ダーク・ファンタジー小説
- Re: 宵と白黒 ( No.52 )
- 日時: 2021/06/08 20:05
- 名前: ライター ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
呼ばれたレンは、小さくそれに頷いた。が、彼女の方へ歩みはしない。自分にはまだすべきことがあるのだから、当然だとでも言いたげに。命が危機に陥りかねない状況下であるのにも関わらず、レンの動作はひどく泰然としていた。
「リフィスさん」
ただ、静謐。
真っ直ぐにルクスの方を見つめる群青の瞳、それへ視線は向けていない。彼らのそれは、どこまでも交わらない平行を走っている。
シュゼの方を向き、床を舐める炎を見つめながら、レンは声音のみで問いかけた。
「あなたはひとりで。私はここに残る」
リフィスは、当然のようにそう告げる。微塵の揺るぎもない、確かな声。
それを聞いたレンの口元に、薄く笑みが浮かぶ。あなたならそう言うと思っていた、とでも言いたげな顔で、そのまま白髪の少女に言い放った。薄く炎の色が透けて赤に染まる髪と、青の目。微塵もあのひとと似ている要素は無いのだけれど、持っている意志の強さは同じだ。それに、どこか惹かれる。
そう思ってから、ゆっくり瞬いて口を開く。
「僕ハ後カラ行く。シュゼたちハ先ニ行って」
見捨てることなど、出来ようはずがなかった。もう覚悟は出来ている。
───もう自分は、リフィスを華鈴と同じようにしか見られないから。
□ △ □
「あいつなら、きっと大丈夫だ」
「でも!」
「オレは、お前たちとレン、どっちかを取れって言われたらお前たちを取る。……行くぞ」
そう言って踏み出した一歩の足音が、妙に頭を抜けた。緊張や心労を抱いている時の重さとは違う、ざらりとした感触が残っている。
師匠の遺体を放置してきてしまった事への心残りか、それとも罪悪感をレンに抱いているのだろうか。棺に入れられて葬式なんてあんたの柄じゃないだろう、と問いかけるように呟いて、後悔を振り切る。
ちらりと後ろを振り返った視界の端で、短髪が揺れる。
見捨てた訳ではない、と心の奥で言い訳をした。とりあえず二人を安全なところまで連れていき、助けを呼ぶのが最善だと判断したからだ、とも付け加えてみる。
違う、と思った。
「解ってしまうから」
独り言のように、言う。
リフィスという少女と、彼女を見るレンの目を見た瞬間に解ってしまった。
彼にとってリフィスとは、自分にとっての双子のような存在なのだと。いや、多少の差異はあるだろうか。特に人の気持ちを読むのに長けているわけではないから、上手くそういうことを察することは出来ない。
だが、彼を邪魔することはきっと許されないと、そう思った。
トワイの呟きに、リュゼは薄く笑うのみだった。