ダーク・ファンタジー小説
- Re: 宵と白黒【半分は更新】 ( No.42 )
- 日時: 2020/11/28 12:29
- 名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
四話:自由と命令
□ ▽ □
「貴女の、手首のソレ。ソレノ元の持ち主さんカラ、お願いサレタんです……!」
レンが力を発動し続けながら、右手で青のリボンタイを指し示した。
するとリフィスはハッと顔を上げる。目を隠しかけている前髪の奥から覗く瞳に、ほんの少し光が浮かんだ。微かに口元が弧を描き、氷のように纏われていた殺気が解けかける。
「そうですか……」
しんと静まり返った廊下に、少女の声が響き渡る。壁にいくつも設置された大きなオブジェが、きらきらと光を反射していた。
ふっと深呼吸して、レンが力の発動を止めた。汗が頬を滑り落ちる。その瞬間に彼女が飛びかかってくるのではないかと、そんな不安に一瞬囚われる。だが、現実にはそんなことはなく。かくりと少女の身体が揺らぎ、制動が解けた。人形じみた動きでつんのめるように、一歩二歩とリフィスは床を踏む。
「……何故です?」
「僕はアナタを殺しに来たノデハないので」
ほんの数メートルの距離を置いて、二人は相対する。
レンはずっと目を細め、リフィスの瞳をじっと見詰めた。方策など何もなかったし、彼女の為人を深く知っているわけでもなかった。だが、彼にはどうしてもリフィスと華鈴が重なって見える。自由を望むのか否かが異なっても、根本的な部分は同じだ。
誰か他人のいいように動かされて、簡単には抜けられない柵に囚われている、という。だから救ってやりたい。漫画の主人公みたいに、心を込めて話せばきっとできる、と。かつて彼女に出来なかったことを。
───誰かを重ねて見て幻想を抱くほど、自分は彼女に焦がれているのだな、と思う。
「ダカら……やはり、無理ナノです」
傷付けることなど、と口の端に溶かして、小さく呟く。ぐっと強く右手を握った。どうにかして説得しなくては、と思う。
その言葉は耳に届いていないのだろう、リフィスはふっとため息をついた。
「ああ……駄目ですね、ルクス様の命を果たさなくては。私はルクス様の為に生きなくてはならないのです」
余計な思考を追い出すように頭を振って、彼女は足を踏み出す。だが、黒髪の少年の目は、ただ真っ直ぐにリフィスの瞳を射ていた。その視線に込められたものが、どこまでもブランシェに似ていて。
ほんの少しだけ、自分でもよく分からない気持ちが胸の奥に生まれる。
「何故そんな目で私を見る……」
「ッ貴女は気付いてないかもシレナイけど! 人は、もっと自由に生きてイイんだ、望むように生きていいんだ! そんな洗脳ジミタやり方をする主なんて絶対に間違ってる!」
「洗脳、ですって?」
す、と。少女の瞳が、再度一瞬で凍るのをレンは見た。
「それは、ルクス様に仕えることが悪だと……そう宣っていると受け取られても仕方ない言い方ですよ、レン・イノウエ」