光へ」

上手くごまかし怪しまれないようにした。彼女は暫く黙っていたがやがて口を開く。

「お兄さん名前は?私は志賀実咲よ」

「僕は月足慧です」

「そう。私が島について色々教えてあげるわ」

実咲は胸を張った。

「本当ですか!?ありがとうございます」

「しっかり聞きなさいよ?鳴六島はね、ある伝説が残ってるのよ」

「伝説ですか?」

「そう。鬼が祀られている場所があって観光名所にもなってるのよ。鬼灯の祠って言われる場所で

神社みたいなパワースポットとして有名なの」

「そうなんですか?鬼を守り神として扱っていると…?」

「確かね」


<慧から情報が入りました>
「鳴六島について」
・鬼が祀られている『場所』→鬼灯の祠
・祠は神社のような扱いを受けているようだ
→鬼を守り神としている?

Re: 霊障対策課24時! ( No.21 )
日時: 2020/04/21 14:13
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


オープンデッキ、後方側。天翔糸音は都会人を見つけ声を掛けた。

「あたし?あたしは鳴六島が故郷だから」

「そうなんですか。あの…名前を聞いても良いですか?私は天翔糸音です」

「あたしは桃園愛よ。で、何?」

糸音はスマホに目を向けた。この船の行き先は鳴六島だ。その島について聞いておくのも

良いかもしれない。島について彼女に聞いた。

「観光地としては良いんじゃない?天気も良いし…そうだ、あたしが小さいときに一度

言われたことがあるのよ」

「言われたことですか?」

「そうよ。天気がめっちゃ悪い時にばあちゃんとじいちゃんが耳にタコができるほど言うの。

天候が悪い時に外を出歩いたら鬼に食われちゃうよってね。ま、今考えたらいないっしょって

思ってるわ」

言い伝えだろう。霊や妖怪などは令和や平成より前の時代の方が多いと思われる。高齢者が

それを言っていたということはかなり昔から鬼についての話が出回っていたと考えて

良いだろう。

「あ、そういえばさ。あたし、見たんだよ幽霊。小さいけどなんかあたしの顔を見上げているように

感じたわ」

「見上げる…そうですか。話をありがとうございました」

糸音は早速指を動かし文字を入れていく。因みに彼女は守護天使を憑依させた銃を使い

戦闘を行える。精神的なダメージは与えられない。



<天翔糸音から情報が入りました>
「鳴六島について 2」
・天候が凄く悪いときは鬼に食われてしまうと言われているようだ
→高齢者たちが言っているようで昔から伝わっている

・幽霊について小さい霊も存在するようだ
・顔を見上げられたという人がいる

Re: 霊障対策課24時! ( No.22 )
日時: 2020/04/21 14:32
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


展望デッキ。天草姫香は溜息を何度も吐いている男に声を掛けた。

「アンタ、かれこれ5回も溜息ついてるじゃないか。そんなに溜息を吐いたら幸運が

消えてくよ」

「はぁ…すみません。気を付けますね…」

もう一度男は溜息を吐いた。7回目の溜息だ。

「ねぇアンタは観光で島に向かうのかい?」

「はい。あの島、死者に会えるって噂があるのを知って…もしかしたら妻子に会えると」

「…二人は事故死か?」

男は力なく小さく頷いた。

「あたしは会えるとも限らないと思うけど…そういう話は大抵恐ろしいものがあるのさ」

「そう、何ですか…?」

「あぁ、あたしはアンタみたいに死んだ奴に会いたいと願ってきた奴を見てきたよ。全員、

最悪な形で再会してるのさ。妻子が化け物になって人を襲ってたとか妻子の魂がその場で

消滅させられて自殺したとか…皮肉なことに悪霊になった妻子に殺されたとか、ね。

妻や子を思うならしっかり墓参りをしてやることさ。それさえできれば霊は案外喜んでるだろう」

姫香はそう言って違う場所へ移動した。島に関わる噂、それを目当てに島を訪れる客も

いるのかもしれない。


<天草姫香から情報が入りました>
「鳴六島について 3」
・島に行くと死者に会えるという噂があるようだ

Re: 霊障対策課24時! ( No.23 )
日時: 2020/04/21 15:11
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


