ダーク・ファンタジー小説
- Re: 霊障対策課24時! ( No.25 )
- 日時: 2020/04/21 17:02
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
船到着直後。魚のようなものが視え、同時に背後から石が飛んできて結界が張られた。
「岩垣さん!?」
「この式神、お前のか?」
ねじり鉢巻きを身に着け木の柄の槍を肩に担いだ青年。彼と同じようにさらしを巻いた
男たちが職員たちを見下ろしていた。
「お前らか?島を嗅ぎまわってる警官ってのは」
「そうです。霊障対策課、島の怪しい事件を調査しに来ました!」
愛瑠が声を出すとリーダーらしき青年は鼻で笑う。
「どうせお前らが行っても変わらねえ。島は俺たち自警団が守る!用はねえぞ」
「こっちはそういう事件のプロだよ。自警団とは違うプロフェッショナルの集団さ!」
また青年は鼻で笑い踵を返した。
彼らが去った後、それぞれが島に散って最終的には怪しい霊気を漂わせる篝火山付近に
集合することとなった。
愛瑠は桃園愛に声を掛けて行方不明者リストにある名前で知っている人はいないか聞いてみた。
「あー石川って子、年下でいたわよ。私は関わって無いけどさ。他にも持塚、佐々木って二人は
弟がよく遊んでたし。あ、その持塚って子を弟がさぁ…」
「弟ですか?」
そう聞くと愛が苦笑を浮かべた。
「自警団の団長、あれアタシの弟なんだよ。マジごめん!弟に色々聞かれてうっかり警察に
言われてって答えちゃったわ…アイツ、頑固だからさ頑張れしか言えないわ。まぁ粘れば
良いんじゃない?信頼できるって分かれば協力してくれるだろうし。よし後でアイツはシメる」
愛はグッと拳を握った。
<柳水流愛瑠から情報が届きました>
・自警団の団長=桃園愛の弟、桃園黎斗
- Re: 霊障対策課24時! ( No.26 )
- 日時: 2020/04/21 17:48
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
滑り込み参戦、天龍誠。彼は天草姫香から話を聞き調査に飛び込んだ。
「あ、ちょっと!何処に行くんだよ!!」
「海です!」
「ったく…海馬鹿め」
走り出した誠の後を姫香は追う。天龍誠は龍の眼というのを持つ。霊力サーモグラフィー、
霊力を持つ物がよく分かる。彼が言うには一番霊力が強い愛瑠を龍の眼で見ると真っ赤に
見えるという。瞳孔は黄色に白目は黒に変わる。欠点としては霊力を持たないものが
ほとんどぼやけるので躓いたりぶつかったりすることか。
もう一つ、こちらの力は愛瑠が命名した龍脈という力だ。龍神の力を纏う。浄化能力もあり、
毒や呪い等を弾くこともできるようだ。二人がやってきたのは島の南側にある海岸。
誠は綺麗な青い海を見て目を輝かせていた。
「ほら、それは後にしておけ。今は情報収集」
「あ、はい」
少ししょんぼりした彼を余所に姫香は辺りを見回した。すると小さな囲いの中に積まれた石を
見つけた。屈み込んでじっと見つめる。
「お姉さんたち、何してるの?」
小さな子供たちが声を掛けてきた。
「島を歩き回ってるんだよ。この石って何だろう?みんなは何か知ってるかな?」
誠が問うと子供たちは口を開いた。
「あ、おじちゃんたちが積んでた奴!なんかね倒れてるとおじちゃんたちが積んでるの」
「そっか…ありがとう」
そう言って二人は一旦、海岸から離れた。
「ねぇアンタ、ちょっと山の方を龍の眼で見てくんない?霊力があるなら結界とかがあるかも
しれないから」
姫香の言葉に誠は頷き龍の眼を使う。確かに妙な霊力が山を覆っているがその中で人型の
真っ赤な霊力が見えた。間違いなく愛瑠だ。
「はぁ!?アイツ…勝手に…」
<天草姫香から情報が入りました>
・事件捜査に天龍誠が参加
- Re: 霊障対策課24時! ( No.27 )
- 日時: 2020/04/21 18:10
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
愛瑠は頂上にたどり着くと大きく深呼吸した。そこに仁王立ちしていたのは自警団の団長、
桃園愛の弟である桃園黎斗だ。
「なんだ?ここに来るだけで息切れか?」
