ダーク・ファンタジー小説
- Re: 霊障対策課24時! ( No.35 )
- 日時: 2020/04/23 21:17
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
霊障対策課につい最近は言って来た新米、楡木佳子(楡木:にれぎ)は式神の白虎「太郎」と
いつも一緒だ。ドジな面が強い佳子は普段太郎に面倒を見てもらっているのだ。最近、佳子が
尊敬しているのは若い課長、柳水流愛瑠だ。若い人は舐められがちだと思っていた彼女だが
愛瑠は皆から頼られ仕事もしっかりやれて全員に気配りができる正しく理想の上司。
散らばった紙類を佳子は慌てて拾う。
「はい」
「わぁぁ!す、すみません!!!…あ!」
数枚の紙の束を渡してきたのは愛瑠だった。
「あ、ここにもありますよ」
もう一人は男の声。彼は佳子と同期、栩原定道(栩原:とちはら)だ。彼は霊が現れた場所の
二日前までの過去を視ることが出来るサイコメトラー。
「あ、ありがとうございます!!」
「大丈夫だって。気にしない気にしない」
愛瑠はそう言った。彼女は霊能力を持っていないが高い霊力を持っている。ここに居る職員の
中で一番高い。二人は佳子が散らかしてしまった紙を拾ってから離れた。愛瑠の背中を佳子は
見つめていた。彼女の心情を察した太郎はため息交じりに言う。
「課長のようになりたいならまずはドジを直さないとな」
「うっ…が、頑張ります」
少しショックは受けた。
- Re: 霊障対策課24時! ( No.36 )
- 日時: 2020/04/24 17:00
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
一本の電話、それは霊障事件が起こったという報告だった。
愛瑠の前を通りかかった続麻彼方に声を掛けた。
「あれ?ウエディングドレスの人はいないんですか?」
「あーキリコさんか。なんか突然消えちゃったんだよ」
続麻彼方は触れた死体を操るネクロマンサー。ウエディングドレス姿のキリコと呼ばれる人物も
死体だ。いつも一緒の辺り、思い入れがある人物か大切な人物なのだろうか。それと霊障事件は
ほぼ同じ時間帯に起こっていた。
扉を開けて戻ってきた人物が二人いた。一人は栩原定道、彼のサイコメトリーで現場で
起こっていたことを調べてもらった。で、もう一人は…。
「って、またボロボロだなぁ…」
「これについてはちょっと言っておきますね先輩。たまたま俺たち、霊障事件の犯人を
見つけて応戦したんですけど逃げられちゃいました」
定道が説明した。長い髪に黒い服を着た女性でうねうねとした手のようなものを操っていたらしい。
生傷を抱えて戻ってきた男、實藤慶壱(實藤:じつふじ)は気持ち悪いと言っていたが彼も手の形を
した式を扱うお前が言うなと思ってしまう。物理で殴りに行く無鉄砲な彼なので仕事から
戻ってくると大抵生傷を負って戻ってくる。
「今回の仕事も戦闘は避けられないのかな」
「難しいと思いますよ、俺も」
定道も頷く。何やらキョロキョロしている慶壱が何を欲しがっているのか察することは簡単だ。
声を掛けて手元にある小さな袋を渡した。
「糖分探し、でしょ」
「すいません。あざっす」
それを手に取り中にあるクッキーを食べ始めた。
- Re: 霊障対策課24時! ( No.37 )
- 日時: 2020/04/24 19:05
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
目撃情報が入った場所に一人の職員を愛瑠は向かわせた。世継藤丸は愛瑠から要請を受けて
その場所へ向かった。鬼神憑きだ。一人で戦闘は可能、第三者から見れば霊力があるだけで
能力を持たない課長の柳水流愛瑠と比べたら上だろうが彼は彼女を尊敬していた。能力ではなく
人柄が良いから。この能力は呪いのような物、幼い頃に鬼神を見て苦しんだところを元、
霊障対策課の職員の男に救われた。体には炎を模した赤紫色の入れ墨のようなものがある。
入れ墨とは違うがどれだけ洗っても消えないところは同じ。そんな変わった容姿を馬鹿にする
人物はいなかった。職員として入る前に必ず課長と対面する。何か言われるのではと考えていたが
彼女はそれに関しては
「体のそれは封印的な感じ?大変だね」
とだけ言った。それに救われたと思ったのは事実だ。彼は足を止めた。伝えられた容姿と同じ。
愛瑠はその霊障に頸狩りと命名した。
「あら、自ら首を取られに来たのね」
頸狩りから感じる雰囲気は続麻彼方が連れていた「彼女」に似ていた。手で首を庇った直後だった。
「ダメでしょう。勝手に避けないで頂戴、失敗しちゃうから。ほら、その腕」
しまった、そう思ったときには遅かった。幼い頃に体験した体内が焼け爛れるような感覚に
苛まれ一時撤退。
その異変を彼は早口に愛瑠に伝えていた。
「ちょっと待って!大丈夫なの!?今、救援を」
