ダーク・ファンタジー小説

Re: 人畜無害な短編集 ( No.4 )
日時: 2020/08/18 18:00
名前: 神崎慎也 ◆bb6OCCHf8E (ID: .BPVflqJ)

タイトル「自撮り防止機能」


 リサイクルショップ。主に中古の商品を取り扱うお店だ。電化製品や家具なんかの他にも何やら用途が良く分からない商品が並んでいるのが一部の客の心を鷲掴みにしているという側面も持つ。
 大学2年生である伊藤 煉(いとう れん)もその一人。
 彼は決して授業をサボっている訳ではなく、午前中の早い時間に授業が終了したため来店しているのだ。
 しかし別に授業が早く終わらない日は来ないという訳でもなく、週に1回は必ずこの店に顔を出している常連だった。  
 特に目的の品がある訳ではない。寧ろ、目的の品が無くてもふらっと立ち寄ってしまえるのがリサイクルショップの利点だと考えていた。
 彼がいつものように商品を眺めているとき、あるものが目に留まった。
 「(これって、結構掘り出しものじゃないのか!?)」
 それはレトロなデザインのカメラだった。銀色の金属部分と木材を思わせる茶色の対比が絶妙にマッチしている。そして安い。税込みで1200円。
 煉はたまらずそのカメラを手に取っていた。
 なんだか軽そうな見た目とは裏腹にズシリと重い。
 アンティークのフィルムカメラなのかと色々弄っていると充電式のバッテリーが出てきた。
 見た目に反して性能は新しいものらしい。あまりの安さにワケアリ商品を疑ったが、特に欠陥は見つからなかった。
 何気なくカメラが置かれていた商品棚を見ると、一眼レフカメラ!と大胆に記載している張り紙が張ってあった。しかし、煉が気になったのはその下に書かれた一文
 『※自撮り防止機能付き』。
 「(なんだこれ?自撮り防止機能?)」
 良く分からなかったが自撮りには元々興味が無かったので自分は関係ないとてきとうに片付けた。
 何よりもデザインと性能のギャップに完全に虜になった彼はこのカメラを購入することにした。
 念のためレジの女性に聞いてみることにした。
 「すみません。この自撮り防止機能ってなんなんですか?」
 「はぁ……。ごめんなさい、商品の事は詳しくは把握していなくて、分からないんです……。」
 「ああいえ、大丈夫っすよ。」
 まあ、分からなくても無理はないかとてきとうに返事をして店を出た。
 スマホの時計を確認すると13時を示していた。
 取りあえず腹が減った。目に入った定食屋に行くことにする。
 今が平日の昼間だからなのか定食屋は比較的空いていた。
 生姜焼き定食を注文し、待っている間にカメラを取り出してみた。
 電源ボタンを押すと小型の液晶が光り出す。どうやら充電は意外とあるらしい。
 そうこうしている間にテーブルに運ばれてきた生姜焼き定食にピントを合わせ、試しに一枚撮ってみた。
 ちゃんとしたカメラで写真を撮るのは実は初めてだったのだが画質もきれいで文句なしの性能だ。
 「(帰りにちょっと公園でも寄って行こうかな)」
 煉は昼食にガッつきながらそんなことを考えた。

 
 歩いて10分もかからない自然公園にやって来た。
 此処は砂場やジャングルジムなどが置かれているタイプの公園ではなく、舗装された森林の中を歩ける散歩コースや見晴らしのいい原っぱなどが広がっていた。
 こういう公園の方が被写体探しには向いている。
 カメラを取り出し、全体の風景を撮ってみた。緑色の草木が綺麗に映し出されている。
 その後も煉は昆虫や鳥、石垣や親子の遊んでいる姿など色々なものを撮った。
 しばらく撮影していた煉だったが一息つくために一度ベンチに座り今まで撮った写真を見返していた。そこで彼は思い出した。
 「(そういえば、自撮り防止機能って結局どうやって設定するんだろう。)」
 設定画面を色々操作してもそれらしい画面は出てこない。
 「(もしかして、自撮りをしないと設定できないとかなのか?)」
 そう思った煉は試しに自撮りしてみることにした。
 自分にカメラのレンズを向けて、シャッターのボタンを押した直後、

 

 ベンチから彼の姿は消えた。
 そして、
 
 地面に落下したカメラだけが残された。
  
 【end】