ダーク・ファンタジー小説

Re: 宵と白黒【改題しました】 ( No.8 )
日時: 2020/08/21 09:21
名前: ライター (ID: cl9811yw)

 右手側の窓から入ってくるオレンジの光が、トワイの顔に影を落とした。照らし出される板張りの床に、長くローテーブルの影が伸びている。淡い蜜色に染まる部屋を支配した沈黙は、まるで蜂蜜のように少女たちにまとわりつく。長く、長く感じられたその沈黙は、青年の刃のような鋭いテノールで破られた。

「正直言って、オレはまだお前たちを信じてない。だから、まだ受けるかは決めていない」
「なら──」

 そこまでシュゼが言いかけたところを遮ったリュゼは、顔に真剣な表情を浮かべて言った。

「あの、トワイさんは……何か、したいこと……ありますか?」

 それを問われたトワイは、若干驚いた顔をする。そしてリュゼの大人びた顔を見て、それでもシニカルに彼は笑う。

「あるわけないだろ。あったら、こんな仕事してないさ」

 トワイにそう言われて、リュゼはきゅっと俯いた。白い横髪が夕陽を透過して、オレンジに染まる。

「そう……ごめん、なさい」
「じゃあ、それで良いじゃない! 何もしたいことないなら、私たちと一緒に過ごして、決めれば良いじゃない?だから、さ。お願いします、トワイさん……私は、ノーシュさんを助けたいの!」

 いつになく、真剣な顔でシュゼは言う。真っ直ぐに、燃える炎のように。明確な、強い意志を持ってそういう彼女にトワイが若干気圧される。今まで俯いていたリュゼも、気持ちを切り替えるように顔を上げてハッキリと言う。

「私からも、お願いします……!」

 再び、沈黙が落ちる。ゆっくりと波が広がるように、波紋が広がるように。部屋の床に落ちる三人と家具たちの影がほんの少し長くなった時、トワイは口を開いた。

「分かった。受けよう。報酬は、スマラグドゥスの本体。目的はノーシュ・キュラスの真名の解放。これで良いか、二人とも?」

 床に落ちる影が少し伸びるほどの長考の末に、トワイが結論を出した。その答えを聞いて、嬉しそうに二人は笑った。

「シュゼ、リュゼ。右手を出せ。」

 不意に立ち上がったトワイが右手を出してそう言うと、それにつられて二人が立ち上がる。シュゼとリュゼが首を傾げながら右手を差し出すと、その手を二人まとめてトワイがそっと握る。ああ、少女の手というのは華奢なものなのだな、と思う。
 
「契約成立。よろしくお願いしますよ、依頼人」

 トワイはそう言ってシュゼとリュゼの手を今一度握りなおす。三人の握手の長く伸びた影が、テーブルの上へ落ちていた。