ダーク・ファンタジー小説
- Re: 宵と白黒 ( No.14 )
- 日時: 2020/08/30 01:13
- 名前: ライター(心) (ID: cl9811yw)
ゆっくりと速度を落とす電車はやがて止まった。そしてトワイたちを襲った男が警察に追いたてられて行く。終点の駅がある薄暮街が見える頃には、太陽はほとんど真上へと登っていた。
さらに薄暮街の特徴とも言える、壁面にガラスを多用したビル群が光を反射して街全体が煌めいているかの様である。
その光の眩しさに目を細めつつ、トワイもまたぼんやりと視線を街へと投げかけた。
□ △ □
やがて電車がゆっくりと速度を落とし、車輪の軋む音をたてながら停車する。アナウンスの声を後ろに、三人はホームへと降り立った。
「着いたね、トワイさん……何か、聞かれるのかな?」
先程の事を思い出し、シュゼがそう尋ねる。彼女が垣間見せた真っ直ぐな強さを羨みつつも、トワイは言った。
「オレが知るわけないだろ。ほら、車掌、だっけか? あいつが話しかけて来るのを待とう」
「私もそれが良い、と思います」
少し震えたような声でリュゼがそう言った時、ちょうどそこへ声が掛かる。
「先程のお客様方でいらっしゃいますね?」
「あ、はい、そうです!」
トワイは人と話せるスキルなどないと言わんばかりに口を閉ざし、元々そう言うことが向いていないリュゼはじっと己を見つめてくる。それにちらりと目を向けて、呆れた様な空気をまとったシュゼが返答した。
「そうですか、では……お手数お掛けいたしますが、皆様こちらへお願いします」
そう言われた三人はその後しばらく話を聞かれていたが、その間何故かリュゼはとても不安げにしていた。
「やーっと終わったよー! もう疲れたや! 早くノーシュさんの家に行こう!」
「……姉さん、はしゃぎすぎ、だよ」
いつも通りシュゼがはしゃぐのをリュゼが諌める。だが、そこはかとなく今のリュゼは歯切れが悪かったようにトワイには思えた。
「そうだ。お前さ、泊まる場所とかは考えてあるのか?」
すぐ近くだと言うノーシュの家へ向かいながら、トワイがシュゼへそう尋ねる。
「うん、大丈夫だよ! ノーシュさんの家の近くにビジネスホテル? があって、そこに泊めてもらうから!」
「姉さん、お金、大丈夫?」
少し不安げにリュゼがシュゼへ現実的なことを尋ねると、その事が気になっていたと言わんばかりの表情でトワイも振り向き言葉を重ねる。
「まさか、足りないとか言わないよな?」
二人から尋ねられたシュゼは少し動揺した顔をしてから口を開く。
「だ、大丈夫だよ、三泊はできるし……いざとなったらノーシュさんの家に泊めてもらえば良いから!」
少し焦り気味になりながら答えたシュゼは、不意に笑って言った。
「みんな、信じてなさそうな顔、してるけどさ。私だってちゃんと計画もあるし考えてもいるんだ。私は、それ位ノーシュさんの記憶を、戻したいんだから」
そう笑って言ったシュゼの言葉に、リュゼが頷く。
「そうだね……たくさん、遊んでもらったもの。」
そう言ったシュゼとリュゼは少し歩く速度を上げてノーシュの家への道を歩いていく。ほんの少し逡巡するかのように立ち止まっていたトワイは、ふわりと顔を上げて呼びかけた。
「おい、シュゼとリュゼ。話がある。何かその辺……あそこのベンチ座れ」
意気揚々と歩き出した二人を呼び止めて、トワイは手近なベンチを指差す。
「え? どうかしたの?」
「……何でしょう?」
三人で横並びに腰掛けたベンチで───トワイが真ん中だ───かなり言葉選びに苦労しながらトワイが口を開く。トワイにとっては、これから問うことは当たり前の事だった。あくまでそれは彼にとっての日常だった。だからこそトワイは、それを言い表せる言葉を探す。
「シュゼとリュゼは。今日みたいなことがまたあった時、戦えるか?……はっきり言って、足手まといは困るんだよ。お前たちが居ないと依頼が達成出来ないのも事実、お前たちは俺が居ないと目的が叶わないのも本当だ」
トワイの悩みながら放たれた言葉に、シュゼは笑って即答した。風が吹き抜け、白い髪を揺らす。
「当然。さっきも言ったよね、私はノーシュさんを助けたい。だから、頑張るの」
シュゼの出した答えを聞いたリュゼがそっと目を伏せる。自分には出来ないと言うかのように、ゆっくり首が横に振られる。
「私は、出来ないんです。戦うのも、怖い。結局私は、足手まといにしかなれない……」
リュゼの震えた声を聴いたシュゼは、満面の笑みを見せて言う。彼女の両手が、リュゼの両手を包み込んだ。
「大丈夫だよ! リュゼは私が守るもの! お姉ちゃんだからね!」
うんうん、と髪を揺らして自分の言葉に頷くシュゼをその橙の瞳で見つめながら、トワイも言った。何処か羨ましい、と思ったのは秘密だけれど。
「なら、大丈夫だな。……オレの用は終わりだ」
トワイがそう言うと、リュゼは固かった表情を綻ばせて立ち上がる。
「よし! 早く行こうよ、日が暮れるよ!」