ダーク・ファンタジー小説
- チェイサー 上下田編 第二話 ( No.2 )
- 日時: 2020/07/26 17:44
- 名前: 追佐龍灯 (ID: /b8.z0qR)
第二話
「お前〜〜っ!」
互いは互いに距離を取り合った。後ろに一歩ずつ。
「お前・・・親父さんは・・・」
先に口を開いたのは安土 文乃だった。
「よそ見している暇はないぞ。」
安土はようやくこの状況を理解した。
「俺に命令するなよっ。」
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東歴1082年
「俺は・・・病気なのか?」
「あぁ。そうだなぁ世界は生きているゾ。」
「クッ。」
鴨副犠 劉(カモネギ リュウ)は安土 文也と病室のカーテンに囲まれた空間で話し込んでいた。劉は不治の病にかかっていた。その病の名はVAVE(ベイブ)と呼ばれていた。
ドアがバンッと大きな音を立てて開いた。
「父さんっ。」
鴨福犠勝は息を切らしている。
「よう勝っ!」
「父さん。」
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「あほかお前は。」
「あぁそうだなぁ、俺はあほだ。。」
文也は憤慨した表情で手を腰に当てて話を進めている。
「自分の息子に強がってどうするんだ。このあほ。」
彼らは小学校からの仲だった。しかし最初のほうは犬猿の仲と言うべきだった。
しかし災い転じて福となすという言葉があるように、彼等のきずなは今現在強固なものとなっていた。
彼の病気が発覚したのは一か月ほど前だった。安土は鴨副犠と常に行動を共にしていたこともあり、常に面会を許されていた。家族の面会も少し前から許されてはいたのだが、母方の祖母(勝にとっての)は面会を許さず、ついに今日少しだけ面会をすることができた。
「お父さんは大丈夫だぁ?ふざけやがって、医者の説明を聞いていなかったのか?VAVEは不治の病とも言われている・・・。」
「安土・・・少し・・・いいか?」
「何だ?」
「俺はこの病気と闘うことにする。」
「闘うっつったってお前・・・」
「もうそれ以上何も言わなくていい。だがお前の息子にこう伝えてほしい。」
「どう伝えるんだ?」
「VAVEはただの病じゃない。上下田と言う場所にチェイサー本部と言うところがある。そこに行けと。」
「わかった。が、なぜ俺の息子に言うんだ?俺もいるし、齢が問題なら、お前の息子・・・勝に頼めばいいじゃねえか。」
「あいつはあいつで別のことを調べてもらう。それにお前もだ。」
「何を考えてる。」
「さぁな? ただ、お前は一番俺を理解している。」
「気に食わねぇやつだな。」
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前、後ろ、横、いろいろな方向からいろいろなものが飛び交っている。文乃と勝は背中こそ合わせてはいないが協力しながら蹴散らしていった。気づけば周りには生きた屍しか転がっていない。
「親父は今も闘病生活を続けている。だがもう気力が残っていないさ。」
「もう4年にもなるのにな。」
「いや、まだ四年だ。」勝は苦しそうに空を向いた。大きな建物が空の半分を覆い隠している。 ビルだ。
「あの時俺は高校三年生だった。」
「俺もだよ。」
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「文乃、大事な話がある。」
突然父の口から飛び出した言葉は冷たく重たかった。
「失礼します。」
父の部屋に入るときは三度ノックした後にこう言うのだった。手で触れたノブは冷たく、冬のようだなと思った。
中に入るとクーラーの冷気が全身をつたった。
真剣な表情をした父は書斎用の椅子から立ち、構え、待っていた。
「俺の親友である人物が病気になったのは知っているな?」
彼のことだろうか?父は嬉しそうにその人のことをよく話していた。
「お前上下田に行け。」
動揺を隠しきれなかった。なぜあの場所に?恐ろしさと反面、怖さがあった。隠し続けていたことがひらひらと崩壊していきそうだ。
「どうした・・・やはり、恐ろしさがあるのだな。いいだろう俺が送って行ってやろ・・・」
「いえっ!」
腹の底から浮き上がるように声が出た。大きな声に父も目を見開いていた。
「自分で・・・行きます。」
「そうか・・・」
ノブを閉めたとたん冷や汗がこぼれた。父はなぜそんなことを言ったのだろうか。やはり父は知っているのか、数年まで・・・中学を卒業するまで常駐していたあの場所のことを母と過ごした場所のことを・・・。
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彼は知っていた。文乃が母と過ごした場所が上下田だということを。
「俺も性格が悪いな。」劉はカーテンを半開きにしながらつぶやいた。
なぜ彼は文也でさえ知らないことを知っていたのか?その理由は一つだった。劉はよく上下田を出入りしていたからである。
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新宿から上下田まではさほど遠くない。遠く感じないと言ったほうが正しいのだろうか。
山手線に乗り込み、上下田北口に着いたころは、まだ九時半だった。
「これが夢の国の城か。」
文乃は空を土産た。青い屋根のなんとか城がそびえたっている。後ろのほうからはカンカンと言う音がわずかに防音膜の向こうから聞こえる。アメリカから東京に夢の国が現存していることを猛反対されたのは、もう三年も前の話だったが、取り壊しの工事はまだ続いている。国の判断としてはこの城の建物だけは取り壊さずに残すらしい。
「俺らには関係のないことか。」
文乃は、約束の時間を思い出し、上下田北口のほうへ駆けて行った。
「相変わらずカビ臭い街だな。」
北口を抜けるとすぐに空の光は40%未満になる。約60メートルほどの建物が所狭しと並び、その隙間には戸籍すら存在していないのでは疑うような人物たちや、何やら怪しげな取引をしている人物たち、もはや野生での人間の世界に慣れ、陰で休息をとる外来種であろう動物たち。
この場所は奥に行くほど治安が悪くなり、警察の手が届きづらくなる。
文乃はその隙間の中でもきれいそうな隙間をするすると抜けていった。