ダーク・ファンタジー小説
- Re: 霊障対策課24時! ( No.41 )
- 日時: 2020/05/17 18:40
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
ある青年が確保され霊障対策課で監視することになった。見た目こそ成人だが彼はまともに
教育を受けていない。ソファに座り込み、必要最低限の知識を得るために幾つかのドリルと
プリントと向き合っていた。
「今日の分はこれで良いかな」
柳水流愛瑠は赤ペンを置いた。惣那日向、人食い鬼の先祖返り。何代も前の先祖の持っていた
遺伝上の形質が突然子孫に現れることを先祖返りという。自分の名前は漢字で書ける。
覚えるのも苦手ではないようで一度説明すればある程度理解は出来るようだ。
「先輩、捜査組から連絡が来ましたよ。もう一つの人食い事件の容疑者を押さえたって」
愛瑠の代わりに電話に出た栩原定道が言った。
「分かった。あ、エルダちゃんはそのまま調べて。私が様子を見てくるよ」
修道服を着たハーフの女性、花之木エルダ。彼女は聖水を使った簡単な治療を扱えて
姿が見えないヴェールという天使を従えている。彼女にはもう一つの人食い事件の正体を
探ってもらっている。
エルダはヴェールと共に資料室に籠っていた。ヴェールは職員でも限られた人物しか見えない。
霊力が高くなければ見えないのだ。霊能力を持たない愛瑠はヴェールの姿がはっきりと
見えている。それに初めは驚いた。ヴェールはエルダの肩を突き資料を見せた。
「やはり、ありましたね骨喰という妖怪の資料…」
エルダは本を開き目を通す。骨喰、名前の通り人の骨を喰らって生きる。それも無作為に選んだ
人間に憑りついて。宿主を殺しても次へ次へと乗り移る。つまり死刑には出来ない霊障案件だ。
- Re: 霊障対策課24時! ( No.42 )
- 日時: 2020/05/17 19:03
- 名前: 枢木 (ID: xs5T8t9X)
死刑にすることは出来ない、エルダの言葉に全員が騒然とする。だが彼らを静かにさせた人物が
いた。柳水流愛瑠だ。
「さっきのを聞けば分かるよ。こればかりは仕方ない」
「ありがとうございます。それで課長に力を貸してほしいんです」
愛瑠は首を傾げた。その部屋は暗く小さな窓から薄日が差していた。椅子に座った青年の両手足は
鎖で拘束されている。好青年に見える彼が二つ目の人食い事件の犯人だ。六道紅平だ。
「もしかしてアンタが課長か?てっきり強面の大男かと思ったぜ。で、課長さんが何の用だ?」
「まぁ色々仕事を…エルダさんは外に出ててね。何かあったときの被害は最小限に」
「分かりました。気を付けてください、課長」
エルダは敬礼してから部屋を出た。愛瑠の視線は紅平から上へ向けられる。
「まさかアンタ…視えてるのか!?骨喰が」
黒い靄のような姿に変わっているが目はある。
「…分かった。別にそのままでいてくれて構わない。けどもう貴方を殺そうとする人間は
いないよ。今の世の中、貴方のような妖怪が見えている人は本当に少ない。彼の身柄については
私たちの元で監視、言うならそのまま霊障対策課の職員として動いて貰うことがあるから
そのまま彼に力を貸してあげて欲しい」
大きな咆哮と同時に黒い靄は愛瑠の体に潜り込んでいく。しかし数分もすればすぐに外に
出て行った。愛瑠の暖かく広い心を見たからなのか、骨喰は何かを語り掛けて紅平の体の中に
消えた。
「(話しただけでコイツを改心させやがった。アイツらの話じゃ、課長は霊能力を
持っていないって話だ。誰よりも劣っているのに全員の上に立って誰からも慕われている)」
紅平はふと笑みを浮かべた。
「礼を言うよアンタに。これでようやく普通の食事が出来るってワケか」
「私は仕事をしただけなんだけど、まぁどういたしまして。でも少しの間はこの部屋で我慢してね
色々片付けなければならないものがあってさ。上に報告してからになるから」
「あぁ。気長に待たせてもらうよ」