ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも…… ( No.7 )
日時: 2022/01/28 19:29
名前: ぶたの丸焼き (ID: V9P9JhRA)

 5

 キィィイン

 ペリットの周囲の床が光で溢れ、じゃらじゃらと鎖が現れる。
 鎖はペリットの体へ巻き付く。胴体、手、頭。身動きのとれなくなったペリットは、慌てたように暴れるが、光の鎖は、固く、その体を拘束し、離さない。

 光魔法【拘束】

 光魔法は、何も美しいものばかりではない。対象の自由を奪ったり、時には殺めることさえ出来るものもある。
 私が次なる魔法をペリットに与えようとした瞬間、目の前を通った者がいた。

 ザンッ!

 彼は、光の鎖ごとペリットの身体を断ち切った。
「怪我はないかい?」
 黒い肌に水色の瞳と、[ノルダルート]の王族の特徴を持った男がそこにいた。
 怪我をしているかどうかぐらい、この男ならわかりそうなものだ。ノルダルートの王太子、エールリヒ・ノルダン・シュヴェールトなら。
 私たちは跪いた。
「いえ、ありません。ありがとうございました」
 リュウが言った。

 シュウウウウ

 見ると、ペリットが煙を吹きながら縮んでいった。そしてやがて、石となった。
 ≪魔石≫、それは、魔物を倒したことによって得られる戦利品だ。売れば金になる。私の生活費も、殆んどここから得ているようなものだ。ポーション作りの材料になったりする、なんだかんだ言って便利な代物だ。
 そしてもうひとつ、ペリットが出したものがある。
「これは、≪光の御玉みたま≫か?」
 エールリヒが、ひょいと水晶を摘まむと、リュウが顔を青くした。
 水晶と言っても、それは形は石と変わらず、クリスタルと言った方が想像しやすいかもしれない。大きさは人差し指の先から第二関節までくらいだろう。見分け方は、その輝き。他の魔石と違い、御玉は輝いている。
 光の御玉は一言で説明すると、『闇属性からすると最強の殺戮兵器』だ。触れればその部分が大きく腫れ、ほうっておこうものなら皮膚が赤黒く変色し、じわじわと真っ黒に染まり、やがて腐り、使い物にならなくなってしまう。
 ブラックホールに取り込もうものなら、悲惨なことになってしまう。身体が爆発くらいはするんじゃないだろうか。
 私の制止の意味までは、リュウは理解できなかったのだろう。聴いてくれて良かった。間に合って良かった。
「あの鎖は、君が放ったのかな?」
 エールリヒは、蘭に尋ねた。
「え、いや」
 私は蘭を睨めつけ、そういうことにしておくようにと圧をかけた。
「……そうです」
 よしよし。すなおだ。それでいい。
 エールリヒは感動したと言わんばかりに声のトーンを上げた。
「素晴らしい! ブラックホールを使ってはならないと悟り、助けに入るとは。遠目からの判断になるが、タイミングも良かった。見事なコンビネーションだ!」
 そうか、この男は生徒会長も務めているのだった。それで一番大きなペリットのいるここへ、わざわざやって来たのか。
「流石はⅡグループに入るだけあるね」
 エールリヒはにこりと笑った。
 そして、私に気づき、言った。
「君のそのリボン、Ⅴグループだろう? 何故避難しなかったんだ?」
 私のリボンは彼の言う通り、Ⅴグループを表す赤色だ。この学園はグループに分けられ、計五つある。
 まず、Ⅰグループ。ここはいわゆる王族や貴族などが入っているグループだ。待遇されていると言うわけではなく、『天才』と呼ばれる者がこのグループに入っているだけ。天才の血は王族や貴族に取り込まれてきたため、こうなってしまった。ただ、まれに特別変異で生まれた天才もここに入ることがある。色は黄。
 次に、Ⅱグループ。リュウや蘭もここに入る。『秀才』が大多数を占めている。何も勉学だけでなく、剣術や体術に優れた者もいる。二人もそのパターンだ。まあ、頭も良いが。色は緑。
 Ⅲグループはスナタがいる。優等生ではあるが、Ⅱグループに入るほどではないというレベルの生徒がここにはいる。色は青。
 Ⅳグループは、いたって平凡な生徒が入る。特筆すべき事は特にない。色は紫。
 私はⅤグループに入っている。ここには、『その他』の生徒が入る。能力に欠けていたり、異端児として嫌われていたり。いわゆる劣等生。色は赤。
 男子はネクタイ、女子はリボンがこの色だ。男女関係なくどちらかを選択できるのだが、基本こうなる。リュウと蘭はネクタイ、スナタはリボンで、私は両方持っている。今日はリボンだ。
「逃げる間もなく、魔物が襲ってきました」
 Ⅱグループに入るほどの実力者が二人もいるこの場所の方が、魔物がいるとはいえ安全であると判断することに疑問を持つことはなかったようだ。
 私の言葉に納得したようで、エールリヒはふむと頷いて、バサッと生徒会のマントをひるがえし、屋上を去っていった。
 バタンと扉が閉まると、私はため息をついた。
「なぶり殺したかったのに」
 三人はギョッとして私を見た。
 リュウを殺しかけたあいつは、私の手で殺されるべきだった。まず一日かけて瀕死状態のまま生かし、そこから猛烈な痛みを与えつつ殺さず。ゆっくり苦しみながら、殺されるべきだった。
 なのにあいつは魔石から御玉から、全部持っていった。許さない。
「まあ、リュウは無事だったんだから良いじゃない」
 スナタが私をなだめにかかった。
「わかってる」
 でも、それとこれとは別なのだ。

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 コツコツコツ
 スッスッスッ
 僕の靴は音がなるのに、彼女はいつも静かに歩く。
「それにしても、不思議ですね」
「ん?」
「さっきの四人ですよ。笹木野 龍馬さんにあずま 蘭さん。Ⅱグループの二人が、スナタさんはまだしもⅤグループの花園はなぞの 日向さんと関わるなんて」
 エリーゼ・ルジアーダは言った。確かに、Ⅴグループの生徒と付き合うのは、二人にとって良くない。
「なにか彼女に秀でたものはあった?」
 生徒会長だからと言って、生徒の交遊関係にまで踏み込むことが正しいわけではない。彼女と関係を持つことを正当化するなにかがあればと思ったのだが。
「特にありませんね」
 彼女は生徒会が持つパッドを見ながら言った。このパッドには生徒のあらゆる情報も入っているのだ。
「実技試験では、学園総合でもいつもワースト・10には入っています。筆記試験ではそこまで酷くはありませんが、中の下。他を見ても、なんの功績も上げていません」
 彼女の声と同様に、眼鏡の奥にあるすみれ色の瞳は冷たく画面を見ていた。
「彼女は、能力異常だったよね? それはなに?」
 エリーゼは顔を曇らせた。
「それが、載っていないのです」
「え?」
「ロックがかかっていて、パスワードがないと見られないようになっています。しかもそのパスワードも、先生方の誰も知らないもののようなのです」
 何度も見ようとしたのですがと、申し訳なさそうに彼女は俯いた。
「学園長は知っているそうなのですが、教えてくださいませんでした。
 それと、能力異常だけでなく、経歴異常も彼女の入校理由のようです」
「それも見られない、と」
「はい」
 エールリヒは悩んでしまった。
(いったい、彼女は何者なんだ?)

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