オープンデッキ中間地点。愛瑠の近くに小柄な幽霊が現れた。触ろうとするとその霊は

怖がるような素振りを見せる。

「大丈夫、私は怖いことしないよ」

その霊に愛瑠が触れた直後、脳裏に赤い砂嵐がかかる。多くの少女たち、殴られ叩かれ蹴られ

様々な暴力を受け彼女の体は海の底に沈んだ。


「あ、大丈夫ですか!?愛瑠さん」

外を見るともう夜だ。頭は少し痛い。

「大丈夫ですか?愛瑠さん。心配しました、倒れるところが見えて…」

ボーイの不破海人は愛瑠を部屋に連れてきた。

「どうですか?何か収穫は」

「まぁまぁです。それに小さい女の子の霊に触れたときに…暴力を振るわれて海に捨てられる

場面が見えたんだ」

「なッ!アンタ、サイコメトリーなんて」

「持ってないよ」

「あ、そうだ。島ではどうやら古い風習があったみたいでして…その…」

慧が話すことを渋っている。そのうち口を開く

「少女を殺して海に捨てる、鬼への生贄として…乗客で島の出身者がいて聞いたんです。

なのでその少女の霊は生贄として殺され海に捨てられた少女の霊かと…」

「今、岩垣鳳鳴さんが霊視で霊力が鳴六島から流れてるって」

天草は携帯を手にそう言った。岩垣風鳴、岩石や鉱物を溶媒に結界を張ることが出来る。

彼は霊視することもできる。少女霊の記憶、島の不思議な言い伝えや噂、昔の風習、そして

不気味な霊力の流れ。船の霊の根本は島にあると予測される。

「あ、そうだ。恭一さんからメールが来ましてどうやら島では行方不明者がいるみたいなんです」

「その人たち噂の鬼に連れ去られた…とかね。あり得そうな話じゃないか」

天草姫香は呟いた。

別の客室では糸音と会話した桃園愛がいた。スマホの画面の送ったメッセージには

黎斗の名前がある。

Re: 霊障対策課24時! ( No.24 )
日時: 2020/04/21 15:32
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


朝、霊が成仏するためにはやはり島が重要という考えを固める。

「あ、そうだ。慧君、これを実咲さんに念のため」

愛瑠が慧に渡したのはミサンガだ。

「これはミサンガですよね?」

「そう。恭一さんが色々調べてさ、霊力を練って作ってくれたの。少量だけど私の霊力も

混じってる」

「分かりました。渡してきますね」

慧が出て行った。


数時間して船は港に。鳴六島に到着した。

「では長旅ご苦労様でした。まだ仕事があるんですよね?頑張ってください」



<船の乗客一覧>
「船員」
・設楽紅緒…霊力がある。能力不明。何かあるかもしれない(推測)
・不破海人…ボーイ。霊力なし。どうやら両親は島で事故死をしているようだ。

「一般客」
・志賀実咲…鳴六島出身。帰郷するために船に乗っていたようだ。何かを感じる。
・桃園愛…実咲同様鳴六島出身。彼女とは他人同士。オカルトは信用しない。
・石動秋吉…島の噂を聞きつけ島に向かう。妻子はその島の森で行方不明になった。

「霊障対策課職員(今出てきている人物)」
・柳水流愛瑠
・月足慧
・天草姫香
・天翔糸音
・岩垣風鳴

Re: 霊障対策課24時! ( No.25 )
日時: 2020/04/21 17:02
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)

