ダーク・ファンタジー小説
- Re: 宵と白黒 ( No.45 )
- 日時: 2020/12/23 07:59
- 名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
レンは唐突に、そう言った。廊下の無機質な距離を挟んで、リフィスはレンの瞳を見る。空白がほんの一瞬広がった。
ゆっくりと息を吸った少年が、はっきりと少女に告げる。
「ダカラ、僕はアナタを救いたい。せめて……」
せめて、と、少年はそう言ったか。よく似た人を救えなかったから。その意味で、彼はそう言ったのか。
リフィスの中で何かが弾けた。顔をはね上げて、レンを睨む。かつてないほどの怒りを映して、その顔が歪んだ。
「それって、私を誰かに重ねて見てるってことですか……もう本当に、やめてください、私は! 私を必要としてください! 私の力じゃなくて、私の他じゃなくて、私を! 勝手に色々押し付けて、幻想抱かないでよ!」
思いの丈を吐き出して、リフィスは少年の目を見る。かつてないほど、彼女の心の内は波立っていた。群青の双眸が、凛烈とした光を宿して煌めく。
初めて目を合わせた時とは段違いの、荒れ狂った感情が叩きつけられて。ひゅ、とレンは気圧されたように息を飲んだ。
「ごめん、なさい」
そうだ、と思う。なぜ華鈴は己を好いてくれたのか、それを唐突に理解した。そしてリフィスが何を求めているか、ということさえも。
───私は華鈴。それ以外の何者でもない。
かつて彼女はそう言ったではないか。華鈴はきっと、自分を見てくれる人間を求めていたのだ、と。哀しげな目をして、少年は淡く自嘲の笑みを浮かべていた。
レンは華鈴と言う前例を知っているが故に、リフィスを見ることが出来ない。その人自身を見ないのは、決してしてはならないはずなのに。
「私はルクス様のことを何よりも大切に思っている。だってルクス様は、私を必要としてくれたから」
レンの吐き出した想いに答えるように、リフィスは呟いた。
5話:終幕
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