『いりません!来ちゃダメです!!それと…彼方さんの—』
会話が途切れた。霊能力、特に憑かせて戦う能力者はこういう状況に陥りやすい。
「どうしたんだい愛瑠ちゃん」
声を掛けてきたのは中年の男、古里虎徹だ。呪文を詠唱し、その場にいる土地神の力を
借りて扱うことが出来る。
「藤丸君が、能力というより鬼神が暴走というか封印が解除されちゃったみたいで」
- Re: 霊障対策課24時! ( No.38 )
- 日時: 2020/04/24 21:12
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
虎徹は資料室に愛瑠と共にやってきた。愛瑠は数人、職員を藤丸が逃げたであろう場所に
向かわせた。古い資料を幾つか取り出し虎徹は愛瑠に見せた。
「昔、彼は鬼神に蝕まれた。そこに職員が駆け付けて体のあれを描いたってわけ。で、藤丸君の
鬼神についてはこれね」
村の守り神と結婚するはずだった巫女、その巫女は彼の先祖によって攫われた。先祖は巫女に子が
出来ると目もくれなくなり巫女は自殺。それを知った鬼神は今までの優しさを捨て怒り狂った。
どうやら世継家には先祖代々「人に優しくしないと怖い鬼に食われる」と伝えられてきたようだ。
それは先祖に対して怒り狂った鬼神が掛けた呪いの事。藤丸自身の今までを調べると一度、
小学校時代に暴力沙汰を起こしていたようだ。好きな子がいたようで虐めていた同級生に
殴り掛かったらしい。それが始まりだったようだ。
「まぁ…暴力は良くないけど守ろうとして手が出たってことだよね」
「そうだとしても鬼神からしたら優しくないと思われたんだろうね。さて、ここまで調べて
君はどうやって事態を治める?」
「…どうにかなる。優しい鬼神でしょ?どうにかなるなる」
一方、頸狩りの元にやってきたのは続麻彼方だった。彼一人だ。彼を見た途端、彼女は頭を
抑え始めた。
「やめて!あたしは生きるのよ…」
「俺の方こそ、やめてって言いたいぐらいです。霧子さん…もうお別れの時間です」
頸狩りの黒い服が真っ白なウエディングドレスに変わった。
いつかウエディングドレスを着たい、そう願っていたのは彼方の姉的存在、麻生霧子。
彼女が頸狩りの正体、否それに殺されてしまった。頸狩りの首は霧子の首だ。頸狩りを道連れに
霧子は成仏する。
「さようなら彼方君」
- Re: 霊障対策課24時! ( No.39 )
- 日時: 2020/04/24 21:46
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
白虎は冷気を吹く。巨大な鬼神を凍結させたはずなのにその氷は鬼の炎があっという間に
溶かしてしまう。
「むぅ…やはり鬼神。一筋縄ではいかぬ」
「うへぇぇん!!どうしよ〜太郎!!!このままにしたら愛瑠先輩がぁ〜」
愛瑠と言う名前に鬼神と化した藤丸が反応を見せた。そして微かに「逃げてほしい」と
呟いた。その鬼神は後ろに後退る。
「ここで逃げさせるかよ!!」
大きな黒い拳が叩きつけられた。ダメージは無いに等しいが鬼神は揺れた。
「慶壱君!接近戦を仕掛けたら危ないよぅ!!」
實藤慶壱に向けて楡木佳子は震えた声で叫ぶ。
「とは言ってもここから動かさない方が良いだろ!愛瑠さんが来るまでどうにか時間を稼ぐ。
それとお前、逃げろとか言ってんじゃねえよ。ここで逃がしたところで課長は絶対に
追ってくるぞ」
大きく吠えた鬼神。その迫力に気圧される。
「皆!!」
虎徹と共に愛瑠が走って来るのが見えた。
「さぁ君と愛瑠ちゃんのサシだ。勿論、言葉のね」
「…」
少し呆れたような顔をした愛瑠は真剣な眼差しで鬼神を見上げた。
「返してよ藤丸君を。大事な部下を返して」
静かな口調で彼女は言った。鬼神は反抗するように唸る。それでも愛瑠は怯まない。
「優しさなんてね星の数ほどあるもんでしょ。あの暴力は仕方ない、お互いに非があった。
虐めたのが悪い、殴ったのが悪い。だけど殴りたくて殴ったんじゃない、守り神である貴方と
同じだよ。守るために殴ったんだ」
鬼神の心が揺れ動く。奥底に眠っていた本来の優しさが覗き込む。
「私は藤丸君の上司、先輩。だから部下を戻すためなら私は何だってするわ」
膝をつき愛瑠は深く頭を下げて土下座する。
「古き守り神、千寿よ。この通り、どうか私の大切な仲間を返してください!」
- Re: 霊障対策課24時! ( No.40 )
- 日時: 2020/04/24 22:06
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
土下座姿を見て鬼神の怒りが大きく膨れ上がった。土下座をして反省したはずの男は自分を騙して
巫女を攫ったのだから。簡単に殺せるはずなのに体は動かない。
『無力な女…顔を上げろ。もうこの子に害は与えないと約束しよう』
—本当!?ならこのまましっかり藤丸君を守ってよ?
