ダーク・ファンタジー小説
- Re: 宵と白黒 ( No.18 )
- 日時: 2021/01/03 18:38
- 名前: ライター(心) (ID: cl9811yw)
痛みが全く無く、なにも体が傷ついていないこと、それに喋れること。それらのことから考えられることは、おそらく───
「っつ……! 」
今まで余裕気だったレンが、ポツリと苦鳴を零した。その黒い瞳が、きつく虚空を睨む。舞い上がる光の量が多くなって、彼が力を振り絞っているのだろうと推察できた。
「く、う………!」
一方青年の方も、微かに顔を歪めて、力を振り絞る。脚を必死に動かし、前へ進もうとする。
おそらく、こいつの力は、体に流れる命令を、書き換えるもの、のはずだ。くわしいことは分からない。分からないけど、動こう、とする命令を書き換えているとするならば。
オレも命令を出せば良い。書き換える速度が追いつかないほど、幾度も。そう思考した青年は、真っ直ぐにレンを睨んだ。
「きゃ、あっ!」
「う、わぁ!」
悲鳴と共にとすん、と音を立ててシュゼとリュゼが崩れ落ちる。静かに争っていた青年とレンが、ハッとして視線をそちらに向けた。
「しまっ、た!?」
薄っすらと動揺を滲ませたレンの言葉に、トワイは足を動かそうと試みる。そして同時に、何故シュゼとリュゼが動けたのかを考えておく。
やはり、力のキャパシティには限界がある筈だ。それが、オレに全て割り振られた。ならば、と青年は思う。今が、好機か───と、小さく呟いた彼の脳内で思考が瞬き、力の出力が一気に高まる。
それにレンの顔が歪み、明確に力が緩まり始めた、気がした。
「う、あっ!」
「う、ごけ!」
と、その時、レンの目の前が炎で灼かれた。シュゼか、と青年が思う。それを避けるためにレンが後ろへとびずさった、その一瞬。確かに、力の強制力が、一気に緩んだ。
「フゥッ!」
限界まで溜められていたそれは、さながら弓矢のようだった。ダンッ、と靴底で地面を蹴り飛ばす音がビルに反響し、大きく響く。
残りの数メートルの距離を、ほんの瞬きする間に詰め、ようとした───
詰めようとした瞬間、ブチブチと言う嫌な音が確かに足から聞こえ、青年が明らかに失速する。がくん、と体が揺らぎ、脚の制御がままならなくなる。右手を地面につけて、転倒を避ける。クラウチングスタートのような姿勢をとって、再び加速しようとした。だが、激痛が利き足の右足から脳天へ抜けていく。
「くは、っ………」
「トワイさん!?」
「トワイ、さんっ!」
シュゼとリュゼの声すら聞こえない程の、痛みが走る。足を動かそうとする度に、青年の体に激痛が駆け抜ける。
何があったのかは分からない、けど……恐らく好機、ここでこいつを倒しておく……! 瞬間で浮かび上がったその考えを、少年が実行することはできなかった。
青年の足に誰かの力と思われる光が集まり始める。微かに何かの音が響いて───青年が再び加速し、少年へ刃を振り下ろしたからである。
「はぁ、っ、は」
光を放ったのは、リュゼの右手。真っ直ぐにトワイを指した人差し指から、光が零れる。
「リュゼ! 無理しちゃダメ!」
「分かってる、姉さん……けど、私も、戦うの!」
姉からの言葉に、そう答えたリュゼは、目を逸らさずに青年を見つめた。今のトワイさんを助けてあげられるのは私だけなんだから、と思いながら。
一方、少年は青年が振り下ろした刃を左袖口から滑り落としたナイフで受け止めながら、考えをまとめていた。………もう一度加速してる…その事は分かる、あの黒髪の子が回復なり何なりをした…足が動かなくなっていたのは何故……そこまで考え、思いついた事を少年は口にする。
「貴方ハ、その力に、耐えられるほど、足ハ、強くないんじゃ、ないノカ?」
また一方青年は、光に包まれた己の足をちらりと見た。この光に包まれた後、何故か足が酷使に耐えるようになった。光を放ったのはリュゼの右手。回復か、と青年は思う。脚が慣れていない状態で出力が高くなれば、そうなっても仕方ない。刃を受け止めた少年が自分の下で発した言葉に、青年は唇をつりあげてみせた。
「そう、かもしれないな!」
二話:時の流れは、速い上に激しい
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