船到着直後。魚のようなものが視え、同時に背後から石が飛んできて結界が張られた。

「岩垣さん!?」

「この式神、お前のか?」

ねじり鉢巻きを身に着け木の柄の槍を肩に担いだ青年。彼と同じようにさらしを巻いた

男たちが職員たちを見下ろしていた。

「お前らか?島を嗅ぎまわってる警官ってのは」

「そうです。霊障対策課、島の怪しい事件を調査しに来ました!」

愛瑠が声を出すとリーダーらしき青年は鼻で笑う。

「どうせお前らが行っても変わらねえ。島は俺たち自警団が守る!用はねえぞ」

「こっちはそういう事件のプロだよ。自警団とは違うプロフェッショナルの集団さ!」

また青年は鼻で笑い踵を返した。


彼らが去った後、それぞれが島に散って最終的には怪しい霊気を漂わせる篝火山付近に

集合することとなった。


愛瑠は桃園愛に声を掛けて行方不明者リストにある名前で知っている人はいないか聞いてみた。

「あー石川って子、年下でいたわよ。私は関わって無いけどさ。他にも持塚、佐々木って二人は

弟がよく遊んでたし。あ、その持塚って子を弟がさぁ…」

「弟ですか?」

そう聞くと愛が苦笑を浮かべた。

「自警団の団長、あれアタシの弟なんだよ。マジごめん!弟に色々聞かれてうっかり警察に

言われてって答えちゃったわ…アイツ、頑固だからさ頑張れしか言えないわ。まぁ粘れば

良いんじゃない?信頼できるって分かれば協力してくれるだろうし。よし後でアイツはシメる」

愛はグッと拳を握った。



<柳水流愛瑠から情報が届きました>
・自警団の団長=桃園愛の弟、桃園黎斗

Re: 霊障対策課24時! ( No.26 )
日時: 2020/04/21 17:48
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


滑り込み参戦、天龍誠。彼は天草姫香から話を聞き調査に飛び込んだ。

「あ、ちょっと!何処に行くんだよ!!」

「海です!」

「ったく…海馬鹿め」

走り出した誠の後を姫香は追う。天龍誠は龍の眼というのを持つ。霊力サーモグラフィー、

霊力を持つ物がよく分かる。彼が言うには一番霊力が強い愛瑠を龍の眼で見ると真っ赤に

見えるという。瞳孔は黄色に白目は黒に変わる。欠点としては霊力を持たないものが

ほとんどぼやけるので躓いたりぶつかったりすることか。

もう一つ、こちらの力は愛瑠が命名した龍脈という力だ。龍神の力を纏う。浄化能力もあり、

毒や呪い等を弾くこともできるようだ。二人がやってきたのは島の南側にある海岸。

誠は綺麗な青い海を見て目を輝かせていた。

「ほら、それは後にしておけ。今は情報収集」

「あ、はい」

少ししょんぼりした彼を余所に姫香は辺りを見回した。すると小さな囲いの中に積まれた石を

見つけた。屈み込んでじっと見つめる。

「お姉さんたち、何してるの?」

小さな子供たちが声を掛けてきた。

「島を歩き回ってるんだよ。この石って何だろう?みんなは何か知ってるかな?」

誠が問うと子供たちは口を開いた。

「あ、おじちゃんたちが積んでた奴!なんかね倒れてるとおじちゃんたちが積んでるの」

「そっか…ありがとう」

そう言って二人は一旦、海岸から離れた。


「ねぇアンタ、ちょっと山の方を龍の眼で見てくんない?霊力があるなら結界とかがあるかも

しれないから」

姫香の言葉に誠は頷き龍の眼を使う。確かに妙な霊力が山を覆っているがその中で人型の

真っ赤な霊力が見えた。間違いなく愛瑠だ。

「はぁ!?アイツ…勝手に…」


<天草姫香から情報が入りました>
・事件捜査に天龍誠が参加

Re: 霊障対策課24時! ( No.27 )
日時: 2020/04/21 18:10
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


愛瑠は頂上にたどり着くと大きく深呼吸した。そこに仁王立ちしていたのは自警団の団長、

桃園愛の弟である桃園黎斗だ。

「なんだ?ここに来るだけで息切れか?」

「そこは言わないでよ…桃園黎斗君」

そう言うと彼は少し反応を見せた。

「ここまで来る間に幾つかの霊たちがこの島から発生していることが分かった。この島では昔、

少女の死体を海に投げ捨て贄にするって風習があったらしい。船で見た小さな女の子の霊は

その時に殺された子たちだ。更に島には鬼を祀る祠があるとも聞いてる。鬼灯の祠、鬼を

守り神として祀っているらしい。でも鬼を守り神にするのは少し可笑しいかな?一般的に

考えればね」

もう一度息を吸った。そして話し出す。

「今では可笑しくないかもね。守り神ではなく鬼からの被害を縮小するためにっていう

理由なら…それにここで行方不明になった家族によれば多くの人間が海か森で行方不明に

なっている。この場所が怪しい、祠があることも関係していて…」

「数少ない情報でよくできた推理だな」

黎斗は笑みを浮かべた。

「私は霊障対策課の課長、柳水流愛瑠。霊能力は無いけどね…私たちの課はこういう事件の

プロだって言ったでしょ。だけど私たちはここの土地には疎いから力を貸してほしい」

愛瑠は頭を深々と下げた。聴こえたのは溜息だ。

「仕方ねえ力、貸してやる。随分とスゲェ奴だって分かったからな」

愛瑠は顔を上げガッツポーズをした。



<柳水流愛瑠から情報が入りました>
・愛瑠の交渉により自警団の協力を得ることに成功
・森の中に入ることが可能になった

Re: 霊障対策課24時! ( No.28 )
日時: 2020/04/21 19:02
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


