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ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.104 )
- 日時: 2021/05/01 07:41
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: yV4epvKO)
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「あっ、あノ、エっと」
あわあわと身振り手振りで盗み見と盗み聞きをした理由を説明しようとして、辛うじて腕のなかに留まっていた本も、足下の本の山の一部と化す。
「あああああ」
この子は、何をやっているんだろう。
拾っては落とし、拾っては落とし。その繰り返し。
さすがにきりがないと、おれが手伝うために歩みだそうとする直前に、日向が動いた。
まっすぐに、彼女のもとへ。
「え」
思わず、声が出た。
日向が誰かのために行動するなんて、いままでなかったことだから。
「えっあっあっ」
驚いたように、怯えるように、あたふたと両手が動く。
無理もない。日向のことは、学園のほとんどが知っている。人殺しと関わるなど、嫌なのだろう。
いつだって、そうだ。
ぐっと唇を噛みしめ、おれも彼女のそばによって、しゃがむ。
「大丈夫?」
さらに顔を赤くしている彼女は、声を絞り出して、答えた。
「はイ! あっアのっあのっ」
「気にしないで。
もし話しにくかったら、自分の国、大陸の言葉で話してもいいよ?」
女の子は、目を丸くした。
「言葉が」
わかるのか、と、訊きたかったのだろう。
「あなたは」
しかし、日向の声に遮られた。
「本の扱いが、酷い」
あくまで冷たく、なんの温度も感じない声で、日向は言う。
そうか、本だ。日向は本のために行動しているんだ。
それもそうだ。面倒くさがりの日向がおれたち以外のために動くなんて、そんなこと、あり得ない。
あるとすれば。
「本は、歴史そのもの。歴史を粗末に扱うことは、神への冒涜」
抑揚のない声なのに、行動だけは妙に感情があって。
「神を敵には、回さない方がいい」
吐き捨てるように、呟いた。
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