『約束しよう。無力ながら強い娘よ』
数日が過ぎた。愛瑠は扉が開く音がして顔を上げると思わず二度見した。
「ちょっと待った!待て待て待て私的には数週間後に完治してっていうのをね、思ってたんだけど
え?もう治ったの?早くない?」
既に腕も完治した状態で世継藤丸は現場復帰を果たした。常人なら考えられないがこれは
まぁ鬼神を宿している彼の力か、それとも鬼神本人が謝罪のつもりで彼の体を治したのか。
どっちにせよ驚きを隠せなかった。
「先輩、お世話掛けました」
第一声はそれだった。
「いいえ、気にしてないから大丈夫。怪我人は出て無いし…咄嗟だっただろうによく判断して
居住区から離れたね。その判断力は凄いと思うよ」
それぐらいしか言えることは無かった。
- Re: 霊障対策課24時! ( No.41 )
- 日時: 2020/05/17 18:40
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
ある青年が確保され霊障対策課で監視することになった。見た目こそ成人だが彼はまともに
教育を受けていない。ソファに座り込み、必要最低限の知識を得るために幾つかのドリルと
プリントと向き合っていた。
「今日の分はこれで良いかな」
柳水流愛瑠は赤ペンを置いた。惣那日向、人食い鬼の先祖返り。何代も前の先祖の持っていた
遺伝上の形質が突然子孫に現れることを先祖返りという。自分の名前は漢字で書ける。
覚えるのも苦手ではないようで一度説明すればある程度理解は出来るようだ。
「先輩、捜査組から連絡が来ましたよ。もう一つの人食い事件の容疑者を押さえたって」
愛瑠の代わりに電話に出た栩原定道が言った。
「分かった。あ、エルダちゃんはそのまま調べて。私が様子を見てくるよ」
修道服を着たハーフの女性、花之木エルダ。彼女は聖水を使った簡単な治療を扱えて
姿が見えないヴェールという天使を従えている。彼女にはもう一つの人食い事件の正体を
探ってもらっている。
エルダはヴェールと共に資料室に籠っていた。ヴェールは職員でも限られた人物しか見えない。
霊力が高くなければ見えないのだ。霊能力を持たない愛瑠はヴェールの姿がはっきりと
見えている。それに初めは驚いた。ヴェールはエルダの肩を突き資料を見せた。
「やはり、ありましたね骨喰という妖怪の資料…」
エルダは本を開き目を通す。骨喰、名前の通り人の骨を喰らって生きる。それも無作為に選んだ
人間に憑りついて。宿主を殺しても次へ次へと乗り移る。つまり死刑には出来ない霊障案件だ。
- Re: 霊障対策課24時! ( No.42 )
- 日時: 2020/05/17 19:03
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
死刑にすることは出来ない、エルダの言葉に全員が騒然とする。だが彼らを静かにさせた人物が
いた。柳水流愛瑠だ。
「さっきのを聞けば分かるよ。こればかりは仕方ない」
「ありがとうございます。それで課長に力を貸してほしいんです」
愛瑠は首を傾げた。その部屋は暗く小さな窓から薄日が差していた。椅子に座った青年の両手足は
鎖で拘束されている。好青年に見える彼が二つ目の人食い事件の犯人だ。六道紅平だ。
「もしかしてアンタが課長か?てっきり強面の大男かと思ったぜ。で、課長さんが何の用だ?」
「まぁ色々仕事を…エルダさんは外に出ててね。何かあったときの被害は最小限に」
「分かりました。気を付けてください、課長」
エルダは敬礼してから部屋を出た。愛瑠の視線は紅平から上へ向けられる。
「まさかアンタ…視えてるのか!?骨喰が」
黒い靄のような姿に変わっているが目はある。
「…分かった。別にそのままでいてくれて構わない。けどもう貴方を殺そうとする人間は
いないよ。今の世の中、貴方のような妖怪が見えている人は本当に少ない。彼の身柄については
私たちの元で監視、言うならそのまま霊障対策課の職員として動いて貰うことがあるから
そのまま彼に力を貸してあげて欲しい」
大きな咆哮と同時に黒い靄は愛瑠の体に潜り込んでいく。しかし数分もすればすぐに外に
出て行った。愛瑠の暖かく広い心を見たからなのか、骨喰は何かを語り掛けて紅平の体の中に
消えた。
「(話しただけでコイツを改心させやがった。アイツらの話じゃ、課長は霊能力を
持っていないって話だ。誰よりも劣っているのに全員の上に立って誰からも慕われている)」
紅平はふと笑みを浮かべた。
「礼を言うよアンタに。これでようやく普通の食事が出来るってワケか」
「私は仕事をしただけなんだけど、まぁどういたしまして。でも少しの間はこの部屋で我慢してね
色々片付けなければならないものがあってさ。上に報告してからになるから」
「あぁ。気長に待たせてもらうよ」