会話終了直後、電話が鳴る。

「あ、もしもし。糸音ちゃん?…」

頷いたりする愛瑠が動揺を見せた。

「オイ、どうした?」

「操舵の設楽紅緒、ボーイの不破海人が消えたって…ただでさえ石動秋吉も行方不明なのに…

というかもとより設楽紅緒には少し引っかかってたんだ。不破海人も両親が不自然な事故死を

していたっていうから」

愛瑠はウエストポーチから小さく折りたたんだ地図を取り出しペンで鬼灯の祠を丸付ける。

愛瑠のスマホには新たなLINEのメッセージが入ってきた。

「ピッタリ!近くにも祠があったんだね。糸音ちゃんと風鳴さんが見つけてくれたみたい。

二人も姫香さんたちと合流、このままここに来るみたい。全員揃ってから森の中に

入ってみるよ」

「そうかよ勝手にしろ」

無愛想な言い方をする。


数十分後、全員が集合し黎斗の式神が彼らについていく。入って数分のことだった。

「うわっ!大丈夫かい!?凄い汗だ」

姫香は転んだ愛瑠に声を掛けた。愛瑠は入る直前に黎斗とLINE交換をした。彼からメッセージが

届いた。この森は特に霊力が高い人物に大きく反応を見せるようだ。

「そういうことか…私たちよりも数倍高い霊力を持つ愛瑠さんに森の方は大きく反応している。

要は私達からしたら愛瑠さんは身代わり人形同然っていうことですか」

「そうみたい…そりゃあ体力は無いんだけど流石にこれだけではヘトヘトにならないんだけど…」

「ここに放っておくのも物騒だしねぇ…例の祠には行っておきたいんだが」

「なら俺が背負っていきますよ。言い方は悪いんですけど僕たちの分を愛瑠さんが

受け持っているわけですし…」

慧は愛瑠を背負った。恥ずかしさより今は祠を見に行くことが先だ。

Re: 霊障対策課24時! ( No.29 )
日時: 2020/04/21 19:34
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


祠の前にたどり着いた。

「そしてこれは…?」

祠の中に白い石があった。龍の眼を開いた誠は白い石を見た。元に戻す。

「霊力を帯びていますね」

「でも…呪いとかの類は無いみたいだね…」

慧の背中から愛瑠は降りて覚束ない足取りで近くの木にリボンを巻いた。

「この辺りは多分、地形が変わるんじゃなくて認識を狂わせてるんだ。一応、目印を

所々に付けておこう。次に黎斗君に印を付けて貰った祠に向かおう。ここから一直線上に

あるはずだよ」

一同は彼女に言われた通りに歩いていく。

その祠にもやはり白い石が置かれていた。さっきの石とは違う模様が刻まれている。

何かの術だろうか?

「東西にそれなりに発展した村があったはずだよね?誰か聞き込みした人はいる?」

「あ、僕は東にある村を…色々伝説があるみたいで。鬼の声は船を沈めたと」

「え?私たちは西に行ったけど鬼の声は海の鬼を沈めたって…」

かみ合わない二つの話。

「こればっかりは…黎斗君に聞くしかないね」


森を無事に出て黎斗に聞いた。

「西の話が正しい。東にいる奴らはでたらめと真実がごっちゃなんだよ。ってかお前、汗で

びちょびちょじゃねえか」

「めっちゃ袋叩きにされたからね」

「そうか、霊力があるってのも大変なことだな」

「まぁそれは置いといて何処かに資料館とかは無いの?」

そう聞くと黎斗は暫く考える。

「西の方に小さいけどあったはずだ。古いところだから収穫があるかもしれねえ。丁度いい

しっかり休んでおけよ」

「ありがとう。心配してくれるんだね」

そう言うと黎斗は照れた。

Re: 霊障対策課24時! ( No.30 )
日時: 2020/04/21 20:02
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


