ダーク・ファンタジー小説
- 『伽藍堂の花手水』 ( No.27 )
- 日時: 2021/02/23 18:12
- 名前: 厳島やよい (ID: l/xDenkt)
『夜』
流れ星が、
うつくしく、
うつくしく、
うつくしく、
うつくしく、
うつくしく、
うつくしく、
うつくしく、
消えていく。
2018.6.27
***
『ひとり』
「くだらない、じつにくだらない!」
朝焼けに染まる窓の向こう、空の薄ら青いてっぺんすれすれを飛んでいきながら、大きなカラスがさけびました。
その声は、笑っているようにも、涙をこらえているようにも聞こえました。
「だがしかし、それがとてもいとおしい!」
ぐわああああ!
空も木々も、鉄塔も、田んぼの水面さえ、びくともしませんでしたが、その叫び声は、ちいさな女の子の心をたしかに震わせました。
きょうもわたしたちは、わたしたち一人ひとりがかけがえのない大切な存在なのだと、勘違いをしながら生きていくのです。
「がんばらねえでがんばれよ、じょうちゃん!」
2019.6.4
***
『The dawn』
夜が明ける。
闇はしずかに遠くへ散って、そのまっくろい瞳を、そうっと閉じる。
だれかが目覚めるたび、ひとつ、ふたつ。
だれかの声で、みっつ、よっつ。
光にゆられて眠りにつく。
2019.3.30
***
『I am ■』
「きみはわからなくていいんだよ。わかっちゃいけないんだ、こんな気持ち」
今のわたしにとっては、ずーっと、ずーっと昔のこと。
いろんな人の気持ちを知りたいと、神様にお願いしたことがある。なぜかは覚えていないけど、あのとき、とても悲しくて、むなしかったことだけはよく思い出せる。
長い長い時間をかけて、その願いは少しずつ、叶おうとしている。
お母さん。
お父さん。
おともだち。
せんせい。
あのとき大好きだったひと。
あのとき大嫌いだったひと。
わたしによく似たあのひと。
わたしにちっとも似ていないあのひと。
彼らの気持ちが、この、大きくなった手のひらにとるように。少しずつ、わかるようになってきた。
よかったねと、ちっちゃなわたしは笑って言う。でも、大きくなったわたしは、頷いてあげられなかった。
ちびちゃん、どうしてだと思う?
なんて、ごめんね。そんなこときいたって、わからないよね。
きみはわからなくていいんだよ。
わかっちゃいけないんだ、こんな気持ち。
『I am U』
2019.1.28(タイトル:2021.2.20)
***
『夜凪の街』
潮のかおりが沈む街。
あなたの指先の煙、細くまっすぐ立ち昇る。
水平線の瞬きは、空から落ちたおほしさま。
だからこの街の夜空は、いつだって暗いの。
割れた白い月だけ、きょうもふたりを見下ろしている。
もう眠りなさい。遅いから。
2018.6.29
***
『かなしくて、やりきれない日は』
たくさんたくさん泣きなさい。我慢なんてしないで、思う存分泣きなさい。ずっとあなたを抱き締めているから。その手を離しはしないから。
一度この世に生まれてしまった悲しみは、きっと死ぬことがないし、消え去ってくれることもないけれど。涙が溶かして薄めてくれるのよ。
だから、たくさん泣きなさい。
そしてその分。
遠い未来でもいいから、たくさんたくさん、笑いなさい。
2018.8.11(タイトル:2021.2.20)
***
『もしも生まれ変わったら』
もしも 生まれ変わったら
ぼくは 花になりたい
春をよろこぶ さくらになりたい
秋をいろどる ばらになりたい
ほどよく あったかいのが 好きだから
もしも 生まれ変わったら
ぼくは 空になりたい
大きな雲を浮かべる 青空になりたい
いっぱいの星を包む 夜空になりたい
そしたら 何度だって きみと見つめ合えるから
もしも 生まれ変わったら
ぼくはやっぱり 猫になる
やわらかい毛並みの まっしろな猫になる
でも まっくろなのも すてがたいなあ
そしたら 大好きなきみの膝の上で また眠るから
『もしも生まれ変わったら:人に恋をした猫のはなし』
2021.2.21
***
※年月日:書いた日
花手水:
寺社の手水舎や手水鉢に、色とりどりの花を浮かべる飾りつけのこと