ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.100 )
日時: 2021/05/01 07:39
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: yV4epvKO)

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「スナタです。名字は[ナームンフォンギ]の生まれなので、ありません。入学理由は、【意識跳失いしきちょうしつ】、二重人格にちょっとにています。全然違いますけど、そう言われています。えっと、自分の感情が、たまに、自分ではおさえにくくなるんです」
 おれたちのなかでは、スナタが一番『まとも』だ。

 けど、な。

 おれは日向をちらっと見て、日向にしか気づかれない(日向に気づかれないようにすることは、始めから諦めている)ように、ため息混じりに小さく笑った。

 次は、日向だ。

 気持ちを切り替えて、身構える。
 現段階においてでも、日向はとても複雑な事情を抱えている。
 言葉にする情報も少ないし、質問責めに遭うのは、致し方ないことで、容易に想像できること。

 何があっても、守る。

 おれたちの『領域テリトリー』に、足を踏み込ませはしない。

「花園、日向、です」

 日向は話し出した。
 声は、震えていない。動揺も感じない。
 熱の無い、落ち着いた、冷めた口調。

「在籍理由は、精神異常」

 それだけ言って、口を閉じた。
 もちろん、それで納得するわけがない。
「ええっと、具体的に教えてもらえたりは……」
 言葉を濁す。
 日向が嫌いな話し方だ。日向は、はっきりと話す方が好きなのだ。だからおれも、意識している。と言うよりかは、意識している期間が長すぎて、これが普通の口調になってしまった。
 日向は、沈黙した。
「出来ない、か。
 どうしても?」
 沈黙を貫く。

 だめだ。

 日向の精神が、異常の警鐘を鳴らしている。
 わかる。おれたちにはわかる。
 表情ではない、漏れ出る微かな『気』。

「在籍理由、と言いましたね? 入学理由は?」
「なんで知りたいんですか」
 ルジアーダ嬢の質問と被さるタイミングで、日向は言った。
「知って、どうするんですか」

 疑問の音の無い、疑問に見える、拒絶の言葉。

 日向はそこで、言葉を切った。

 まずいな。相手は小国とはいえ次期国王。
 敵に回すのは、日向の意志に、『面倒から避けたい』という意志に、反する。
 その考えにまで至っていないはずがない。

 限界だ。
 ・・・・
「生徒会長」

 おれは、言葉を発した。
 ノルダルート王太子にではなく、バケガクの生徒会長に。
「言葉を挟んでしまい、申し訳ありません」
 まずは、不敬を謝罪する。
「彼女は、他者からの干渉を嫌います。
 生徒会長として、生徒のことを気遣ってのこの行動であれば、彼女へは、逆効果にもなり得ます。
 生徒会長のお心遣いは、とてもありがたいです。それには、感謝の言葉を並べさせてください」
 おれは一度、腰を折った。
「ですが、私は、彼女の友人として、願います。どうか、過度な干渉は、控えてください」
 あまり、家の権力は使いたくない。
 勤めて丁寧に、おれは言った。
 だけど、この人たちが、言葉をつまらせたから。
 この場で、この人たちに対して、もの申す権利を有しているのは、おれだけだから。

「権力を、盾にしないでください。
 日向のそばには、おれがいます。
 大陸フィフスには、現在王も皇帝もいません。
 吸血鬼内で五大勢力とも言われるおれの家系は、大陸内では王族や貴族と同じくらいの権力があります。
 そのことを、決してお忘れなきよう」

 強い口調で、突き放した。
 矛盾だらけのおれの言葉は、かなり、二人にいばらのごとく、刺さったようだった。

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