資料館に閉じこもる愛瑠と変わって姫香、誠、糸音、風鳴は別の場所にいた。

「本当か!?誠!」

「えぇ、その本人かどうかはイマイチですけど微かに愛瑠さんの霊力が染みついた二人が

それぞれ見られます」

「そういえば設楽紅緒は愛瑠さんに飲み物を渡す際に接触、石動秋吉は途中で愛瑠さんと

ぶつかってたような…」

「じゃあそれを追いかけるとするか」

四人は黎斗の式と共に森に入る。


資料館にいる愛瑠に大きな異変が起こった。近くで見ていた慧は彼女に寄り添う。頭を抱えて

何かを呟く。

「設楽紅緒が鬼、紅緒は刺される…ぅあ!鬼は…海魔は!!!」

彼女は大きく深呼吸する。

「…!大丈夫ですか?一体何が…」

「慧君…今すぐ!島にいる職員と黎斗君に報告しないと!!!急いで!!!」



前の代からいる風鳴は何となく察していた。強い何かを感じた時だけ愛瑠は父親と同じ力を

発揮する。

「そんなの…アリかよ」

「本当の事だ。この連絡と二人を見れば分かる。今回は本当に力が強かった。使わない力を

無理に使ったのだろうな。が、その力は彼女には合わない。柳水流頼助の状況把握予知は…」

勿論、愛瑠は能力を持たない。じゃあ何故?



—愛瑠。

「ッ!!?(お父さん?」

—力を持たなくていい。いるじゃないか、周りに強い奴らが…後はしっかり解決へ導け。




<全員共通情報>
・設楽紅緒→鬼
・不破海人は重傷

Re: 霊障対策課24時! ( No.31 )
日時: 2020/04/21 21:04
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


「どういうことだ。何のつもりだ!」

姫香が叫んだ。

「困ります強すぎて…私は島を守りたいだけなの!」

「…彼を離してください」

糸音は囁くように願う。それでも彼を離さない。緊迫する現場。そこに声が聞こえた。

「全部完全な鬼になるため…母親は完ぺきな鬼だった、貴方は鬼と人間の間に生まれた。

結界で覆われた森は今回のために用意していた」

大きな地鳴りに全員が驚くも愛瑠は一人、その怪物を見上げていた。この異形こそ海魔、

今の海魔はほとんど力を持たない。天候が荒れてきた。

「愛瑠さん!!」

愛瑠は大きく頷いた。上を通り過ぎ黎斗は槍先を異形に突き刺す。

「ハッ!どうだ!?味は!俺たちの特製霊槍の味はァァァァ!!!!!」

怪物の体が消えた。天候は突然よくなり明るくなった。そこにいたのは一匹の龍だった。

「…あれは…海魔の、正体!?」

『哀れな子よ。鬼として使命感に憑りつかれた苦しみに沈んだ子よ…今、ここを守る者は

変わる』

神々しい光を放つ龍は話し続ける。

『そして力を持つ子。優れたものを持ちながら役に立てず悔やむ娘よ…お前の心が、言葉が、

行動が全員の心に少なからず影響を与えた。哀れな子よ、もう休むのです。すべては終わり

自由が始まる時なのだから』

人魚のような姿から一変、紅緒は小柄な女性姿に戻り気を失った。その龍は船にいたときから

ずっと全員を監視していた。その龍もまた鬼を解放しようとあの手この手と考えていた。今、

職員たちが解決へ導こうと奔走したことで島に眠る伝説は完結した。



桃園愛は扉を叩く。

「今日、一緒に出てくんだから早く準備してよ」

部屋の中にはふと転寝から目を覚ました黎斗がいた。

それぞれが島民に別れを告げて島を出る。そして帰って来たと同時に桃園愛の弟、解散した

自警団の団長、桃園黎斗は霊障対策課にやってきた。愛の家はここから近いようだ。



<桃園黎斗>
魚のような水属性の式神を操る。水属性の霊力を纏わせることで霊的存在への攻撃、浄化が
可能。

Re: 霊障対策課24時! ( No.32 )
日時: 2020/04/21 22:05
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


