ダーク・ファンタジー小説
- Re: 宵と白黒 ( No.47 )
- 日時: 2020/12/20 21:55
- 名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
- 参照: https://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
5話:終幕
「あ……はあ。本当はやりたくなかったんだけどね……トワイくんって言うのだっけ。きみがいちばん簡単そうだ」
ふと静寂が落ちた空間に、ルクスの言葉が落ちた。そのまま棚に近づいて、ゆっくりと飾ってあるものへ目を滑らせていく。目に付いたペンダントを手に取って、そっと三人へ足を向けた。
その仕草に、何かに気付いたらしいアレンがルクスへ振り向いた。
「用意、しておいてくれる?」
「ッ───承知、致しました。貴方が失敗など、するはずがない。私はそれを信じております」
「僕はいい人間に慕われたものだな……君とリフィスを見てるとよくそう思うのだよね」
なにか諌言を口走ろうとした彼を手で制し、ルクスはかすかに微笑んで、アレンにそう告げる。ふっと表情を元へ戻し頷くと、アレンは棚にそっと近づいた。置かれていた宝石箱のひとつへ手を伸ばして、くるりとルクスを振り返る。
淡い笑みすら浮かべて、ルクスは悠然とペンダントトップを握る。
トワイがその行動を怪訝に思った直後、シュゼがヒュッと息を吸った。あの動作、あのアレンの言葉には覚えがある。まさか、と刹那思い───トワイへ警告を発する間すらなく、唐突にガラスが砕けるような、清冽で怜悧な音が響き渡る。
凄まじい光輝が、部屋を照らした。ルクスの右手に握られた燐灰石のペンダントが、その光を纏って煌めいている。
「────!」
それと同時に、がくりとトワイが身体を半分に折る。噛み締められた歯がギリギリと音を立て、床の上で握りしめられかけた拳が暴れ回る。どこも身体は傷付いていないのに、全身が痛い。
凄まじい痛みが、身体を、魂を貫いていた。それは、魂を侵される苦痛だ。魂に刻まれた真名を、神の力の片鱗によって摘出し封じる───それが、真名を奪うということである。
「え、トワイさん!?」
「トワイさんッ」
シュゼとリュゼが動揺して声をかけても、動く気配がない。私の警告が間に合わなかったせいだ、一度見ていたのに───そんな後悔が湧き上がる。それでもシュゼは、弾くように顔を上げた。自分のすべきことをやる、と心に決めて。青い瞳がルクスの方向を睨みつける。
不意にアレンの黒い瞳と目が合って、彼女は鋭く息を飲んだ。ひたすらに苦しげな、誰かを心配するかのような、そんな目だった。
「やめてよ……」
彼は、ただルクスの命令で動くだけの人形などではなく。確かにアレンはルクスの忠臣であったのだと、その目を見てシュゼは悟った。
「───! ─あ、───」
「とわいさん!!」
トワイは呼んでも何も反応を返さない。ただ苦鳴を上げ続けるだけの彼を前に、何もできないことを悟って、それでもリュゼは必死に名前を呼んだ。なにか力になれていることを必死に祈りながら、彼の手を握る。