「そこは言わないでよ…桃園黎斗君」
そう言うと彼は少し反応を見せた。
「ここまで来る間に幾つかの霊たちがこの島から発生していることが分かった。この島では昔、
少女の死体を海に投げ捨て贄にするって風習があったらしい。船で見た小さな女の子の霊は
その時に殺された子たちだ。更に島には鬼を祀る祠があるとも聞いてる。鬼灯の祠、鬼を
守り神として祀っているらしい。でも鬼を守り神にするのは少し可笑しいかな?一般的に
考えればね」
もう一度息を吸った。そして話し出す。
「今では可笑しくないかもね。守り神ではなく鬼からの被害を縮小するためにっていう
理由なら…それにここで行方不明になった家族によれば多くの人間が海か森で行方不明に
なっている。この場所が怪しい、祠があることも関係していて…」
「数少ない情報でよくできた推理だな」
黎斗は笑みを浮かべた。
「私は霊障対策課の課長、柳水流愛瑠。霊能力は無いけどね…私たちの課はこういう事件の
プロだって言ったでしょ。だけど私たちはここの土地には疎いから力を貸してほしい」
愛瑠は頭を深々と下げた。聴こえたのは溜息だ。
「仕方ねえ力、貸してやる。随分とスゲェ奴だって分かったからな」
愛瑠は顔を上げガッツポーズをした。
<柳水流愛瑠から情報が入りました>
・愛瑠の交渉により自警団の協力を得ることに成功
・森の中に入ることが可能になった
- Re: 霊障対策課24時! ( No.28 )
- 日時: 2020/04/21 19:02
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
会話終了直後、電話が鳴る。
「あ、もしもし。糸音ちゃん?…」
頷いたりする愛瑠が動揺を見せた。
「オイ、どうした?」
「操舵の設楽紅緒、ボーイの不破海人が消えたって…ただでさえ石動秋吉も行方不明なのに…
というかもとより設楽紅緒には少し引っかかってたんだ。不破海人も両親が不自然な事故死を
していたっていうから」
愛瑠はウエストポーチから小さく折りたたんだ地図を取り出しペンで鬼灯の祠を丸付ける。
愛瑠のスマホには新たなLINEのメッセージが入ってきた。
「ピッタリ!近くにも祠があったんだね。糸音ちゃんと風鳴さんが見つけてくれたみたい。
二人も姫香さんたちと合流、このままここに来るみたい。全員揃ってから森の中に
入ってみるよ」
「そうかよ勝手にしろ」
無愛想な言い方をする。
数十分後、全員が集合し黎斗の式神が彼らについていく。入って数分のことだった。
「うわっ!大丈夫かい!?凄い汗だ」
姫香は転んだ愛瑠に声を掛けた。愛瑠は入る直前に黎斗とLINE交換をした。彼からメッセージが
届いた。この森は特に霊力が高い人物に大きく反応を見せるようだ。
「そういうことか…私たちよりも数倍高い霊力を持つ愛瑠さんに森の方は大きく反応している。
要は私達からしたら愛瑠さんは身代わり人形同然っていうことですか」
「そうみたい…そりゃあ体力は無いんだけど流石にこれだけではヘトヘトにならないんだけど…」
「ここに放っておくのも物騒だしねぇ…例の祠には行っておきたいんだが」
「なら俺が背負っていきますよ。言い方は悪いんですけど僕たちの分を愛瑠さんが
受け持っているわけですし…」
慧は愛瑠を背負った。恥ずかしさより今は祠を見に行くことが先だ。
- Re: 霊障対策課24時! ( No.29 )
- 日時: 2020/04/21 19:34
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
祠の前にたどり着いた。
「そしてこれは…?」
祠の中に白い石があった。龍の眼を開いた誠は白い石を見た。元に戻す。
「霊力を帯びていますね」
「でも…呪いとかの類は無いみたいだね…」
慧の背中から愛瑠は降りて覚束ない足取りで近くの木にリボンを巻いた。
「この辺りは多分、地形が変わるんじゃなくて認識を狂わせてるんだ。一応、目印を
所々に付けておこう。次に黎斗君に印を付けて貰った祠に向かおう。ここから一直線上に
あるはずだよ」
一同は彼女に言われた通りに歩いていく。
その祠にもやはり白い石が置かれていた。さっきの石とは違う模様が刻まれている。
何かの術だろうか?
