ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.102 )
日時: 2021/05/01 07:40
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: yV4epvKO)

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「リュウ」
「わあっ!!」
 背後から、急に声をかけられた。
「ここ、図書館」
 日向の言う通り、ここは学園内の図書館。大声を出してはならない。
 それはわかってる。
「おどかすなよ」
 恨めしげに見ることを意識して、日向に言う。
「なんでここにいるんだ?」
「つけてきた」
 ……わざわざ気配を消してまでか?
 言葉にこそしなかったが、おれの目でわかったのだろう。
 日向は唐突に本題に入った。

「薬、まだある?」

 息が、ほんの一瞬だけ、止まった。

「いまも、飲んでるでしょ。魂の異常はあるけど、精神の状態は、いつもよりも安定してる」
 敵わないな、日向には。
「うん、飲んでる。昨日飲んだ」
「何度も言うけど、多用は禁物」
 淡々と、感情の無い声で、日向が言う。
 だけど、わかる。日向はおれを、心配しているのだ。

 くすぐったいような、変な感覚がする。

「わかってる。ちょっと、思考がまとまらなくてさ。気がついたら飲んでた。中毒かもな。はは」
 笑って、ごまかそうとするけれど、喉から出た笑声は、これでもかというほどに、渇いていた。
 日向は眉を潜める。
「無理も、だめ」
 口調が変わった。微かに、強くなっている。
「薬、追加の分、登校再開したら、持ってくる」
 苦しそうに、辛そうに。日向の言葉が、おれの中で、小さく響く。

 日向には、本当に感謝している。
 人は、その場しのぎだと言うだろう。
 人は、薬をに頼るなと言うだろう。
 人は、耐えろと言うだろう。
 日向がおれに与える薬は、おれの身を滅ぼすもの。
 医学的にも、害しか与えない。
 だけど、薬が与える害よりも、『あいつ』が与える害の方が、おれにとっては、耐え難いものなんだ。
 日向は、それを理解してくれている。
 だからおれに、薬を与えてくれるのだ。
 その場しのぎでも。
 苦しくても。
 辛くても。
『おれにとっての』最善を。
『おれが望む』、結果を。

 日向はおれに、与えてくれる。

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