大きな音がした。何事かと鍛錬室を通りがかった愛瑠は覗き窓から中を見た。

そういうことか。

「あ、あの大丈夫ですか?投げておいて難ですけど…」

慧との鍛錬で黎斗は慧に投げ飛ばされていた。上には上がいる、これから色々荒事も

多くなるだろうと思ったため愛瑠は鍛錬室に行くと良い、そう提案した。

二人を見守っていた時哉がこちらを二度見した。

「何こっそり見てるんですか」

「え、何かゴメン」

「なぁっ!?お前、まさか…見てたんじゃねえだろうな!?」

顔を真っ赤にした黎斗が聞いてきた。不味い、ごまかせないぞこれは。

「ほら黎斗君、鍛錬するんでしょう?愛瑠さんはしっかり休んでくださいよ?前の霊障の

疲れの凝っているんでしょう?」

「じゃあお言葉に甘えて…黎斗君、頑張ってね!」

そう言ってから愛瑠はその場を去る。


「あ、いたいた。愛瑠さん」

「お、夏彦君!って何それ!?」

夏彦の手に紙袋がある。何かが沢山詰め込まれ今にも落ちそうだ。隣を歩いている水を操る

女性、水無月佳音も紙袋を持っている。

「よかったぁ愛瑠さん、最近倒れてばっかりだって言ってたけど元気そうでよかったぁ。あ、

このお菓子とジュース、どうぞ!」

「いや、量よ。差し入れレベルの量じゃないでしょうに」

「じゃあ皆で食べましょ」

夏彦と佳音が買ってきたジュースとお菓子で霊障対策課はお疲れ会なるものを開いた。

この会によって黎斗が一気に周りと馴染んだ。

Re: 霊障対策課24時! ( No.33 )
日時: 2020/04/21 22:33
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


やっと疲れが抜け始めた頃、別の場所。古くなった洋館に一般人の盗人は金目のものを盗みに来た。

男は足がもつれ躓いた。音を立てて近くの壺が落ちて割れてしまった。それが霊障を引き起こすとも

知らずに…。シャンデリアは明かりをともし人形たちは動き出す。盗人はひたすら逃げて結果、

警察に逮捕された。そう、その洋館には霊がいた。彼らは人知れず夜になるとダンスパーティーを

開くのだった。たまたま近くを通りがかった視える一般人は霊障対策課にすぐ連絡した。



数日後、ドレスをレンタルした職員たちはそのドレスと仮面を身に着け洋館にやってきた。

幾つかに別れて車で向かう。欠伸をした愛瑠はそのうち眠ってしまった。

「…ん…さん…愛瑠さん」

「ッ!!?」

声を掛けてきたのは天龍誠だった。角が付いたような仮面をつけた彼は愛瑠の名前を呼んだのだ。

愛瑠もまた仮面をつけて車を降りる。屋敷内では既に多くの霊たちがダンスや食事を楽しんでいる。

「ようこそ我らの館へ霊視できる方々?私はダイヤ伯爵、こちらは私の親友、エレン。

存分に楽しんでくれたまえ!」

そう言って二人組は何処かに消えた。

「俺、色々見まわってみるわ。あの二人の関係とか…ここはデカイし書斎とかがあれば

何かヒントを見つけられるかもしれないし」

累槻は騎兵隊服のような正装に身を包んでいる。彼は一人、別の場所へ移動した。

「行っちゃいましたね…」

「そうだね。にしてもドレスを着る日がこんなすぐとは…」

「俺も思いましたよ」

誠と愛瑠はそう言葉を交わした。

Re: 霊障対策課24時! ( No.34 )
日時: 2020/04/22 11:41
名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)


「そこで何をしているのかな?」

部屋を探っていた累槻は手を止めた。

「アンタの手記とかが見つかればって思ってたんだよ。警察だからな」

「私の事を探っていたのか。確かに未練はあったが今は無いさ。夜が明ければここを出るよ」

ダイヤ伯爵とエレン。ダイヤ伯爵は真実を話す。

「私の婚約者エレン。あの時、ここを使ってパーティーを行うつもりだった。それはもう

華やかで私たちの結婚式にはぴったりだっただろう」

ダイヤ伯爵はエレンを抱いた。

「だけどね、それを良く思わない者がいたのだよ」

「エレンを好きな奴、とか?」

「その通り。パーティー会場は炎上、二人の新郎新婦は火の中に消えたのだよ。だからこれは

生前に果たせなかったパーティーの続きさ」

ダイヤ伯爵はただ単にやれなかったことをやろうとしていた。風の噂で霊障対策課があることを

知り、霊障を起こせば必ず来ると踏んでいた。

「さぁ、そろそろこのパーティーをお開きとしよう!」

薄日が差してきた。短い夜の仮面舞踏会は終わった。舞踏会を楽しんだ霊たちが次々と

成仏していく。最後にはダイヤ伯爵とエレンも消えて行った。