「東西にそれなりに発展した村があったはずだよね?誰か聞き込みした人はいる?」
「あ、僕は東にある村を…色々伝説があるみたいで。鬼の声は船を沈めたと」
「え?私たちは西に行ったけど鬼の声は海の鬼を沈めたって…」
かみ合わない二つの話。
「こればっかりは…黎斗君に聞くしかないね」
森を無事に出て黎斗に聞いた。
「西の話が正しい。東にいる奴らはでたらめと真実がごっちゃなんだよ。ってかお前、汗で
びちょびちょじゃねえか」
「めっちゃ袋叩きにされたからね」
「そうか、霊力があるってのも大変なことだな」
「まぁそれは置いといて何処かに資料館とかは無いの?」
そう聞くと黎斗は暫く考える。
「西の方に小さいけどあったはずだ。古いところだから収穫があるかもしれねえ。丁度いい
しっかり休んでおけよ」
「ありがとう。心配してくれるんだね」
そう言うと黎斗は照れた。
- Re: 霊障対策課24時! ( No.30 )
- 日時: 2020/04/21 20:02
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
資料館に閉じこもる愛瑠と変わって姫香、誠、糸音、風鳴は別の場所にいた。
「本当か!?誠!」
「えぇ、その本人かどうかはイマイチですけど微かに愛瑠さんの霊力が染みついた二人が
それぞれ見られます」
「そういえば設楽紅緒は愛瑠さんに飲み物を渡す際に接触、石動秋吉は途中で愛瑠さんと
ぶつかってたような…」
「じゃあそれを追いかけるとするか」
四人は黎斗の式と共に森に入る。
資料館にいる愛瑠に大きな異変が起こった。近くで見ていた慧は彼女に寄り添う。頭を抱えて
何かを呟く。
「設楽紅緒が鬼、紅緒は刺される…ぅあ!鬼は…海魔は!!!」
彼女は大きく深呼吸する。
「…!大丈夫ですか?一体何が…」
「慧君…今すぐ!島にいる職員と黎斗君に報告しないと!!!急いで!!!」
前の代からいる風鳴は何となく察していた。強い何かを感じた時だけ愛瑠は父親と同じ力を
発揮する。
「そんなの…アリかよ」
「本当の事だ。この連絡と二人を見れば分かる。今回は本当に力が強かった。使わない力を
無理に使ったのだろうな。が、その力は彼女には合わない。柳水流頼助の状況把握予知は…」
勿論、愛瑠は能力を持たない。じゃあ何故?
—愛瑠。
「ッ!!?(お父さん?」
—力を持たなくていい。いるじゃないか、周りに強い奴らが…後はしっかり解決へ導け。
<全員共通情報>
・設楽紅緒→鬼
・不破海人は重傷
- Re: 霊障対策課24時! ( No.31 )
- 日時: 2020/04/21 21:04
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
「どういうことだ。何のつもりだ!」
姫香が叫んだ。
「困ります強すぎて…私は島を守りたいだけなの!」
「…彼を離してください」
糸音は囁くように願う。それでも彼を離さない。緊迫する現場。そこに声が聞こえた。
「全部完全な鬼になるため…母親は完ぺきな鬼だった、貴方は鬼と人間の間に生まれた。
結界で覆われた森は今回のために用意していた」
大きな地鳴りに全員が驚くも愛瑠は一人、その怪物を見上げていた。この異形こそ海魔、
今の海魔はほとんど力を持たない。天候が荒れてきた。
「愛瑠さん!!」
愛瑠は大きく頷いた。上を通り過ぎ黎斗は槍先を異形に突き刺す。
「ハッ!どうだ!?味は!俺たちの特製霊槍の味はァァァァ!!!!!」
怪物の体が消えた。天候は突然よくなり明るくなった。そこにいたのは一匹の龍だった。
「…あれは…海魔の、正体!?」
『哀れな子よ。鬼として使命感に憑りつかれた苦しみに沈んだ子よ…今、ここを守る者は
変わる』
神々しい光を放つ龍は話し続ける。
『そして力を持つ子。優れたものを持ちながら役に立てず悔やむ娘よ…お前の心が、言葉が、
行動が全員の心に少なからず影響を与えた。哀れな子よ、もう休むのです。すべては終わり
自由が始まる時なのだから』
人魚のような姿から一変、紅緒は小柄な女性姿に戻り気を失った。その龍は船にいたときから
ずっと全員を監視していた。その龍もまた鬼を解放しようとあの手この手と考えていた。今、
職員たちが解決へ導こうと奔走したことで島に眠る伝説は完結した。
桃園愛は扉を叩く。
「今日、一緒に出てくんだから早く準備してよ」
部屋の中にはふと転寝から目を覚ました黎斗がいた。
それぞれが島民に別れを告げて島を出る。そして帰って来たと同時に桃園愛の弟、解散した
自警団の団長、桃園黎斗は霊障対策課にやってきた。愛の家はここから近いようだ。
<桃園黎斗>
魚のような水属性の式神を操る。水属性の霊力を纏わせることで霊的存在への攻撃、浄化が
可能。